晴れのち晴れ 一般通行人(相棒)
湿っぽくも涼やかな梅雨を抜け、じりじりと肌を焼き殺そうとする夏に入った。
目を潰すほど輝かしい太陽は歯を見せて嘲り笑い、それを引き立てる青い晴れ模様が広がっている。あの雨に当たるには、また一年待たなければいけないことに、多少の苛立ちと諦めを絡めた溜息を一つ吐く。
あの日以来、例の横断歩道に行く回数が増えたが、その度にあの少女を必ず見かけた。ある日「いつもここにいるのか」と尋ねてみると、少女は肯定も否定もせず、何も感じさせない微笑みを向けるだけだった。
僕は何となく、それが癪に触った。
今週が始まってから六日目の放課後、特に用事もなければ素直に家に帰る気もない僕は、二週間ぶりにあの横断歩道へ、なんとなく足を運んだ。
どうやら、少女は今日も来ていたようで、お馴染みの真っ青なワンピースを着てそこにいた。七月に入ってからは毎回このワンピースだ。六月は白のワンピースだったっけ。でも、いつも同じ水色の傘をさしていた。
少女は今日も僕に向かって微笑む。いい加減見飽きた表情だ。そういえば、この微笑み以外見たことがないな。何か呪いか、はたまたよくできた仮面でも被っているのか。まぁ、どうでもいいのだが。
他の表情はできないのかと聞くと、笑顔を崩さず微笑む。また、不思議と癪に触る。
特に何を話すわけでもなく、僕等は日差しから逃げて風を待つ。だが、夏の日差しは日陰にいようが蒸し暑さをじりじりと感じさせ、それに畳みかけるように風もない。汗で髪や服がまとわりついてくる。額から流れる汗が目に入って痛い…不快だ。だが、こんなアレと比べれば、この不快さなどかわいいものだった。
今は七月の中旬、もう少しで夏休みに入る。そんなことを考えながら隣を見ると、あいつは汗一つかいていなかった。
こいつはもしかしたら発汗作用が悪いのか?でも頬は赤くなってない。いや…もしかしたらこいつは人ではないのかもしれない。幽霊なのかもしれない。またはエイリアンかもしれない。または人造人間なのかもしれない。または少女の皮を被った恐ろしい化け物かもしれない。または天使かも悪魔かもしれない。または人間に扮している妖精かもしれない。はたまた魔女かもしれない。…などと思考を巡らせていると、この少女が恐ろしく思えたり、少し可愛らしく思えたりなどした。
ただ一つわかるのは、少女は僕とは反対に、晴れ間空が好きということだ。
決して少女が自分から言ったわけではない。そもそも少女の声も知らない。…いや、前聞いたような…?数週間前の記憶を思い出そうとするが、その時の記憶だけ雑音にかき消されたように感じた。変な違和感を覚えたが、面倒な予感しかしなかったので僕は思考をやめた。
話を戻すと、晴れ間空を黙って見つめる少女の目はどこか嬉しそうで、漆黒の中に空の青を写していた。黒の中に混ざる青は、深淵のような色になり、少しの爽やかさを漂わせては霞む。
その目は少し、綺麗だった。
未だに、この少女はよく分からない。
言ってみれば正体不明だが、癪に触る存在である事に変わりはない。
それでいいだろう。
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