10話 常識と非常識

  ダグラスが我が家の地下に訓練場を造ったあの日から、おれはレイシアに魔法とこの世界の常識を叩き込まれることになった。

  一週間も続けれるとおれはレイシアが扱えるすべての攻撃魔法と防御魔法を習得することができた。

  それに魔法が栄えているこの文明での常識についても教わることができた。

  その中で、おれには常人離れした3つの点があることがわかったのだった。



  1つ目は魔力感知の精度だ。

  前世である人間のときは大気中にある魔力を感じることはできなかったが、魔人として生まれ変わった今は大気中にある魔力を感じることができるようになった。

  どうやらこれは魔力感知という能力をおれが持っているかららしい。


  魔族や精霊体は少なからずこの魔力感知という能力を持っている。

  そのため、大気中にある魔力を把握することや他人が持つ魔力量を推し量ることができるのだ。

  ただ、レイシアが言うにはおれの魔力感知の能力は常人離れしているらしい。


  魔法を発動するためには、魔力を体内に張り巡らされた魔力回路と呼ばれるものに流す必要があるそうだが、おれは優れた魔力感知によって他人の魔力回路の状態まで確認できるのだった。

  そのため、一度魔法を目にさえすれば、どのように魔力回路に魔力を流せばその魔法が使えるのかがわかってしまうのだ。


  ただし、魔力回路とは指紋や声紋のように誰ひとりとして同じものを持つものはいないそうだ。

  魔力回路が異なれば、同じ魔法を使おうとしても魔力の流れは多少ズレてくる。

  そのため、人によって使える魔法と使えない魔法が、得意な魔法と不得意な魔法が出てくるらしい。

  この事が以前レイシアがつぶやいていたスキルという存在と関係しているようだ。


  レイシアの話では、おれたちは親子であるため魔力回路のつくりは比較的に似ているらしい。

  それもあって、彼女の使う魔法はおれが真似しやすいだろうという話であった。



  2つ目は魔力制御と魔力操作の技術だ。

  おれは他人よりも優れた魔力感知を持つことによって、レイシアが使った魔法を一瞬で分析して理解し、真似することができる。


  しかし、魔力回路を流れる魔力がわかったからといって、自分も同じ魔法が使えるかというとそんな単純な話ではないらしい。

  そもそも、体内にある魔力を操るには相当な訓練が必要であり、自分の意思で魔力回路に思い通りに魔力を流せるようになるまで、普通の人ならば何年もかかるそうだ。


  それをおれはあっさりと魔力を操るに成功してしまった。

  それも親子とはいえど魔力回路は違うため、おれは無意識のうちに自分の魔力回路に合うように魔法を修正して発動しているらしいのだった。



  3つ目は大気の魔力を無制限に吸収できることだ。

  魔法を発動するには魔力を消費してしまう。

  しかし、体内にある魔力は有限のため魔法を使っていると尽きてしまう。

  そのため、大気中の魔力から補充する必要があるのだが、おれはそれが無尽蔵にできるのだ。


  レイシアが言うには、大気中の魔力を体内に取り込むのは個人差もあるがけっこうな時間がかかるものらしい。

  特におれたちのような劣等種は時間あたりに取り込める魔力はごく僅かなようだ。

  そのため、魔法の発動によって消費する魔力量と大気中から取り込む魔力量では、前者の方が圧倒的に多いため魔法を使っていると魔力切れになってしまうそうだ。


  それに対しておれは魔力切れというのをまだ経験したことがない。

  これはおれが持つ魔力量が多いということもあるそうだが、どうやらおれは大気中の魔力を高速で吸収することができることにあるそうだ。


  そのため、おれの場合は魔法の発動によって消費する魔力量と大気中から取り込む魔力量が同量であるため、魔法を使っても魔力切れになることはないようだ。

  つまり、大気中に魔力がある限りおれは魔法を無制限に使えるらしい。



  これがおれの常人離れした能力だそうだ。



  だが、他人と違うからといって両親の対応が変わることはなかった。

  二人ともいままでと同じようにおれを大事な息子として接してくれている。

  それがおれはどこか嬉しかった——。



  そして、レイシアから教わったことで他にも驚いたことがある。

  どうやら魔法には戦闘に特化した攻撃魔法と防御魔法以外にも様々な種類の魔法があるらしい。

  もしかすると、その中にはおれが人間時代に暮らしていた故郷に戻るのに役立つ魔法もあるかもしれない。

  それがわかれば、いずれおれの心にあるこの使命感の正体もわかるかもしれない……。


  そんな魔法の存在を期待しながら、おれは日々レイシアと魔法の訓練にいそしむのであった。

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