15話 スペンサー vs ヴェルデバラン(2)

  「シネェェェェェェエエ!!!!」



  スペンサーの魔剣がおれのうなじに向かって振り下ろされる。

  完全に不意を突かれた死角からの一撃であった。


  しかし、おれはそれを難なく対処する。



  ギィィーーーーッン!!!!



  おれは背後に防御魔法を展開して、スペンサーの一撃から身を護るのだった。


  「なぜだ……!? なぜこの攻撃が防げる!」


  スペンサーはまるで今の攻撃がおれに必ず通用するお思っていたかのような反応を見せる。

  だが、もしもそうなのだとしたら申し訳ないがそれは勘違いでしかない。


  「なぜかと言われてもな。魔力感知でわかったからだ」


  おれはただ事実を述べるのだった。


  「バカを言うな! もし仮に本当に、魔力感知でおれの気配がわかったからといって、そんなに都合よく防御魔法を展開できるものか……!」


  ヴァンパイアの青年スペンサーはそう騒ぎ立てる。


  そんなことをおれに言われてもな。

  実際できるものはできるのだ。


  一瞬姿が消えたことには驚いたが、すぐに背後にスペンサーの魔力が出現したのは感知した。

  さらに、怪物モンスターとなった今のおれにとって彼の動きなどそれほど速くは感じない。

  十分に対処できるものなのだ。


  それにおれは魔法の発動までかかる時間も極端に短いらしい。

  魔力回路に加えて魔力操作も恵まれているらしく、他人よりもすぐに魔法が発動できるようなのだ。


  スペンサーには悪いことをしたが、魔法を覚えた今のおれにとって彼は敵ではない。

  これ以上は時間の無駄でしかないだろう。


  「いつまで続けるつもりだ? おれはお前をどうこうするつもりもないし、お前におれは殺せない。時間の無駄でしかないぞ」


  おれは彼らのためを思って優しく進言する。

  ヴァンパイアは賢いと聞いているし、現実を知れば手を引いてくれるだろうと思ったのだ。



  だが——。



  「絶対コロシテヤル……」



  スペンサーの瞳の奥にはあふれんばかりの憎悪が滲み出ていた。


  うむ、どうやら上手くはいなかったようだな。

  やはり、ヴァンパイアという未知の種族とのコミュニケーションを図るのは難しいものだな。

  おれは思い通りにならない現実にがっかりとしてしまうのだった。


  その後も、スペンサーは諦めず果敢におれへと魔剣で襲いかかってきた。

  だが、いくらやろうと結果は変わらない。

  おれたちの間には大きな実力差があるのだった。


  そして、しばらくすると遂にスペンサーは手を膝につき、息を切らしてその場に倒れ込んでしまうのだった。

 一方のおれは汗もかかず、優雅にその状況を眺めるのだった。



  すると、これまで後方で様子を見ていた少年が動き出す——。



  「スペンサー! 代われ……」



  ヴァンパイアの少年はスペンサーの肩に手を当て、そう告げた。

  これにはスペンサーが全力で止めにかかる。


  「レオンハルト様……!? しかし、レオンハルト様の手を煩わせるなど……」


  慌てふためくスペンサー。

  その様子からは焦りや恐怖を感じる。


  おそらく、あの二人は主従関係にあるのだろう。

  ヴァンパイアは地位やプライドを大切にする種族らしい。

  己の主人に迷惑をかけるなど許されぬことなのだろう。

  しかし、レオンハルトと呼ばれる少年はそんな彼の意思を汲み取った上で言葉を伝える。


  「構わん、おれもお前と一緒でこの劣等種ゴミクズにイライラしてんだよ」


  レオンハルトはおれを睨みつけ、威嚇をしてくる。


  どうやら、今度はあの少年を相手にしなければならないようだ。

  見たところ、おれと同じくらいの年齢か?


  おれはレオンハルトの魔力を分析した上でもう一度提案する。


  「悪いがお前でも同じことだと思うぞ。魔力を見る感じ、そこの男と大差はない」


  「結果は見えているんだし、止めにしないか?」


  現実を知ることで無駄な争いは避けられる。

  ヴァンパイアは賢い種族だからこそ、上手くいってくれればよいと願い声をかける。


  だが、予想通りといえば予想通り。

  レオンハルトはおれの提案を無視して戦闘体制へと入るのだった。


  まあ、こうなるよな。

  実物のヴァンパイアを見たおれはそう納得する。


  そこで仕方なくもう一戦することを渋々受け入れるのだったが、予想外のことに気づく。

  どうやら、今までレオンハルトは魔力を抑えていたようだ。

  魔力解放した今、再び魔力感知をすると彼の真の魔力量が明らかとなる。


  なるほどな。

  これは今までのようにはいかないかもしれないな……。


  レオンハルトの魔力量はおれの魔力量を上回っていた。

  純粋な魔力勝負では勝てないだろう。

  ならば、工夫するしかあるまい。


  不思議とおれは胸が高ぶるのを実感していた。

  まるで、レオンハルトとの戦いを愉しみにしているかのように——。


  「その生意気な口、今すぐきけなくしてやるよ……」


  レオンハルトの頭上には巨大な炎の球体が現れる。

  真っ赤にメラメラと燃え上がるその炎が、今まさにおれに迫ろうとしているのだった——。

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