13話 魔人とヴァンパイア

  おれと魔人の少年フリンで、ダグラスとアルバート夫妻を見送る。

  彼らは早馬に乗って風のように去っていき、あっという間に見えなくなってしまう。


  そして、おれは残されたフリンと見知らぬ家で二人きりとなった。

  さて、どうしたものか……。


  外の世界に飛び出したくてダグラスに付いてきたはよいものの、広い世界を体感したのはほんのひと時だけで、おれはいつものように家の中で留守番という役目を与えられてしまった。

  特にすることもないので、おれはフリンに色々と聞いてみることにする。


  「お前は何歳なんだ?」


  「13だよ」


  「そうか、お前の方が年上だな。おれは10歳だ」


  「あっ、そうなんだ……。よろしくね」


  なんともよそよそしいやつだ。

  おれの方が年下なのだから、もっと堂々としていればよいものを……。


  沈黙が続くのも気が引けたので話しかけてみたが、フリンは内向的な性格のようで話は続かなかった。

  まあ、おれも別に仲良くしたいわけでもなくったので特に落ち込むことはなかったが、それでも何か引っかかるものがある。


  もしかすると、彼の父アルバートに仲良くしてくれと頼まれたからかもしれない。

  おれは根気強くもう少しフリンと話してみようと思った。


  だが、こういう時は何を話せばよいのだ。

  好きなものか、それとも趣味とかか……?

  しかし、おれ自身に好きなものも趣味もない。

  そんな中で話を始めても話が広がるわけもないか……。

  とりあえず、共通の話題でも話してみるとしよう。


  「ああ、よろしくな。それで、いつもダグラス……おれの父さんはここへ来ているのか?」


  「うん……。それでいつもパパとママと出かけるよ」


  おれは今日あったことを話そうと思い、ダグラスたちのことを尋ねてみる。

  すると、どうやらダグラスとアルバート夫妻はおれの予想通り、定期的に出かけているようであった。

  この事が気になったおれはもう少し詳細を尋ねてみることにする。


  「そうか。お前は彼らがどこへ出かけているのか知ってるか?」


  「知らない……。でも、ヴァンパイアたちに会いに行ってるみたい」


  「ヴァンパイアにだと……。なぜだ?」


  「わからない……」


  突如としてフリンの口から出てくるヴァンパイアという単語——。

  どうやら、ダグラスたちはヴァンパイアのところへ出かけているという。

  だが、その理由まではフリンに知らされていないようであった。


  すると、フリンはもじもじとしながら話を続けた。


  「けど、いつも食べものを持って帰ってくる……」


  なんだって!?

  つまり、ダグラスがよく食糧を持って帰ってきていたが、それはヴァンパイアから貰っているということなのか……?

  しかし、どうしてヴァンパイアがおれたち魔人に食糧を……?


  おれはフリンの告白に戸惑いながら、色々なことを考える。

  そして、ヴァンパイアについてフリンに尋ねるのだった。


  「ここにはヴァンパイアはいないのか?」


  「うん、ここは魔人の村だからね」


  ふむ……。

  どうやら同じ村で共存しているというわけではないのか。


  つまり、あくまでも棲み分けはされている。

  これはレイシアから聞いていた通りだ。


  では、なぜヴァンパイアと魔人は……。



  その時、おれは強い魔力の出現を感じた——。



  おれの身体が反応した……!

  隠しているようだが、これまで感じられなかった独特な魔力を感じる。

  それも集落にいる魔人たちのものではない……。


  もっと強い圧倒的強者の魔力だ。

  それが2つも同時に出現したのだ。


  「あっ、ヴェルくん……!」


  おれは一目散に駆け出していた。

  フリンがおれを呼んでいたようだが、おれは構わずに魔力の発生源へと走り続ける。


  「おっ、どうした?」


  「何慌ててるんだ?」


  集落の魔人たちがおれを見るなり声をかけてくる。

  だが、おれは彼らの声を無視して過ぎ去っていく。


  そうか、こいつらはおれと違ってこの魔力を感知できていないのか。

  おれは魔力感知に優れているようだから、この謎の魔力を発見できたが、他の者たちは違うのだろう。


  どうやら、こいつらも一応は魔力を抑えているようだしな……。


  そして、おれは集落から数キロ離れた丘の上へとたどり着くのであった——。




  ◇◇◇




  丘の上では、黒の衣装に身を包む地位の高そうな少年と青年の二人組がたたずんでいた。


  「これが魔人の集落ってやつか……。随分みすぼらしいものだな」


  「さようでございますね、レオンハルト様」


  彼らは丘の上からおれが先ほどまでいた集落を見下ろして会話をしていた。


  「だが、劣等種族にはお似合いの貧相な土地と住まいのようだな」


  「さようでございますね、レオンハルト様」


  少年は魔人の集落を見下し、青年はそんな彼の意見に同意をする。

  そして、少年はおれの存在に気づいているようでおれの方を振り向くのだった。


  「それでこいつは何者だ、スペンサー? 」


  「おそらく、この集落の魔人かと思われます」


  冷静に淡々と答える青年。

  だが、そんな彼の回答に少年は激怒する。


  「そうじゃねぇよ! そんなこたぁ、わかってる……!」


  「魔人のくせに、どうしてこのおれ様と目線を合わせて突っ立ってるんだって聞いてんだよ」


  金髪の少年は眉間にシワを寄せて怒りを露わにする。

  どうやら、おれが少年を直視していることに腹を立てているようだ。

  すると、青年は少年に頭を下げて謝罪をし、腰に差してある剣を抜いておれに突きつける。


  「失礼いたしました。この不届き者をただちに始末します」


  スペンサーと呼ばれた青年はおれに殺気を向け、そう宣言するのだった——。

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