11話 外の世界へ(1)
前世で何かやり残したことがある気がする——。
そんな心のモヤモヤを抱えたおれは、かつての故郷へ戻ることを目的に生きることにした。
だが、そのためには家の外に出る必要がある。
しかし、ダグラスもレイシアもおれが外の世界に出ることを許してくれなかった。
このままおれは家の庭までしか出られず生涯を終えるというのか……?
そんなのたまったもんじゃない。
だからこそ、おれは二人に交渉するのであった——。
◇◇◇
いつものようにダグラスが出かける身支度をしている。
彼だけはおれたち家族の中で唯一外へと出かけていた。
理由は食糧の買い出しだそうだ。
週に三回のペースで彼は馬に乗ってどこかへと出かけていく。
このタイミングを見計らい、おれは交渉するのだった。
「おれもダグラスと一緒に出かけたい」
脈絡もない唐突なおれの発言に驚くダグラス。
しかし、すぐ彼はいつものようにおどけて見せるのだった。
「おいおい、急にどうしたんだ? 俺と出かけたいなんて、ファザコンにでもなっちまったのかよ」
「それだけはない。安心してくれ」
「なんだと! ホント生意気な口を聞くようになっちまって」
いつものようにダグラスと戯れていると、様子を見ていたレイシアが間に入ってくる。
「まぁまぁ、落ち着いてください」
「それで、あなたはどうしてダグラスと一緒に出かけたいと思ったの?」
レイシアがおれにそう尋ねてきた。
特に嘘をつくわけでもなく、おれは素直に話すのだった。
「そろそろおれも外の世界に出たいと思ってな」
すると、おれの答えを聞いたダグラスが真面目な口調で説明する。
「なぁ、ヴェル……。前にも話したが外の世界は——」
「魔法を覚えた。おれにとって、もう危険なんかじゃないはずだ」
ダグラスが言いたいことはわかっていた。
外の世界は危険だからダメだ——。
これまで何度も言われ続けていたことだからな。
最後まで聞かずにもわかった。
確かにダグラスが話すように外の世界は危険なのかもしれない。
しかし、今のおれには魔法がある。
ダグラスを悪くいうわけではないが、魔法を覚えたおれはダグラスよりも強い。
つまり、ダグラスが外の世界に行って帰って来ている以上、彼より強いおれは大丈夫なはずだ。
そして、レイシアもまたダグラスのようにおれを止めようとする。
「そうは言ってもね、ヴァンパイアたちが——」
「常識も身につけた。母さんから色々と教わったからな。ヴァンパイアを怒らせることもないはずだ」
ヴァンパイアたちの機嫌を損ねたら危険だ——。
これはレイシアから散々言われてきたことだ。
しかし、彼女からヴァンパイアについても色々と教わった。
優等種であり、おれたち魔人よりも魔法の扱いに優れていること。
そして、プライドが高くおれたち魔人を見下していることなどだ。
ヴァンパイアに出会ったら、こちらが
特に問題ないではないか。
自信満々に大丈夫だと宣言するおれに、二人は困り果てた顔をする。
そこでおれの方からも二人に尋ねるのであった。
「二人は何か隠しているのか? おれが外に出られない理由があるとでもいうのか?」
二人は互いに顔を見合わせて何かを確認し合っている。
やはり、おれには言えないようなことでもあるのだろうか?
そんなことを思いながら、二人の様子を伺っていると、彼らはため息をついて頷くのであった。
「わかったよ……。ただし、初めはそんな遠くまで連れて行ってやれないからな」
ダグラスは渋々と折れたようで、おれの外出同行を許可する。
よし!
まだまだ先は長いだろうが大きな一歩だ。
こうして、おれはダグラスに連れられ、生まれて初めて庭の外へと出るのだった。
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