19話 ライバルとして

  おれの魔力感知によれば、レオンハルトは既に魔力切れ。

  これ以上、戦うことはできないだろう。

  しかし、それでも彼は一心におれを見つめて戦う意思を示し続けたのだった。


  「どうして、そこまでして戦う? 見たところ、もう魔力も切れて限界を迎えているではないか」


  おれはそんなレオンハルトに疑問を投げかける。

  別におれの方は彼を殺そうとはしていない。

  大人しく引き下がってくれれば、全てが片付く。

  だからこそ、おれはどうして彼らヴァンパイアがここまでおれに食いついてくるのかが不思議でならなかった。


  「だまれ! 魔人のてめぇにわかってたまるか!!」


  レオンハルトは拳を握りしめ、その手を振り払う。

  おれは彼から何か強い決意のようなものを感じ取るのだった。


  そこでおれはひとつだけレオンハルトに質問をすることにした。


  「そうだな。おれにはお前の考えなどわからない。だが、ひとつだけ聞かせてくれないか?」


  「なんだ……?」


  おれの事を毛嫌いしながらも、レオンハルトは質問を拒否する様子はない。

  答えてくれるかは別として、嫌々だが質問自体は聞いてくれるようであった。

  そこで、おれは彼らヴァンパイアに対する疑問を投げかけた。


  「どうして、お前らは真っ直ぐおれに向かってくるのだ? おれの言動に、殺意を抱くほど腹を立てているのだろう」


  「そうだ……!」


  レオンハルトは間髪いれずに即答した。


  「ならば、どうして正々堂々と挑むのだ? 他の魔人を人質にするといった方法を使えば、今よりも有利に戦うこともできるだろう」


  彼らヴァンパイアは魔人よりも遥かに強い。

  仮にダグラスやレイシアがここにいるスペンサーやレオンハルトと戦えば瞬殺されてしまうだろう。


  つまり、実力的には彼らは集落にいる魔人を連れてくることや、おれの家族を人質にするぞと脅して戦うこともできるのだ。

  スペンサーかレオンハルトのどちらかがおれと戦い、もう片方が人質を連れてくるなんて方法も取れる。


  だが、彼らは一向にそうした戦法を取る気配はなかった。

  二人いるにも関わらず、おれと戦うのも一人ずつだ。

  本当におれを殺したいと思うのならば、どうしてそんな非効率的な戦い方をしているのだとおれは疑問に思ったのだ。


  「人質に限らず、他にも手段はあるはずだ。何故、お前たちは真っ直ぐおれに向かってくる?」


  そんなおれの疑問に対して、レオンハルトは何を言っているのだと言わんばかりの口調で怒鳴り散らす。


  「そんなのヴァンパイアとしてのプライドがあるからに決まっているだろう! 他に何がある……!!」


  「おれはヴァンパイアとして、魔人のお前に勝たなくてはならないんだ! そんな卑怯な手を使った時点でおれは負けたも同然なんだよ……!」


  「ヴァンパイアを舐めるのもいい加減にしろ……!!」


  おれはそんなレオンハルトの答えを聞いてハッとする。


  そうか……。

  彼らヴァンパイアは自分の信念を持っており、それを守り貫き通すというのはおれを殺すといった結果よりも大事なことなのか……。


  「そうか……プライドか。それは失礼したな」


  おれはそんな彼らに敬意を払い謝罪をする。

  そして、彼らのプライドを守りつつこの戦いを終わらせることを画策する。


  「諦めろとは言わん。ただ、今のお前ではいつまで経ってもおれに傷を負わせることはできないぞ」


  「何だと……」


  おれは素直に事実を述べる。

  だが、賢いヴァンパイアならばこの事実に当に気づいているはずなのだ。

  ただ、そのプライドが格下だと見下してきた魔人に敗北することを許せないだけなのだ。


  そこでおれはレオンハルトに提案をする。

  ヴァンパイアとしてのプライドを守りつつ、この戦いを終わらせることを——。


  「だからこそ、また戦おうではないか」


  「何……?」


  レオンハルトはおれの提案に驚いたようで声を漏らす。


  「お前は強い。それこそ、おれが知っている魔人たちよりも遥かにだ。だが、おれもお前もまだまだ成長段階の途中であろう」


  「だからこそ、互いに力を付けてまた戦おう。今日の勝負は引き分けだ。おれもこれ以上は戦えない。だから今度こそ決着をつけようじゃないか。それでどうだ?」


  おれは本心でそう語る。

  レオンハルトもまたおれと同様に発展途上の段階にいるのだろう。

  そして、口には出さないがおれと同じように何か強い意思を持っているように感じる。

  だからこそ、そんな彼がここで潰れてしまうことをおれは望んではいない。


  おれが力を付けて故郷を目指すという目標に向かっているように、彼にもまた彼の目標に全力で向かって欲しいと思ったのだ。

  だからこそ、おれはこのような提案した。


  そして、おれの提案を受けたレオンハルトは悩んだようにして深く考え出す。

  すると、側近のスペンサーが彼に声をかける。


  「レオンハルト様……?」


  その声は優しく諭すようであり、おれの提案に乗せられるなと否定を促すものではなかった。


  スペンサーの様子を見るに、彼もこれ以上レオンハルトが戦うことに賛成はしていないのだろう。

  だからこそ、負けることなくこの場をやり過ごせるおれの提案を受け入れてはどうだろうかと、レオンハルトの背中を押しているのかもしれない。


  そして——。


  「あぁ、今日はそれで見逃してやる……! だから、絶対に逃げるんじゃねぇぞ!」


  そう言って、レオンハルトはおれの提案を受け入れるのだった。


  「ああ、楽しみに待っているとも。ただし、おれもさらに強くなっていると思うがな」


  おれはフッと笑って笑みをこぼす。

  この状況を冷静に分析するとおもしろく感じてしまったからだ。


  だが、これで一件落着だな。

  そんなことを思っていると、レオンハルトは少しモジモジとしながらおれに声をかけてくるのだった。


  「おい、魔人……。名前を教えろ」


  「名前……? おれの名前か」


  「そうだ! さっさと言えっ……」


  レオンハルトはまるで照れているように顔を赤らめておれの名前を聞いてきた。

  断る道理もなかったため、おれは素直に答えることにする。


  「ヴェルデバラン——。おれの名はヴェルデバランだ」


  おれの名を聞いたレオンハルトの頬が少し緩んだ気がした。


  そして——。


  「覚えたぞ、魔人ヴェルデバラン……。次に会ったときは、お前をぶっ倒してやるからな!」


  「おれもお前の名を覚えたぞ。ヴァンパイア——レオンハルト。さらに強くなったお前に会える日を楽しみにしているとも……」



  こうして、ヴァンパイアと遭遇して大変な目にあったおれだったが、無事に争いを終えることができた。

  あとで両親に怒られるとは思うが、一件落着したことだし何とかなるだろう。


  そして、このレオンハルトとの出会いがおれの人生を大きく変えていくことになるのだった——。

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