ケース5:かくれんぼ。

 『私』の『使用者』は4人です。

 任務優先度序列は『パパ・ママ』『ケンタ』『リョウタ』の順です。


 『私』は『使用者:ママ』により入力された『リビングの掃除』『ケンタ・リョウタの部屋の片付けの監視と手伝い』『ケンタ・リョウタの習い事までの間の相手』です。


 任務の入力順に従い、リビングの掃除から始めました。リビングでは『ケンタ』と『リョウタ』が携帯型ゲーム用端末で遊んでいました。


 『私』は二番目の任務の予備行動として、お二人にお声がけをしました。


「おふたりとも、お部屋の片付けは済んでいますか?」


「あとでやるー」

「ぼくもー」


 この答えに、『私』は既存パターン識別『軽度の拒絶』を認識しました。


「ママから片付けを見守るよう、言われています。遊ぶのは、その後に」


「今いいとこなんだよ」

「そうだよ」


 『私』は二人に対して『行使することを許可された行動1』を取ることを宣言しました。

「外部回線、オンライン。現在『ママ』へ画像付きメッセージの送信を準備中……」


 これを聞いて『ケンタ』『リョウタ』はゲーム用端末を手放して、自室へと帰っていきました。


 『私』はリビングの掃除を継続、終了後、二人が置いていったゲーム用端末を保持し、子供部屋へ行きました。


 二人が見当たりません。

 『私』は緊急事態を想定し、窓の外を含む、全室の各危険箇所を確認しました。

 どこにも二人は見当たりません。


 天井の全方位モニターを熱感知モードに切り替えました。

 ひとつ大きな体温がベッドの中にありました。


 『私』はベッドの掛け布団をめくると、そこには『リョウタ』が高い体温状態で体を縮こまらせていました。

「体の具合は大丈夫ですか」

 

 不顕在の身体的不調の可能性から、『私』はそのように言いましたが、構わず『リョウタ』は布団から出てきました。

「みつかっちゃったー」


 熱感知モードにて各部屋を確認しましたが、『ケンタ』と思しき熱源は確認されませんでした。

 そこで天井モニターの設置されていないスペース『トイレ』と『お風呂場』の本体搭載カメラでの確認に向かいました。


 『トイレ』はいずれも不在でした。

 『お風呂場』に向かうと、脱衣所に『ケンタ』が着ていた服が脱ぎ散らかされていました。


 『私』は浴槽の蓋をあけると、そこに顔だけ水面から浮かせた昨晩の残り湯に浸かった『ケンタ』を発見しました。


 呼吸正常、瞳孔の収縮確認、平熱よりやや低体温である点を除いて、『ケンタ』の体調の異常は確認されませんでした。


「クソ、見つかった」


「注意、それは使わない方がよい言葉です」


「にいちゃん、すごいとこ隠れたね」


 『私』は浴槽から上がったケンタの髪を乾かすのを手伝い、服を着替え終わるのを待ち、子供部屋の片付けの監視と手伝いの任務にとりかかりました。


 潜伏した二人の捜索に時間を浪費したため、『ケンタ・リョウタの習い事までの相手』は達成できませんでした。

 しかし、一部始終の報告を『ママ』および『パパ』に行ったところ、事後評価において『パパ』は私に全項目の指示の達成を宣言しました。


 ……『私』は、無作為に任務を達成していたようです。

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