第33話 水族館デート その二
新薬を飲んでから四日。
科学の授業中に、それは突然起こった。
お守りが光輝き、
お守りからガスのようなものが沸き立ち、具現化していく。
「何やっている! 怪間!」
南十先生は怒っていたが、僕にはどうすることもできない。
「分かりません。俺にも何が何だが……」
光が収まると、そこには死に装束を着た花子さんが、否――愛香さんがいた。
「花子さん!?」
「うーん。お久しぶり、怪間くん」
そう言ってニコリと笑う花子さん。
「きちゃった♪」
「きちゃった♪ じゃないよ。なんで?」
「色々と大変だったの」
花子さんは嬉しそうに飛び回る。
安藤がぽかーんとした顔を浮かべ、そのあとに噛みついてくる。
「こ、こんなの許せるか! さっさと成仏させろ!」
怒りに身を任せる安藤。
「成仏したいのだけど、心残りが産まれたの」
花子さんはそう言い、僕のすぐ傍に降りてくる。
そして頬にキスをする花子さん。
「「「「なっ!?」」」」
絶句するみんな。
「ちょ、ちょっと。マズいよ!」
僕はそう言い、花子さんを引き連れ、教室を出る。
「待て。怪間!」
後ろから南十先生の声が聞こえてくる。
でも聴いている場合じゃない。
僕は急いで階段を上がり屋上に出る。
「なんでまた、急に」
「だって時間が早く会いたかったんだもん!」
もん! って可愛いかよ。
「さ。デートしよ?」
花子さんは首をかしげて僕を見やる。
「……分かったよ。ただし、放課後な」
「えー。怪間くんのいけず」
「こら、何をしている。怪間」
追ってきたらしい南十先生が割ってはいる。
「じゃあ、放課後ね」
そう言ってお守りの中に消える花子さん。
「ちょっと来い」
南十先生は顎で指し示すと、僕と一緒に指導室へ向かう。
「花子さん。帰ってきたのか?」
南十先生が少しトーンの高い声で訊ねてくる。
「はい。みたいです」
「そうか。良かったな」
「……っ! はい」
この先生は素直に生徒のことを喜べる力量を持っている。
「さ、授業だ。あんまり目立つことはするなよ」
「分かっていますって」
僕はそう言い、教室に戻った。
色と花古は苦笑いを浮かべており、陰キャと陽キャが激しく嫉妬していた。
やれやれとばかりに首を振り、自分の席に座る。
放課後。
僕は花子さんを起こし、水族館へ向かった。
「花子さん、魚好きそうだし、いいでしょ?」
「うん! わたし、魚好きなの~♪」
テンションの上がった声を聞き、こちらまで嬉しくなる。
水族館【
花子さんを引き連れ、水族館の中を見て回ることにした。
「ハナミノカサゴだ! おいしいかな?」
「そいつは毒をもっているんだ。食べられないかもね」
「そっか。残念……」
熱帯魚コーナーを一通り周り、海の生き物展に行く。
バカでっかい水槽があり、その中を優雅に泳ぐエイやサメ、マイワシ。
「マイワシだ! おいしいかな?」
「おいしいだろうね。ちなみにこういった水槽ではたまにサメとかに食べられることがあるそうだよ」
「え! 食べちゃうの!?」
「そうそう。だからたまに補充をして誤魔化しているみたい」
「へぇ~。面白いな~」
山本さんにはできなかったことを僕は披露している。
そのお陰か、花子さんの顔色は少し赤い。
「あ。これ……」
海の生き物を見終わったあとに、見たのはクラゲの水槽。
ぷかぷかと浮いている姿に癒やしを感じる人も多い。
「いいよね。クラゲ。身体のほとんどが水分らしいけど」
「へー。こんなに綺麗なのに」
半透明な身体に、ライトが点滅するようにピカピカと光っている。
「そう言えば、出たんだよ」
「出たなにが?」
お昼休憩のために立ち寄った飲食コーナー。
そこで僕と花子さんが注文を終えると、僕は切り出していた。
「トイレの花子さん。あの凪紗さんが学校の三階に出たんだ」
「そうなんだ! 今度会いに行こう」
「そうだね。一人は寂しいもんね」
「うん!」
深々と頷くと、注文していた料理ができあがったようだ。
僕は鯛飯。花子さんは漬け丼。
どちらも新鮮な魚を利用していることを売りにしている。
食べ始めると、花子さんは嬉しそうに呟く。
「いいな。こうして怪間くんと一緒にいられるの」
「そうか。花子さんと一緒にいられて俺も幸せだよ」
「俺? 僕じゃなくて?」
「いいだろ。少しはかっこつけさせろ」
「はいはい。それにしても花子さんって。本名知っているでしょ?」
「あ、愛香……」
「そうそう!」
顔が熱くなり、恥じらいつつも、なんとか声にする僕。
「やっぱりダメ! 花子さんで行く」
「えー。まあ、すぐには無理、か……」
おとがいに手を当てて考え込む花子さん。
「じゃあ、今度から愛香て呼んでくれたら素敵なご褒美を上げる」
「ご、ご褒美? な、何?」
「それはひ・み・つ!」
ふふふと妖艶に笑う花子さん。
元気はつらつとしており、明るい笑みを絶やさない彼女にすっかり惚れこんでいた僕。
可愛いと思ったのだ。
「えへへ。じゃあ、イルカショーでも見る?」
「そうだな。せっかくだし」
僕は腰を上げて、食器を返却し、イルカショーのあるステージへと向かう。
その途中でも愛香さんと会話をし、楽しんだ。
《前方に座ると水しぶきがかかることがあります。お気をつけくださいね》
アナウンスが鳴り、僕は中断くらいに座る。花子さんも隣に座る。
「楽しみだね♪」
「ああ」
僕が頷くと、イルカショーが始まる。
笛の合図に従いイルカがジャンプや水上を駆け巡る。
途中で
イルカの上に人が立って水上を走る姿は格好良くて真似したくなった。
《さあ。最後に水をかけてほしい人!》
それで手を上げるのは僕の前の席にいた少年。
《いっくよー!》
イルカが尾ひれを器用に動かして、バシャバシャと水を浴びせてくる。
少年にはかからずに、僕が全身で受け止めてしまう。
《あら! ごめんなさい!》
慌てている様子の係員。
「大丈夫ですよ!」
笑いながら答えると、ホッと一安心する係員。
イルカショーを終えると、鷹を操っていた係員が駆け寄ってくる。
「こちら当店、限定のTシャツとズボンになります。良かったらお着替えください」
そう言って、差し出された衣服。
「いえ。本当に大丈夫なので」
「で、でも……」
「いいからもらっておこうよ。怪間くん」
ニコリと笑う花子さん。
「ええ。是非!」
係員が明るい顔になる。
それで罪悪感を打ち消せるのなら、いいか。
「分かった。ありがとうございます」
そう言って受け取ると、僕はトイレに向かう。
もちろん花子さんもついてくることになる。
ちょっと恥ずかしいが、花子さんには後ろを向いてもらい、トイレで着替える。
「そう言えば、トイレで出会ったね」
「そうだね。だって《トイレの花子さん》だもの」
「今は違うね」
「うんうん。でも怪間くんは《トイレの花子さん》が好きなんだもの。それでいいじゃない」
すっと嬉しそうに目を細める花子さん。
「わたし、トイレの花子さんとして産まれて良かったと思っているよ」
「そうか。そうだな」
乾いたTシャツに頭をこすりつけてくる花子さん。
「撫でて」
分かったよ。たく、甘えん坊だな
苦笑しながら、僕は花子さんを撫でる。
トイレの花子さん、俺にデレデレなのだが?
これでいい。これが最高だ。
一方その頃、新たなトイレの花子さん……もとい凪紗さんは。
「へっくちょん」
盛大にくしゃみをしていた。
「なんだか、噂話をされているみたい。でも、アタシの活躍はいつになったするのよ!」
怒りを露わにする凪紗さんだった。
完
トイレの花子さん、俺にデレデレなのだが? 夕日ゆうや @PT03wing
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