16話 レオンハルトvs ヴェルデバラン(1)
レオンハルトの頭上に現れた巨大な炎の球体は真っ赤に燃え上がり、おれに向けて放たれる。
直径10メートルを優に超える火の玉が迫り来るのだった——。
母レイシアが扱う火属性魔法とは別次元の魔力密度と威力である。
これが魔人とヴァンパイアの実力差というものなのか。
おれは直撃すれば命の危険がある魔法を前にして、そんなことを考えていた。
だが、そんな煉獄の炎が襲いかかるにも関わらず、おれは不覚にも愉しくて笑みをこぼしてしまうのだった。
「
おれは闇属性の防御魔法を目の前に展開してレオンハルトの攻撃に備える。
そして、強い衝撃が周囲へと広がる——。
ドォォォォーーーーッッンンンン!!!!!
子どもとは思えない圧倒的な魔力を持つ彼の魔法は、おれの防御魔法と相殺して爆風を巻き起こした。
そして、辺り一帯は炎に包まれ、熱気が押し寄せてくる。
ふむ、防御魔法が破壊されてしまうとは予想外の出来事だったな。
だが、外傷はない。
強いていえば、押し寄せる熱波が少し鬱陶しいくらいだ。
おれは強力な攻撃魔法を完全に防ぎきったことに十分満足する。
これはかなり誇れることだろう。
帰ったらレイシアに教えてやろうかな。
ヴァンパイアと戦闘になってしまったことについては怒られるかもしれないが、その叱責は甘んじて受けるとしよう。
そして、おれはレオンハルトの方へと一歩ずつ歩みを進めて距離を縮める。
「あれほどの魔法は見たことがない。おれの防御魔法も破壊されてしまった。流石は優等種族のヴァンパイアといったところか」
おれはそんな言葉を彼にかける。
レオンハルトはというと、無傷で現れたおれを目の前にして顔を引きつらせて硬直してしまうのだった。
「そんなバカな……。今のを止められるやつなんてヴァンパイアでも限られてんだぞ……」
どうやら、魔人のおれに特大の魔法を防がれてしまったことにショックを受けているらしい。
そして、一歩ずつ近づいてくるおれに対して恐怖の感情が顔から滲み出る。
「もしかして、恐れているのか? ヴァンパイアであるお前が、魔人であるこのおれを……?」
別に挑発するつもりで言ったわけではない。
ただ、純粋に疑問に思ったのだ。
彼は今、おれをどう見ているのかということを——。
今まで自分たちが見下し続けてきた劣等種族の魔人としておれを見ているのか、それともそうではないのか。
ただ、それだけのことなのだ。
だが、レオンハルトはそう受け取らなかったらしい。
彼はこれを挑発と受け取ったのか、眉間にシワを寄せ、顔をピクピクとさせながら吠えるのだった。
「劣等種風情が一度くらい耐えたからって、調子に乗るんじゃねぇぞぉ!!」
恐怖と怒りという感情は共存することはない。
そんなことをどこかで聞いたことがある。
やはり、プライドがエベレストほど高いヴァンパイア様には、許し難い発言だったのだろう。
そんなレオンハルトは更なる攻撃を仕掛け、魔法を発動するのであった。
再び、彼の頭上に巨大な炎の球体が出現する。
しかし——。
「レオンハルト様! いくらなんでも目立ち過ぎです。これ以上はもう——」
彼の仲間であるスペンサーが必死にレオンハルトを止めようとする。
なんだ……?
彼らにとって、この魔人の集落付近で目立つのはいけないことなのか?
別によいのではないのか。
最悪、魔人たちが魔法に巻き込まれて死んだとしても、ヴァンパイアは魔人の命なんて何とも思っていないのだろう?
現におれを殺そうとしているわけだしな。
目立つくらい何の問題もないではないか。
それとも、魔人を巻き込むのとは別の理由で何かあるのか?
例えば、彼らよりもっと地位のある者たちに黙って、内密にこの場所へやってきたとかな——。
「うるせぇ! 爺様に説明すれば何とかなるだろ。お前は黙ってろ!」
しかし、そんなスペンサーからの抑止をレオンハルトは拒む。
どうやら、彼らにとってもデメリットを背負ったとしても、この場でおれを殺しておきたいようだ。
頑固なやつだな。
だが、そういった純粋で真っ直ぐなやつは嫌いではない。
真っ向から受けてたとうではないか。
メラメラと燃え盛る煉獄の炎の球体がおれへと襲いかかる。
ほとんど時間を置かずに2発目だというのに、先ほどと同じ——いや、それ以上の威力だろう。
こんなすごい魔法を連続で放つとはレオンハルトはすごいやつだ。
体格から見るに彼はヴァンパイアの中ではまだ幼いのだろう。
つまり、これからどんどんと成長していくということだ。
今のおれにとっては脅威ではないが、やがて脅威となるかもしれない。
覚えておくとしよう。
ヴァンパイアのレオンハルトという名の戦士のことを——。
そして、おれは再びレオンハルトの魔法に相対するのだった。
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