参、陰陽寮
そうして元服を終えた青斗は、立派な大人の一員として陰陽寮で働き始めることになった。
陰陽寮では、
それぞれの道の専門として統括する博士がおり、その下につきそれぞれの道を学ぶ学士、そして庶務全般を行う
普通は最初、庶務を行う使部や直丁に就くのが一般的であるが、青斗の力がどれほどのものかということが寮内に知れ渡っていたのか、いきなり天文学士に就くことになった。
天文道では、天文の異常(今で言えば月食や日食、彗星の飛来など普通では見られない現象のこと)を天文書に基づき博士が良いものか悪いものか判断し、その結果を奏上するのが仕事であった。主な四つの仕事のうち天体観測を担う場所である。しかし天文書は博士のみが見られるものであったため、学士は異常がないかを見るのがほとんどの仕事であった。
当の青斗本人は、自分の力が認められているのだと嬉しくなる一方、天文道が陰陽寮の担う仕事のうち最も難しいものだと聞いていたため不安でいっぱいでもあった。
仕事自体は夜中にするため、午後からの出勤がほとんどであるらしい。明るい間に、天文書ほどではないが天文の異常がどんなものであるかがまとめられた書を読み込み、夜は他の学士や博士とともに外で星を見る。目が悪くならないようにしないとな、と青斗は思った。
青斗が初めての学士としての仕事を終え、家に帰る頃にはもう辺りが薄明るくなってきていた。目を凝らして星の異常がないかを確認する作業。ずっと集中を最大出力でしていなければならなかったため精神的にも、そしてこんな夜中まで起きていたことがなかったため身体的にも、青斗はどっと疲れてしまった。
初めての朝帰り。家に着いた途端、気が抜けて玄関で眠気に倒れそうになる。いけないと思い頭をぶんぶんと振りながら、へろへろの声で「ただいま」と言い、食事を摂る間もなく自室へ真っ直ぐ戻り、そのまま
青斗の父は、帰ってきた気配はあったが何も言わない息子を少々心配しながら、彼の部屋を覗いた。見ると仕事に行った服のまま、心地よさそうにすうすうと寝息を立てている。どうしようもなく疲れたのだなと微笑ましく思い、自然と起きるまでは寝かせてやろうと身を
昼前、ときはが青斗の家へやってくると、この時間普通は稽古で庭先に出ている姿が見えずにどうしたのだろうと不安になる。久しぶりに玄関から上がらせてもらおうと表に回り、こんにちはーと大声を張った。
「あら、ときはちゃん。どうしたの?」
「青斗は?」
「部屋でまだ寝てるわ」
「……こんな時間まで?」
「仕事で疲れたみたいね。起こしてあげたらいいんじゃない?」
「……じゃあ、お邪魔します」
「……青斗?」
几帳の隙間から部屋の中を覗くと、
とりあえず、起こしてあげてと青斗の母に言われたのだから起こしてあげよう。几帳の間を抜けて部屋へ入り、とんとんと肩を叩く。
「青斗、起きて。もう昼だよ」
「……」
「青斗」
少し強めに叩いても、ゆさゆさと揺すっても起きる気配がない。ときはは少しむすっとしたように眉間にしわを寄せ、耳元で大きく青斗の名前を呼んだ。
「あおと!」
「っ、うわっ!」
青斗は体をびくっと跳ねさせて叫ぶと、茵からごろごろと外へ出た。
「と、ときは……」
「まったく。言っとくけど何回起こしても起きない青斗が悪いからね」
「ええ」
「いろいろ言わない!」
「ごめんって」
「……ねえ、仕事の話聞かせてよ」
「陰陽寮での?」
「うん。それでチャラにしてあげる」
「チャラって……まあいいか、ときはにたくさん話したかったんだ」
「聞かせて聞かせて」
前のめりになるときは。楽しみにしてくれていたんだろうなと微笑みながら、青斗は夜中の勤務の話をし始める。
「午後からの出勤だったんだけど、明るい間はずっと書を読んでた」
「どんな書?」
「僕たちの仕事は星とかを見ることで、星がどんな風なら『変だ』ってなるのか、みたいなのが書いてあるやつ」
「へえ……覚えなくちゃいけないんでしょ?」
「うん。夜、書を見ながらっていうのは星から目を逸らした瞬間にその星がどこにあったかすら分からなくなってしまうし、そもそも暗くて文字もあまり見えないからね」
「……確かに」
大変そう、と眉尻を下げるときはに、でもねと言う青斗。
「先輩たちは優しかったし、博士も『慣れないだろうから休みながらやるんだよ』って言ってくれたんだ。あー……それでも結構疲れたけどね」
「こんな時間まで寝てたんだもんね?」
「ぐっ……その通り」
あはは、と苦笑する。その時くう、とお腹が鳴った。
「あ……ごめん、お腹空いたみたいだ」
「ふふ。みそら様に言ってくる?」
「僕も一緒に行くよ。ときはも一緒に食べていったら?」
「それは悪いよー、見届けたら帰る」
「かあさまが帰さなそうだな」
二人は顔を見合わせて、あははと笑い合う。結局この後、青斗の母はときはの分も
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