第32話 愛、ヒロインたち。
花古side
私はバカだった。
花子さんがいなくなれば、その代わりに怪間くんのそばにいられると思った。でも違った。花子さんがいなくなれば、私との関係も崩れてしまう。
離れた距離を埋めるのは難しく、とても大変なことだ。
それでも傍にいたい。
そう思えるのは怪間くんの素直な人柄に惚れたからに違いない。
惚れたのだからなんでもかんでも助けてしまいたくなる。
そこでもたらされた最後の可能性。
怪間くんの保護者・朱子さんが開発した新薬。それにより怪間くんは花子さんのあとを追うという。
そんな無茶をしてまで花子さんと会いたい。もう一度、と。
これが愛なんだ。
これが彼の選択なんだ。
そう思い、私は苦笑した。
私が好きになったのは諦めの悪い、愛に生きる男だった。
だから私も彼の助けになりたいと思い、二日間の世話をすることにした。
生きていく。
そのために恋愛など不要だと思っていた。
でも違った。
恋愛をすることで今まで見てきた世界が一変した。
本来嫌っていたはずの怪異が怖くなくなった。
父の変わり果てた姿を見て、怖気が走り、気持ち悪さを覚えたものだが、今の自分は違う。
花子さんと怪間くんの二人を見ていると、怪異は必ずしも人に不幸をもたらすものではない。
ゴーストバスターズに入ったのは12の時。それからずっと父の陰を追って生きてきた。
寡黙で静かな父とは違う怪間くん。でもその陰に父の姿を求めていたのは、間違いない。
怪間くんは花子さんを救うと言う。
ならなんで私は助けてくれないの?
そう思ってしまった。
彼に依存しているのかもしれない。
彼なら私の気持ちを察してくれると思った。
花子さんとうまく行かずに帰ってきた。
それを知り、すーっと溜飲が下がり、喜んでしまった自分がいる。
怪間くんはこんなに落ち込んでいるというのに。
でも、そんな彼を見て、私は屋上に呼んだ。星々を眺めていれば、少しは紛れると思った。
そんな怪間くんは一本の電話ですっかり顔つきが変わった。
赤羽根さんと言ったか。
怪間くんにとって赤羽根さんはとても信頼のできる人だった。
私ではないのは悔しいが、それでも元気を取り戻した怪間くんを見て、一安心した。
これで今度こそ、私に振り向いてもらえる――そう思ってしまった。
私は悪い奴だ。
卑怯な奴だ。
自分の気持ちを伝えずに、怪間くんに察してもらおうと思っている。
怪間くんのように素直に自分の気持ちを伝えるべきなのだ。
そうでなくてはただの卑怯者だ。
分かっている。
だから翌日、屋上へと呼び出した。
そしてバクバクとうるさく鳴り響く心臓を抑えて、怪間くんに告白した。
「好きです。付き合ってください」と。
たぶん、気持ちは伝わったはず。
でも、怪間くんは困ったように頬を掻き、苦笑する。
「参ったな。二人目か」
意味ありげに呟く。
「でも今の俺は付き合えないよ」
そう返事を受け取った。
でもそれでいい。
今はまだそう見えないのなら、この告白を持って意識させればいい。
私に振り向いて。
私に気がついて。
それで私が満足するのだから。
「そう。なら私が女の子だって意識させてあげる」
「……そっか」
またも困ったように呟く彼。
でもそんな顔も私は好きになっていた。
だって可愛いんだもの。
彼は自分を格好良く見せたいみたいだけど、童顔で笑顔がくしゃっとしていて、そんな彼は可愛い部類に入ると思う。
恥ずかしくて面と向かっては言っていないけれど。
でも女の子が男の子に言う『可愛い』は特別なんだと知ってほしい。
それに私はそんなに『可愛い』を言う方ではない。
一人教室にいた私に話しかけてくれた彼。
友達になってくれた彼。
そんな彼と一緒にこの先も歩めていけたのなら、どんなに幸せなのか。
だから私は意識させる。そのために努力をする。
まだ、私は諦めていないのだから。
▼▽▼
色side
8歳の誕生日、あたしは友達に怪異だと知られてしまった。
都市伝説の一種。座敷童の色。
あたしはその友達に気持ち悪がられてそれ以来話していない。
その噂は学校中に伝わり、一夜にしてあたしは居場所を失った。
見かねた父と母は別の学校へ転校させてくれた。
持っていたアパートを売り払って賃貸を借りたのだ。
そんな両親の愛情を受けて、育ったあたしはいつの間にか恋をしていた。
怪間くん。
初恋だった。
彼は怪異であるものを受け入れ、仲良くできる力がある。
あたしのこともきっと受け入れてくれる。
そう思って話しかけた。
どう話していいのか分からず、安藤と一緒に話してしまった。
一生の不覚。
恥ずべき行為だったと知る。
安藤は怪間くんのことを目の敵にしていた。
勉強ができ明るい怪間くんに嫉妬していたのだろう。
あたしは気がついた。
怪間くんは他の人と関わりを持つのを躊躇っていることを。
でも「なぜ?」と問うことはできなかった。
今になって思う。彼もまた何かを抱えていたのだ。
アパートに行き、家族がネコのアケビだけだと知り、両親の陰がない彼に哀れみを感じていた。
でもそれは違った。
彼は一人でも必至に生きてきた。
必至に花子さんの手を握ろうとしていた。
必至な彼を見ていて思った。
こんなに熱い人がなんで一人で食事をしていたのか。
なんで一人でいるのか。
あたしはそんな彼の傍にいたいと願うようになった。
ずっと傍にいて暖めてあげる、と。
彼となら良い未来が築けると思った。
そこには一点の曇りもない。
あたしは怪異すら恐れない彼の精神を素敵だと思っていた。
女の子の言う「素敵」は特別な意味を持つ。
だから告白した。
「好き。一生そばにいたい!」
そんな告白に困ったように頬を掻く彼。
「弱ったな。俺はまだ誰とも付き合うつもりはない」
そう言ってふったけど、《まだ》の言葉に疑問を持った。
「まだ、ってことはいつかはオッケーになるのかな?」
そう問うていた。
「ま、まあ。でもあんまり期待しないでくれよ」
そう言って断る素振りを見せるが、どこか悲壮感を漂わしていた。
あの新薬。それを飲んで帰ってきてから少し様子がおかしかった。
今思えば、まだ花子さんへの未練が残っていると知った。
怪間くんには座敷童であることを教えている。
それでも態度は変わらなかった。
少しうっとうしそうに言うが、彼は怪異自体を嫌いな訳じゃない。
笑みを浮かべて受け入れてくれた。
それが嬉しい。
それがあたしの気持ちを救ってくれた。
友達になってくれた。
それだけでも良い。
できれば一番目の女になりたかったけど、二番目でもいい。
花子さんのことを忘れさせることはできないけど、でもあたしは彼を慰めたい。
そう思えてしまった。
いいなーと思った。
彼の子なら産める。
そう思えた。
これは恋なのかな。
でもあたしはバカだった。
怪間くんを救えるのは彼女だけ。
最後だと思っていた彼女はまた再び怪間くんへと接触を図った。
羨ましい。妬ましい。
でもそれだけなら安藤と同じなのだ。
あたしは怪間くんを思っているから。彼女の愛は大きいから。それでいい。
あたしは本当の愛というものを見せつけられた。
夜の星空の下、彼は執着という言葉を使っていた。
でも違うよ。
怪間くんと花子さんは確かに純愛を貫いていた。
だからあたしは応援した。身を引くことを覚えた。
こんなあたしでもまた恋ができるかな。
分からないけど、きっと未来は明るいから。
負けじと生きているから。
だからもう少しだけ、彼の傍にいさせて。
お願い。
もう我が儘言わないから。
友達として、でもいいかな。
だからあたしは怪間くんに振り向いて欲しい。
今はそれでいい。
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