14話 スペンサー vs ヴェルデバラン(1)
殺気を放ち、サーベル状の魔剣をおれに突きつける青年——。
随分と急な展開におれは少し戸惑ってしまっている。
強力な魔力が出現したと思い、様子を見に来てみたらこうだ。
まったく、物騒な世の中だなと憂いてみせる。
だが、悠長に状況の分析をしている場合ではない。
スペンサーと呼ばれた彼は地面を強く蹴っておれに向かってくるのだった——。
一瞬の出来事であったと思う。
おれは防御魔法
前に突き出したおれの両手からは闇の霧が現れ、おれとスペンサーの間には一枚の分厚い壁が出現する——。
ギィィーーーーッン!!!!
——という金切り音が聴こえ、同時に衝撃がやってきた。
だが、おれ自身に傷がつくようなことはない。
おれの防御魔法はスペンサーの斬撃を完全に無効化したのだった。
防御魔法を解除してみると、スペンサーは一度距離を取っており、驚いた顔でおれを見つめていた。
そして、それはスペンサーだけでなく、レオンハルトと呼ばれていたあの少年についても同様であった。
「何が起きたんだ……?」
「わかりません……。しかし、あの少年の仕業には間違いないでしょう」
どうやら、おれが
まったく、変なやつらだ。
魔法がありふれたこの世界ではこれくらい普通のはずなのにな。
そんなことを考えながらおれは次の手に移る。
おれを仕留められなかった彼らはもう一度襲いかかってくるはすだ。
ならば、先に手を打っておかなければならないだろう。
おれは土属性魔法を発動させた。
すると、大地から一本の剣が姿を現す。
これはレイシアの魔法を真似たもので、大地から土の剣を生成したのだ。
もちろん、魔力で加工と強化をしているので十分な武器となりうる。
ただ、魔剣相手には役不足かもしれんがな。
「クッ……なんの!」
そして、おれの予想通りスペンサーはもう一度おれに襲いかかってくる。
先ほどまでの涼しい顔は消え、悔しさからかその整った顔を歪ませていた。
おれの経験上、怒りに身を任せて敵に突進するのは賢いやり方だとはいえない。
特に相手の戦力や手の内を完全に把握できていないのならばなおさらだ。
おれはそんなスペンサーの斬撃を再び対処する。
今度は繊細な土の剣を使って的確に力を受け流すことにする。
正面から受けてしまえば魔剣には勝てないからな。
おれはダグラスと模擬戦をしたときのように主導権を握りながら、一方的にスペンサーの剣技を無効化していく。
必死に魔剣を振るう彼の攻撃を受け流し、その剣を弾こうとコツコツと剣先で突くのだった。
このスペンサーという男は強い。
ダグラスやレイシアとは比べものにならないほどだ。
しかし、
今のおれは人間離れした身体能力と判断能力に加えて、魔力でそれらをさらに強化するという技まで会得した。
スペンサーは魔剣でおれの身体に触れることすらできないのであった——。
「何だ、お前!? 何者だ……!!」
スペンサーは声を荒げて騒ぎ出す。
どうやらおれに遊ばれているという現状を前にして、相当頭に来ているみたいだ。
そこでおれはもしやと思い尋ねてみることにする。
「お前たち、もしかしてヴァンパイアか?」
魔人とは思えない強大な魔力。
魔人の集落を見下ろして蔑むその態度。
そして、魔人のおれに歯が立たなくて発狂する様子を見て、レイシアから聞いていたプライドが高いヴァンパイアの特徴と一致していたのだ。
すると、スペンサーはドスの効いた声で答える。
「そうだ! ヴァンパイアだ!」
「貴様ら劣等種とは違って、選ばれし種族なんだ! なのにどうしてこの剣は貴様に届かない……」
ほう……。
どうやら、本当にヴァンパイアだったらしい。
なるほどな……。
これはレイシアから聞いていたよりもずっと面倒くさいな。
ヴァンパイアは優れており、魔人は劣っていると心から信じきっているようだ。
そんな彼らにとって、魔人のおれ相手に歯が立たないというのは心底許せない事実なのだろう。
魔人よりも優れていることをどうしても示したいようだが、こちらとしても殺されては堪らん。
いい感じで終わりにしてくれればよいのだが……。
そこでおれは正直に意見を伝えることにする。
「そうか、それは失礼な態度を取ってすまなかった」
唐突なおれの謝罪に一瞬、スペンサーの動きが止まった。
そこで、おれは続けて勝負を終わらせたい旨を伝えるのだった。
「おれとしてもヴァンパイアとは闘いたくない。ヴァンパイアは丁重に扱えと教えられているからな」
「お前たちの勝ちでいい。もう止めにしようじゃないか」
これでやっとヴァンパイアたちから解放される。
おれはそう確信した。
しかし、おれの提案に彼らは乗ってくるようなことはなかった。
むしろ、さらに彼らの怒りを買ってしまったようであった。
「魔人風情がこの後に及んでまだおれらを馬鹿にしてるのか……」
スペンサーの後方にいるレオンハルトと呼ばれていたヴァンパイアの少年は鬼の形相でおれを睨んでいる。
そして、スペンサーもまた口から血を流すほど歯を食い縛り怒りを露わにしているのだった。
「魔人
おれは本能的に危険を察知する。
魔力感知でスペンサーが未知の魔法を使おうとしていることを察したのだ。
感じたことのない魔力の流れだ。
何が起こるかわからない。
おれはスペンサーの姿を逃すまいと彼に注視する。
しかし、そんなおれの努力も虚しくスペンサーは姿を消してしまう。
そして、彼は突如としておれの背後に出現するのだった——。
「シネェェェェェェエエ!!!!」
スペンサーの魔剣がおれの
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