第13話 ゴミあさり
生きている。それはどういう意味だ?
「あ。生きているというよりも、こちらの世界にいる、という意味よ」
珍しく慌てふためく花古さん。
「だから、あなたは助けに行ってあげて」
花古さんが柔和な笑みを浮かべる。
「ここまで愛しているんだもの。あたしには無理かな」
色さんは困ったように眉根を寄せる。
二人に後押しされるように保健室を出る俺。
「場所は海浜公園近くのゴミ集積所。その埋め立て地だよ」
「依代を探して」
ゴーストバスターズが依代が分からずに、壁やトイレそのものを捨てたらしい。
だから鉄骨が剥き出しになっていたのだ。
依代が分かれば、除霊できたらしい。運がいいのか、悪いのか分からないけど、ゴミとして扱われた依代は埋め立て地にある、と。
俺は靴を履き替え、財布を握りしめ、電車に乗り込む。
埋め立て地は電車で三つ。粗大ゴミを出した時に一度見ている。
たどり着くと、脇目も振らずに埋め立て地に入り込む。
そしてゴミを漁り出す。
「お、おい! キミ!」
集積所の管理者か、それとも従業員かは分からないが、俺を止めようとする。
「邪魔しないでくれ! 大切な、大切な人が!」
「やれやれ、おかしな注文があると思ったが、まさか大切な物を捨てられるとは」
長速理解した集積所のおっさんが全員を呼びつける。
「ここには彼の大事な物が埋まっているらしい。全員で協力し、見つけ出してくれ!」
声を張り上げるおっさんず。
その声を聴きながら、トイレの放置されている場所を探し始める。
泥だらけになり、擦り傷を作っても。
それでも探し続ける。
夕闇に染まり、世界が混沌の中へと溶け込んでいく。
「今日はここまで。
おっさんずが協力してくれる中、俺は重い足取りで帰宅する。
俺一人で何ができるんだ。
家に帰ると、ネコのアケビが頭をこすりつけてくる。
その頭を軽く撫でると、花子さんのことを思い出す。
ネコのように撫でるなんて、間違っている。そう思えた。でも、俺は彼女に確認をしていない。
まだ生きていてもらわねばならない。
そうでなくては謝ることも、お礼を言うこともできない。
こんな歯切れの悪いままじゃ、絶対に終わらせない。
俺は俺の意思で花子さんを探す。
彼女を助ける。
明け方になると、俺は埋め立て地に向かう。
午前十時を回ったところで、スマホに電話が入る。
「もしもし」
俺はしつこくなる電話に苛立ちつつ、出る。
『もしもしじゃないだろ。今日、なんで学校にこない』
「俺は依代を見つけるまで学校には行きません」
『バカな奴だ。いいから学校に来い。
愛香? 聞き覚えのない名前だ。
「誰ですか? それ」
『トイレの花子さんの本名だ』
ガタッと瓦礫を落とす。
「本当ですか? それ」
『嘘をつく理由がどこにある? いじめで自殺をした生徒を記録から洗い出した。あのトイレで、しかも容姿まで似ているのは彼女のみだ。その家族の居場所も分かった』
「会わせてください!」
俺は電話に向かって叫ぶと電車に乗り込み、学校に向かう。
そのまま職員室に向かうと、南十先生が険しい顔で待ち受けていた。
「いや、色と御手洗には困ったものだ。怪間が回復してから全てを明かそうと言うのに」
髪をかき上げ、悩ましげな顔をする。
「本来、生徒の個人情報など見せる訳にはいかないのだが……」
南十先生は資料をまとめたものを手渡してくる。
「これをどう判断するのかはお前しだいだ。悪用はやめてくれよ」
「分かりました」
資料を受け取り、南十先生に一礼すると、職員室を出る。
教室にはいり、自分の席で資料に目を通す俺。
「怪間くん。シャワー浴びなよ」
色さんが苦笑いを浮かべながら言う。
「シャワー?」
そんなもの学校にあるのか?
「部室にあるの。あたしについてきて」
暗に臭いと言われているのは分かっていたが、
バスケ部の色さんだが、まさか部室にシャワーがあるとは。
確かにうちのバスケ部は強いと聞くが。
「替えの着替え用意しておいたからね」
更衣室のドアから聞こえてくる色さんの声。
「え。あ、うん」
着替え。そうか、制服もだいぶ汚れていたな。
そんなことにも気がつけないなんて。
僕は何をやっているのさ。
シャワーを浴び終えると、俺は更衣室に出る。
そこにあるジャージを見て、ハッとする。これは色さんのジャージ。
色々と気を遣わせているな。
しかし、まあ。
女子のジャージってなんとなく背徳感があるというか。何というか、危険な香りがする。
でも選んでいる時じゃない。
俺はジャージを仕方なく借り、外にいた色さんに声をかける。
「ありがとう。助かった」
「……。しょうがないじゃん。好きになったんだから」
小さくうめく声は風に遮られる。
「え。なんて?」
「なんでもない! それよりも今日は学校にいる?」
「ああ。もちろんだ」
資料に目を通すには時間がかかる。
どうやら当時のいじめの証言とかもあるみたいだからね。
授業の時間を潰してでも見るべきものだと思うんだ。
自分の席に戻ると、早速資料に目を通す。
死亡したのは
いじめは劣悪なもので、筆舌に尽くしがたい。性的暴行や暴行など。
その主犯格は安藤
安藤大輝。母が安藤
両親は離婚しており、茂雄はたまに面会があるそうだ。友子は精神的疾患を抱えており、現在は寛解。
いじめの様子がネットに拡散。一家離散。弟の直也は兄・大輝と同じ高校に進学。
「いや。この安藤は……」
そう。俺の知っている安藤だ。
家庭環境が及ぼしたのか、性格に難あり、か……。
しかし同情の余地なし。
俺にとっては関係ない。
関係のない人間まで巻き込んでまで何がしたかったのか、俺にはさっぱり理解ができない。
安藤家。彼らがいなければ、花子さんは……!
ペラペラめくっていくと、騎士堂愛香さんの個人情報まで載っていた。
しかし、騎士堂愛香か。聞き覚えのある名前だ。
騎士堂……? そう言えば俺が赤羽根師匠に弟子入りしたとき、同じクラスにいた……。
「あ。俺は何を寝ぼけていたんだ……」
騎士堂さんは俺の憧れの人だったじゃないか。
いつも凜としていて、格好良くて。そして可憐な年上のお姉さん。
彼女はいつも笑みを絶やさずに生きていた。
そんな彼女を曇らせたのが、安藤か。
騎士堂さんの自宅が記載されていた。
「意外と近い……」
俺は、俺の初恋の人を救うために生きてきた。だから――。
放課後になると、俺は席を立ち、歩き出す。
「どこに行くつもり?」
花古さんが立ち塞がる。
「どいてくれ。俺は行かなくちゃいけないところがある」
騎士堂さんの家に行かなくちゃいけない。
でないと彼女に申し訳が立たない。
俺が愛した彼女はいつまでも待ってはくれないだろう。
「あたしも行くよ」
「色さん……」
「だから、私も行くって話よ。分かった?」
抑揚のない声で切り出す花古さん。
「……分かったよ。行くよ」
笑みを浮かべて応じると、僕は下駄箱に向かう。
見ていてください、赤羽根師匠。
僕は立派な男になります。
――お前はまず、その一人称をどうにかしろ。
――僕はもともと下僕の意味から来ているんだぞ。
そうです。それも分かっているのです。
それでも僕は……。
本当の自分で接したい。
隠していた気持ちを伝えたい。
今なら分かる。
花子さんは俺にデレデレだったと。
僕がしっかりしていれば、彼女は。
花子さんがいれば僕は何も怖くない。
何も怖くない。
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