第5話 二重② ~ろくろ首~
「そうとも」
チン之助はそう言うと、ろくろ首の体を優しく布団に押し倒した。大きな胸が弾むように揺れる。女の股に手を伸ばすとしとどに濡れていた。
「責められるのが好きなのか?」
「そんなわけ、ありませんわ。んむ……」
鎌首を上げて抗議しようとしたろくろ首を、キスで黙らせる。先程口中に性を放ったばかりであるが、チン之助は構わず舌を絡ませた。その間も彼の右手は休まずカナエを責め続ける。
「すぐに好きになるさ、すぐにな」
たっぷりキスをしたあとにチン之助は言った。唾液で濡れてグロテスクさが強調されたペニスをカナエのビショビショの穴にあてがう。
旅館の一室のような部屋に、女の尻を打ち付ける音と、その女の喘ぎ声が響く。
チン之助が一突きするたびに、カナエは声をあげ胸を大きく揺らした。その乳房を背面から鷲掴みにし、指で乳首を押し込む。
「ああ、そんな、おっぱいを、わたくしのおっぱいをそのように責めないで。んん、そこも、ダメ。ああ、もう無理。ギブアップ、ギブアップですわーーー!!」
カナエの絶叫が五重塔に響き渡る。無理もない。たっぷり一時間、様々な角度からチン之助に責められ続けたのだ。
カナエは全裸のまま力なくうつ伏せになり、身体をビクビクと痙攣させている。その背中を愛おしそうにひと撫ですると、チン之助は立ち上がった。細かい汗とカナエの愛液で全身が濡れている。
部活のマネージャーよろしく受付嬢がタオルとミネラルウォーターを差し出した。
「ありがとう」
チン之助は受け取ると体を拭きスーツを身に着けた。
ペットボトルの水を一息で飲みきり、大きな息をつく。
「それで、その、聞きたいんだが」
不安げにチン之助は言った。受付嬢は空のペットボトルを受け取ると廊下のゴミ箱に捨てた。
「後輩の方の身柄ですね」
「ああ」
「特にはっきりと決められているわけではありませんが、敗北した人間の処遇は倒した嬢が決めます。今回でしたら、カナエさんですね。……カナエさん?」
返事がなかったため、受付嬢は座敷に上がるとカナエの大きな尻をバチンと叩いた。
「あひ!?」
カナエが長い首をもたげて受付嬢を見る。
「チン之助様の後輩ですが、どうするかはあなたが決めていいです。どうしますか?」
ろくろ首は不安そうなチン之助と、きりりとした表情の受付嬢の顔を忙しく見渡した。
「えっと、その、わ、分かりましたわ。わたくし、二重番人ろくろ首のカナエの名のもとに、その方を開放いたしますわ」
彼女の言葉を受けて、受付嬢が立ち上がった。
「承知しました。管理部に連絡して手続きを取ってきます」
そう言うとテレビの横の黒電話の受話器を手に取り、ボソボソと話し始めた。
「ええ、それではお願いします。……チン之助様」
受話器を置くと、彼女は振り返って言った。
「後輩の方の開放を指示しました。捕まってから日も浅く健康を損なってもいないため、明日の朝には彼の家の近所の公園で目を覚ますでしょう」
チン之助は深々と頭を下げた。
「ありがとう。ありがとうございます」
「アヤカシ屋での出来事は忘れてしまっているので、会話する時はお気をつけ下さい」
そこまで言うと彼女はいったん口を閉じ。美しい顔でチン之助を正面から見据えた。
「……それで、チン之助様はこの後どうされるご予定ですか?」
どうされるって? そう聞こうとして彼は質問の意味に思い至った。
死亡お遊戯を続けるか否か、それを聞かれているのだ。
当初このアヤカシ屋に来た目的である、後輩の行方を探すという件については最良の形で達成できた。
後はチン之助とアヤカシ屋の間の話となる。彼は目を閉じしばし考えた。
ここは大人しく帰るべきだ。チン之助のある部分が告げた。当然である。この店は得体が知れない。それだけでなく、一階の猫又と比べて二階のろくろ首は、はっきりと難易度が上がっていた。三階、四階と上がっていけば、性豪の自負があるチン之助でもかなわない嬢が出てくる可能性は多分にある。
いいやまだ行ける。別の部分はそう告げた。だって俺はまだ、満足できていないじゃないか。
そう、彼の下半身のもやもやは一度や二度射精したからと言ってスッキリと晴れるものではない。女の体を何度も、何度も、何度も、責めぬいて、その上で自身も幾度も達する。そうすることでやっと満足するのだ。そんなプレイばかりしているものだから、嬢がその後仕事にならないということでいくつかの風俗店を出禁になってしまっている。彼にとって死亡お遊戯は、複数の嬢を相手に性欲の限りを尽くせるまたとないチャンスであることも確かだ。
チン之助は目を開いた。素っ裸のろくろ首と、秘書風の格好をした受付嬢が彼の答えを待っている。
「三階へ、行こう。俺は降りない。セックス以外に取り柄のない俺だからこそ、この塔を攻略して、それを一生の宝ものにしたい」
チン之助は仕事ができる方ではない。むしろ、今しがた命を救った後輩のほうがよほど成果を上げている。それは当然のことだと思っていた。後輩は段取りが上手く資格の勉強に熱心で、業務の処理スピードも早い。そんな男が自分を慕ってくれることに嬉しさはあるが、やはり先輩として情けなさを感じることもあった。
後輩との比較だけでなく、チン之助は社会生活において常々ぼやっとしており、何かを成し遂げたという憶えがない。
今日ここで、自分の唯一の特技であるセックスで、死亡お遊戯の制覇という常人には果たせないであろう一事をなしてそれを人生の勲章としたい。
その気持が男を前へと進めた。
「かしこまりました。それでは三階へご案内します」
これはチン之助の願望によるものかもしれないが、受付嬢の言葉にはチン之助への期待が込められている気がした。
彼女に続いて部屋を出ようとしたチン之助の目の前に、ろくろ首の汗で乱れた顔が飛び出した。
「お待ちになって、チン之助さん!」
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