18話 ロードのプライド

  《レオンハルト視点》



  「なぜだ……。どうして魔人如きに」


  おれには理解できない。

  目の前で何が起こっているのか。


  魔人とは身体能力にも魔力にも恵まれない劣等種族に他ならない。

  そして、おれたちヴァンパイアはその逆。

  身体能力にも魔力にも恵まれた優等種族なのだ。


  現にヴァンパイアはこの魔界でも繁栄しており、ヴァンパイアの魔王国だっていくつもある。

  もちろん、魔人が治める魔王国などあるわけもない。

  この国に魔人が暮らすのが許されているのだって、ヴァンパイアの自尊心を保つためなのだ。


  それなのに、どうしておれはそんな底辺のゴミグズ相手に手も足も出ないんだ……。


  おれの必殺技、火砲ファイヤーキャノンが二回とも防がれた。

  しかも、おれはあの魔法に全魔力を注ぎ込んで今にも倒れそうだというのに、あの野郎ピンピンとしてやがる。


  ふざけるな……!

  こんな所でおれは負けるわけにはいかないんだよ……。




  ◇◇◇




  《レオンハルトの回想》


  この世界は良くも悪くも実力主義の平等な世界だ。

  弱い者は強い者に従っている。

  そして、強い者もより強い者に従っている。


  魔王というシステムが良い例だ。

  魔王という存在は強大であり、力なき民たちを束ねて従えている。

  しかし、そんな魔王たちですら大魔王と呼ばれる者たちの派閥に属している従属者なのだ。


  だからこそ、頂点——大魔王を目指さなければならない。

  首輪を付けられ、尻尾を振る犬畜生になりたくないならば——。




  おれは幸運にもそんなヴァンパイアの大魔王デュークの一族として生を受けたヴァンパイアロードの一人だ。

 ヴァンパイアロードとは、 一介のヴァンパイア以上に魔力に恵まれており、才能と努力次第では魔王になることができる選ばれしヴァンパイアなのだ。


  だが、将来の魔王候補など両手では数えられぬほど多く存在している。

  おれの兄たちや親族の者たちもまた魔王になれるかもしれない選ばれし者——ヴァンパイアロードなのだ。


  だからこそ、おれたちは幼い頃から互いに忌み嫌い合ってきた。

  魔王となるのはお前らではない、このおれなのだと実力でその意思を示し続けてきた。


  そして、おれの努力は実り、順当に次期魔王候補としての地位も築けてきている。

  お爺さまからも高く評価され、おれは他のやつらよりも一歩リードしている状態のようだ。


  だが、おれはこの結果はなるべくしてなったと考えている。

  なぜならば、兄たちや親族たちは魔王を目指しているのに対して、おれはもっと先の大魔王を本気で目指しているからだ。


  覚悟が違うのだ。

  だからこそ、おれは自分を甘やかすことなくここまで努力を重ねてきた。

  意識の低い他の者たちとおれでは立っている土俵が違うのだ。

  相手にすらならないのは自明の理ではないか。


  しかし、それがわからない年齢だけがおれより上の馬鹿どもは妬ましそうな瞳でおれを見てくる。

  魔王候補から外れたやつらから向けられる嫉妬と憎悪の念を感じる度におれは誓うのだ。



  生まれたのがおれよりも少し早いからって、そんな態度を取っていられるのも今のうちだけだ。

  このおれが大魔王となって、お前ら全員を手下としてコキ使ってやると——。




  ◇◇◇




  おれは常軌を逸した実力を持つ魔人を前にし、これまでの日々を思い返す、


  こんな所でおれの人生狂わせられてたまるか……。

  ここに来るまで、どれだけ耐えて、耐えて、耐えて、努力してきたと思ってるんだ。


  魔人如きに敗北したとなれば、おれが築き上げてきたモノは地に落ちるだろう。

  だからこそ、おれは絶対負けるわけにはいかない。



  もう魔力切れで既に限界は超えている。

  ただ、それでも闘わないという選択肢などない。

  おれは心に決めた信念の力で、目の前の魔人に相対するのだった——。

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