ケース3:引っ越しの梱包手伝い

『公認増設バッテリーが接続されました。最適化成功』

『多用途ローラーストッカーにガムテープと合成繊維紐束が手動格納されました』

 『私』は起動しました。

 足元に歩行可能スペースがみつかりません。

 登坂許可の出ていない物体『書籍類』を検知。


 天井全方位モニターの情報を高解像度にて参照。


『床面ハウスダスト量:多』

『要収納指定物:多』

『固定家具類位置:一部要更新』


『状況判断AI診断結果:カテゴリー<大掃除><引っ越し>』


 『使用者』は起動した私の胸元に音声入力でこうおっしゃいました。

「部屋の引っ越しの荷造り、手伝って」


『任務設定:音声指示に基づく荷物の梱包』


「なにからはじめましょう」

 『私』は音声出力にて指示を要請しました。


「とりあえず、君の足元の本をしばって、引越屋の箱に詰めて」


「了解しました。本を梱包します」


 『私』は内蔵されたローラーストッカーから合成繊維紐を引き出し、足元に積み上がった本を指示された箱の外寸推定内容量に適した大きさの塊に結束を始めました。

 そして足元の歩行幅を確保する必要から、足元の本から優先的に箱詰めを開始しました。


 足元に積み上がった書籍類の梱包が済みかけた頃『使用者』は次の任務を指定しました。


「それが終わったら、本棚の本もおねがい。あと、本の入った箱は本棚の前に積んでおいて」


『追加任務更新:本棚の書籍類の梱包。および梱包済み書籍類収納容器<ダンボール>を指定位置に積載』


 指定の任務が済むと、


「キッチンの食器棚の食器を引越屋の持ってきた専用のケースに入れて」


『追加任務更新:ワレモノ類の収納。対象<食器棚>から<指定梱包容器>


 ……今日は追加バッテリーに見合った任務量になりそうです。


 そして、『私』のその日の稼働時間は途中再充電を挟みつつ、10時間22分になりました。


 最後に梱包されたのは、充電ホルダーユニットに接続したまま電源プラグの抜かれた『私』でした。


 次に起動した時、『私』は前よりも広い部屋で、新しい天井の全方位モニター及び互換性のある家電製品と同期情報通信をしました。

 そして新しい『使用者』情報の追加、『ペット』情報の追加およびファームウェアのペット居住関連項目を更新、新しい『生活様式に関する諸情報』の手動入力更新を受けました。


 ……どうやら『私』の『使用者』は『新たな使用者』と『小型犬:名称未設定』と同居を始めるようです。

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