第15話 シャワー
死後の世界ってどんなんだろう。
俺には分からない。
成仏できない魂がこの世にはある。それが分かっただけでも収穫だったのかもしれない。
でも、俺はまだ諦めていない。
彼女らには楽しい思い出を作り、成仏してもらうべきなのだろう。
俺は花子さんの成仏を願っている訳じゃない。ただ、一緒にいたい。ずーっと一緒に。
それだけなのに、なんでこんなにも離れてしまうのか。
なぜこんなにも遠いのか。
俺は花子さんのいた家を訪ね、そして今また埋め立て地にいる。
探しているものは依代。
それがあれば花子さんは生きていける――いや生きるとは違うのかもしれない。でも、彼女が幸せになるにはそうするべきだと思う。
俺は花子さんを幸せにする。
そんな男になりたい。
女の子を幸せにするのは男の務めだ。イケメン条約にも書かれている。
やはり赤羽根師匠は偉大だ。
ゴミの中から彼女につながりそうなものを探す――と。
「ん。これは……」
俺が上げたお守りが出てきた。トイレの給水タンクの奥から。
「いやー。ようやく外に出られたよ」
頭を掻く花子さん。
「花子さん!!」
俺は飛びつこうとするが、するりと身体を抜けてしまう。
「あれ。怪間くん。久しぶり!」
こちらの気も知らずに、元気いっぱいのあいさつをする花子さん。
「なんだか、ずっとねていたんだよね。わたし」
恥ずかしそうにもじもじとする花子さん。
周りで一緒になって探してくれていたゴミ集積所の方々が青い顔をしている。
「そうだ。帰ろう?」
「うん? ってここどこ?」
花子さんが目を丸くして訊ねてくる。
「ゴミ集積所だよ。キミ、捨てられていたんだ」
「そ、そんな―!」
花子さんは嘘でしょと訴えかけるように呟く。
「わ、怪間くん匂う」
「え。あ。ごめん」
俺は電車に乗り三つ目の駅で降りる。
電車の中ではみんなに避けられたけど、それも仕方なし。ゴミあさりをしていたのだから匂いもするか。
でも花子さんを見つけられたのだ。これは大きな収穫だ。
帰り道、花子さんを起こすと、俺はるんるん気分で自宅に向かう。
「ただいま」
ネコのアケビが叫びながら部屋の端っこで震えている。
それは俺の匂いのせいか、あるいはお守りに込められた花子さんの影響か。
真実は分からない。でも俺たちは成し遂げた。
花子さんを救うことができたのだ。
台所に花子さんのお守りを置くと、着替えを始める。
「え。ええ。ちょっ。ちょっと!」
「あ。ご、ごめん!」
くるりと反転し、気を遣う花子さん。
「み、見ていないよ! だから着替えて」
「ありがとう」
そう言って着替えを洗濯機に入れる。
そしてシャワーを浴びる。
「いい筋肉しているね。鍛えているの?」
ドア一枚を隔てて聞こえてくる声。
「うん。まあ、僕は何もできないから。せめて筋トレだけでも、って」
「ふーん」
関心がそがれたような声音に不安を覚える。
シャワーを浴び終えると、俺は更衣室に行き、着替える。
ジャージ姿になった俺に興奮気味の花子さん。
「わぁあ。似合っているよ!」
学校指定のジャージなので、あまりデザインはよくないのだが、それでも褒めてくれる花子さんが可愛くみえる。
「そ、そうかな?」
「デレデレしちゃって。まったく」
「うわおう! びっくりした。色さんか」
「ふふ。知らないかもだけど、あたしは座敷童。どの家にもで現れる事ができるのよ!」
ビシッと指を立てる色さん。
「あー。そうだったな。忘れていた」
「これからも、二人の関係を見守ろうと思う」
「そ、そんなの困るの!」
慌てふためく花子さん。
「でも今日も学校をサボっていたみたいだし。実際、花子さんのせいで怪間くんの評価が下がっているし」
「そ、そんな……!」
愕然とした様子の花子さん。
あー。まずいことを知られたな。
「そのまえに、このお守りを洗っていいか?」
「マイペースか!」
色さんがツッコむが、別にボケたつもりはない。
水洗いをすると、花子さんが嬉しそうに目を細める。
「なんだか、わたしの一部が綺麗になっていく」
なんかエロいな。
綺麗になったお守りを、今度は綺麗で乾いたタオルで拭き始める。
「なんだかくすぐったいの」
やっぱりエロい。
花子さんは意外とエロいぞ。これは良い発見だ。
妖艶で可愛い。なんて最高なんだ。
お守りを吹き終えるとあとは自然乾燥させようと、リビングにある机の上に置く。
それに引っ張られるようにして移動する花子さん。
「えへへへ。これから怪間くんと一緒にいられるんだ~♪」
嬉しそうに呟く花子さん。そんな彼女が可愛すぎて、俺は抱きしめたくなったが、実体化してくれないからな。
抱きしめられないじゃないか。
「あんたたち、そんなに好きなのに、なんで言わないのかな?」
こめかみに指を当てて青筋をピクピクと動かす色さん。
「お、俺は花子さんのことを、騎士堂愛香を好きだぞ!」
「……! わたしの名前! 知っているの?」
「ああ。俺は花子さんが好きだ」
「……嬉しい。わたしも好きよ」
実体化した花子さんが俺に抱きついてくる。
こんなに人から好かれたのは初めてかもしれない。
それが嬉しくてたまらない。
アケビは相変わらず、端っこで怯えているが、そのうち慣れるだろう。
「でも、これでトイレの花子さんじゃなくなったね」
「そうだね。これからは【もとトイレの花子さん、俺にデレデレなのだが】に改名しないとね!」
なんの話だ?
俺たちの物語に誰かが名前をつけているみたいじゃないか。
そんなのは断固として認めない。
「こんなにイチャイチャしておいて、あたしにどうしろというのかな……」
色さんがため息交じりに呟く。
「まあ、いいの」
こほんとわざとらしい咳払いをし、続けて口にする花子さん。
「わたしは、怪間くんとデートをしたいと思うの!」
「え!」
「まあ、明後日は日曜だけど……」
「だって、色さんや花古さんはデートしたんでしょ? 羨ましい……!」
ブーブーと唇を尖らせる花子さん。
「分かった。花子さんともデートをしよう。どこがいい?」
「えーと。夢の国!」
「あー。
俺はスマホで予約をとると、電車やバスの時間を調べる。
「ちょっと早めに9時出発でいいか?」
「うん! でも夜は遅い方がいいなー」
ブーッとお茶を吹く色さん。
「だってパレードが見たいもん!」
「そ、そっちか……」
安堵する色さん。
「パレードは八時くらいか。よし。じゃあ、夕食もランドで済ませよう」
紙に書き始めていく俺。
これで明後日の予定は埋まっていく。
「そんなにみっちり書いたら、何か遭ったとき困るよ? もっと余裕を見ようよ」
「それもそうだな」
花子さんの提案に俺もコクコクと頷く。
消しては書いての繰り返しで予定を立てていく。
そのたびに花子さんと俺が意見を交わす。
それを見ていた色さんはぐてーっとし、白い目をむいていた。
そういえば、色さんも俺のこと好きだったな。
こんなハーレム状態になるまですっかり分からなかったが、好きというのは苦しくも、楽しいものなんだ。
色さんのことをやんわり断る方法はないだろうか?
こんな時、頼りになる人がいるじゃないか。
赤羽根師匠だ。
彼に電話をいれよう。
「ちょっと待っていて」
俺は花子さんと色さんにそう断ると、部屋の外、アパートの廊下にでる。
「もしもし。赤羽根先輩?」
『最近、多いな。なんだ? モテ期でもきたか?』
「そうみたいです」
『なるほど。それは厄介だな』
「そうなんです。それで女の子をやんわりとふるときの方法を教えてください」
『はっきり言うことだ。期待させちゃいけない。ふるときはふる。それが一番だ』
赤羽根師匠は自信満々にそう言うと、さらに続ける。
『お前ならできる。自分を信じろ』
「で、でも。傷つけずにふりたいんです」
『傷つくのは悪いことじゃない』
どういう意味だ?
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