第4話 二重① ~ろくろ首~
入り口のあの模様は轆轤(ろくろ)か。天井スレスレの頭を見上げながらチン之助は思った。
「夜利チン之助だ。聞きたいことがあってここまで来た」
「あら無粋な方。裸の女を前にして問答をしたいというの?」
バッ。
一息でチン之助も服を脱ぎ去り裸になった。厚い胸板、六つに割れた腹筋、引き締まった太もも。そして何より天を見上げるように勃起したイチモツがカナエの目を捉える。
「どうか答えてほしい。先日死亡お遊戯に挑戦した俺の後輩は、無事なのか?」
「あらそんなこと」
長い首の先についた頭を自分の肩の横におろし、右手の人差し指を唇にあててろくろ首はチラリと受付嬢を見る。扉の前の女は軽く頷いた。
「その方でしたら、確かにわたくしがお相手しました。人間にしては健闘したほうかもしれませんが、首の差で勝ちましたわ」
カナエの言葉を受けて受付嬢が握った手で口を抑えて控えめに笑った。ろくろ首の鉄板ジョークなのだろうか。
「それで、あいつは」
「神隠しに合いました……が、生きてはおりますわ」
「ほ、本当か?」
「ええ。通常死亡お遊戯で敗れた男は二、三週間塔に置いて精液サーバー代わりに使ったり、女の子が練習したい時に実験台として使われますわ。その後は……ま、あえて言う必要はないでしょう」
やおらチン之助は土下座をした。全裸の土下座だ。
「頼む。あいつを助けてやってくれ。あいつは新婚で、奥さんは妊娠しているんだ」
「……そんな状況にも関わらず、二日連続で風俗店に行くような男のために、あなたは頭を下げますの?」
「このとおりだ」
チン之助は額を畳につけた。
「あいつにデリやソープを教えたのは俺なんだ。俺にも責任がある。だからどうか、お願いします。もしもお金が必要だというのなら、すぐには難しいが、必ず用意しますので」
実際彼は貯金などほとんど持ち合わせていない。身につけているスーツや革靴はセフレたちが金を出して買ったものである。そのお礼というわけではないが、手元に金がある時は七人のセフレたちにちょっとした贈り物をして散財しているし、残りはすべて風俗店巡りに使ってしまっている。
全身全霊で土下座をするチン之助を前にして、ろくろ首は困り顔で受付嬢を見た。
受付嬢は美しい形の眉をひそめ、座敷に身を伏せているの男の背中をにらみつけている。
「例えば頭を下げたり」
ポツリと受付嬢は言った。
「例えばお金を払ったり。そういったものはこの塔において一切の価値を持ちません。男と女、裸の二人が向き合って決めた約束事を覆す事ができるのは、ただ一つセックスによってのみです。立ちなさいチン之助! 童じゃあるまいし、欲しい物があるのにいつまで床を見つめているつもりですか! 戦って勝利を勝ち取りなさい。己の価値を、証明しなさい!」
一言ごとに彼女の言葉は熱を帯び、最後はもはや怒鳴りつけるかのようだった。
チン之助はその声を受け、まず頭を上げた。ついで上体を起こし、片膝を立て、完全に立ち上がった。
そう、今は死亡お遊戯の真っ最中。勝てば極楽負ければ地獄。男と女の果たし合い。
決意と覚悟をみなぎらせ、チン之助は真正面からろくろ首を見据えた。
「無粋な真似をして、済まなかった」
「どうせ私に負けて首が回らなくなるんですもの、その予行演習みたいなものですわ」
ろくろ首の軽口に笑顔を返す。二人は情熱的に見つめ合った。
先に仕掛けたのはカナエだった。自慢の長い首をチン之助の体に何度も巻き付け、その自由を奪う。テイクダウンを取り、動けない相手に騎乗位で一方的にフィニッシュを奪うカナエの必勝法だ。
男の体を畳の上に仰向けに押し倒すと、ろくろ首は男に巻き付いた首を伸ばしてペニスの位置を確認しようとした。その時、何者かがカナエの頭をつかんだ。
当然チン之助である。彼はクモのような忍耐強さで獲物が自分の両手の前を通りすがるのを待っていたのだ。有無を言わさずカナエの口に自分のイチモツをぶち込む。
そのままチン之助は腰をつかった。
「もがー、んんー、んぐー!」
イラマチオをされたカナエが抗議の声を出そうとするが、構わず男はろくろ首の口を犯し続ける。一突きするたびに四つん這いになったカナエの胸が大きく揺れる。徐々にチン之助を束縛する首が緩んできた。しかし、その首を振りほどくでもなく、一心不乱のピストン。酸欠でカナエの意識が飛びそうになる。
「ンんんーー!」
「イクぞ」
低い声でチン之助はそう言うと、ひときわ長いストロークでろくろ首の喉を突いた。
射精!
常人の二倍以上の量はある精液が喉奥に放出された。
「んやあー」
「飲め」
チン之助が非情に告げる。
カナエは顔を左右に振って嫌がろうとするが、チン之助に頭をがっしりとホールドされているためそれはできない。
息が、出来ない。カナエは目を白黒させながら何とか少しずつ精液を飲み込んでいく。ろくろ首の長い長い首を通って精液がカナエの体に入っていく。
「そんなに首が長いと、ザーメンを飲むのも大変そうだな」
嚥下し終わったのを見てチン之助はカナエの口からペニスを引き抜いた。すっかり拘束がゆるくなった首を踏まないように気をつけながら立ち上がる。
カナエは首のほとんどをだらしなく床におろし、ゼエゼエと荒く息をしながら男を見上げる。
「あ、あなたがさせたことですわ。この……バカァ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます