幕間 『ふたりのかみさま』

 ある日の夜。

 今日はもう寝ようとしていた俺のもとに、母がやってきた。

 ネグリジェを着た母の手には、本が握られている。


「アルマ、絵本を読んであげる」


 寝る前の読み聞かせというやつだ。

 俺が頷くと、母は部屋に置かれていた椅子をベッドの横まで持ってきて、そこに座った。

 軽く咳払いをした後、母は本を読み始めた。


「『ふたりのかみさま』。今よりずーっと昔のこと。そこには一人の神様がいました」


 そうして、読み聞かせが始まった。


 話の内容は、一人の神が大地の意思によって二人に分かれ、喧嘩をしてしまう話。

 元々この世界には、唯一にして全能の神がいた。その神は大地と、そこに生きる人々を生み出した。同時に、全能による圧倒的な支配を行った。

 それを大地は許さず、自らの生みの親である神を二人に分けた。それにより神の全能は失われた。

 二人に分かれた神の一方は善性の神、もう一方は悪性の神であった。

 相反する性質を持つ二人は、いつも敵対し、やがて世界を巻き込む喧嘩に発展した。

 喧嘩の末、善性の神が勝利を収めた。

 最終的に悪い神は遠方に去り、良い神が世界を導く存在になった。


「ねえ、お母さん。それって本当の話?」

「どうかしら、もともと神話だったものを絵本にしたらしいから、子供向けになってるかも」


 本当かどうかは定かではないのか。

 前の世界では真偽は定かではなかったが、この世界なら神話が事実であるかもしれないと僅かに期待したのだが。


「でも、良い神様が勝ったのは本当だと思うわ。だってあなたが生まれてきてくれたもの」


 言いながら額に口づけをされる。

 俺は微妙に恥ずかしかったが、拒むことなく口づけを受けた。


「ん?なんだ、寝てなかったのか」


 父が俺が寝ているかを確認しに来た。


「そうね。おやすみなさい、アルマ」

「アルマ、おやすみ」


 父の手が俺の頭を優しくなでる。

 俺を見つめる二人の顔はとても穏やかだ。


「うん、おやすみ」


 俺も返事をし、眠りについた。

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