第3話 初重② ~猫又~
チン之助のイチモツが振り子のように揺れる。
右に。左に。また右に。
それを見たミャオは飛び回るのをやめてふらふらと歩いて近寄ってきた。その目はペニスに釘付けになり、両の拳は柔らかく握られ体の前で猫招きのポーズを取っている。
「そ、それを止めろ。体が、勝手に、はわ、わ、わ、わ」
余裕をなくした猫又は、語尾ににゃをつけるのも忘れてペニス振り子に吸い寄せられていく。
「ふぎゃーー!!」
猫又のミャオがチン之助の下半身に向けて飛びついてきた。
来るとわかっていれば対処はできる。
性豪チン之助は、闘牛士の如き勇敢さと情熱で猫娘をひらりと躱すとそのバックを取った。
着物をはだけさせ、秘所に己のイチモツを突き立てる。
「ぎにゃああああああ!」
発情期の猫のような叫びが座敷にこだました。逃げようとする腰をがっしりとホールドし、容赦なくストロークを繰り返す。
「やめっ」「ぎゃ」「そこ」「ん~」「ごろごろ」
かなり感度がいいのだろう、一突きごとに嬌声を上げる。しなやかな下半身が心地よくペニスを締め付けた。揺れるしっぽの付け根を優しく撫でるとミャオは達したのか全身をガクガクと痙攣させた。
何度も、何度も、何度も自身のイチモツをミャオの膣の奥に打ち付けた。
さて、賢明なる読者諸兄に改めて言う必要はないかもしれないが、通常の性風俗店であれば、客が過剰に嬢を愛撫したり、無理にイかせる必要はない。
夜の店においてもっとも重要なことは、性のプロフェッショナルである嬢の奉仕を受けて客が気持ちよくなることであり、その逆ではないからだ。よしんば嬢を何度もイかせられるほどの技量を行使したとしても、日に何人も客の相手をしなくてはならない嬢がそのような疲れる相手に感謝することはまれである。
しかし、死亡お遊戯においてはすべてが異なる。
女をイカせ果てさせ気を遣らせ、動けなくなるまで追い込むことこそが挑戦者の男が唯一生き残る道なのだ。
「はやややや」
首筋まで真っ赤にしたミャオはついに叫び声を上げる。
「降参! 降参する! わちきの負けーー!」
チン之助がその大きなペニスを引き抜き手を離すと、猫又はべシャリと床に崩れ落ちた。まだまだ物足りないが、相手が嫌がっているのであれば続けるのは失礼に当たる。
「一つ聞きたい」
ビンビンに勃起したペニスを隠そうともせず、チン之助は受付嬢に振り返った。
「人命がかかっているためやむを得ないことではあるが、この娘ミャオを一方的に打ち負かしてしまった。何か、彼女が罰を受けるようなことはあるか?」
受付嬢は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しい笑みを浮かべ、座敷に上がった。両足を揃えて上品に膝を付き、ミャオのあごの下を優しくなでる。
「そのようなことはしませんよ。ミャオも、他の嬢たちも皆この塔の仲間です。人間に勝てればやったねよかったねと褒め、負ければ惜しかったね次は頑張ろうと慰める。私たちはそんな関係です」
チン之助もしゃがんで着物の上から猫又の背中を撫でる。
「ならばよかった。ここは他の店とは雰囲気がずいぶんと違うな。君たちは、まるで家族のような関係に見える」
「家族……そうかも知れませんね。私たちは社会のはみ出しもの。どこに所属することも許されず、町から町へとたゆたって生きておりました。そんな中では信頼できるのは同じ店のものだけ。身を寄せ合い互いに励まし合いながら、なんとか今日まで生きてきております」
「君たちはいったい──」
チン之助が言いかけたときに床に這いつくばっていたミャオが体を起こした。
「いい加減にするにゃ。こっちはイッたばかりで敏感なの! 撫で回すのやめてとっとと上に行くにゃ!」
「おっと、すまない」
脱ぎ去った服をいそいそと身につけ、チン之助は廊下に出ようとした。
「おい人間」
その背中に猫又が声をかける。
「……がんばるにゃ」
「ああ。ありがとう」
礼を言ったチン之助は、受付嬢の案内で廊下の奥の階段を登る。ギシリ、ギシリと木造の階段が軋む音が聞こえた。
二階の廊下を歩いていた受付嬢が引き戸の前で止まった。
扉の横にはやはり木の札。円盤二つを縦に並べて棒で繋いだものが六つ描かれていた。
これは、なんだ? チン之助が考えていると、扉のすぐ向こう側からか細い声が聞こえた。
「戸は開いておりますわ。どうぞ中に」
すぐさま男は引き戸を開く。意に反して誰かがそこに立っているということはなかった。
ミャオの所とは違い、窓やテレビ、黒電話のあるレトロな旅館の一室と言った風情の部屋だ。白檀のエキゾチックな香りが鼻をくすぐる。
やはり中央に二組の布団が敷かれていた。
布団の片方が盛り上がっており、中に人がいるのが分かる。
チン之助は布団をめくった。
白檀の香りが一層強くなる。
裸の女の体。それも腰と胸の大きな肉感的な体だ。
顔は……
「!」
男はとっさに出そうになった声を飲み込んだ。どんな相手であっても、女性の裸を前にして「うわっ」や「ひっ」などと口にだすのは大変に失礼だからだ。
女の首は布団の上でとぐろを巻いており、長い長いその首の先に、髪を結った女の顔があった。女はゆっくりと立ち上がると、首を伸ばし見下すように笑った。
「こんにちはこんばんはおはようございます。首を長くしてお待ちしていましたわ。わたくしが二重のお相手、ろくろ首のカナエと申します。」
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