6話 才能開花
母レイシアから魔法を教わることとなったおれだが、一つ気になることがあった。
「それと、さっき母さんが話してたスキルとは一体何のことなんだ……?」
おれは先ほどのレイシアの話で気になっていたことを尋ねることにする。
ダグラスはスキルを持っていないから剣術に向いていないとはどういう意味なのだろうか。
「それは魔法を教える時に詳しく話すことにしましょう。それより、今はあなたに魔力を抑えることを教えないとね」
どうやらスキルについてはお預けらしい。
今のおれには別の問題があるようだ。
「魔力を抑える……?」
「はい。ダグラスと戦ってから、あなたは魔力を体外に放出し過ぎているの。このままでは、まだ幼いあなたは身体を壊してしまうわ」
魔力を体外に放出しているだと……?
確かにダグラスと戦った後から身体の様子がおかしい。
いつもより動きやすく、そして感覚が研ぎ澄まされているような気がするのだった。
「ですが、どうしたものかしら……。今は精霊がいないし、魔力制御のやり方なんて口で説明したところでわからないと思いますし……」
あれこれと悩むレイシア。
そんな彼女の様子を見て、おれは一つ提案をしてみる。
「母さんがその魔力を抑えるというのをやってみてくれないか。見ればわかるかもしれない」
えっ……?
と驚いた顔でおれを見つめるレイシア。
どうやら、おれの発言はあまりにも突拍子もないことであったようだ。
「それは構わないですけど、魔力は見るモノじゃなくて感じるモノですから……」
そう言いながらレイシアは魔力の放出を抑えるのだった。
その様子をおれはしっかりと見つめており、確かに魔力の挙動を感じることができた。
彼女が両手に炎を灯したときに、魔力が体内からじわじわと滲み出てくるのを感じた。
そして今、魔力を抑えようとした彼女は体外への魔力の流出が止まり、残された魔力が周囲に拡散していくのが見てとれた。
それにどうやら魔力とは首や腕、足の付け根などの太い血管がある部分から多く出ていることも見てとれた。
よし!
今ので十分だ。
おれはレイシアの真似をして魔力量を完全に抑える。
体内の血液の流れを感じるように、魔力の流れも感じて、意識的に制御する。
そして、おれは自信あり気にレイシアに告げるのであった。
「こういうことだろ?」
おれは体内から外に放出する魔力を極限までゼロにしてみせる。
すると、これを見たレイシアは驚きのあまり目を見開いてしまう。
「うそ……」
彼女は言葉を失っているようだ。
「どうしてあなたに魔力操作ができるの……?」
「どうしてと言われても、母さんがやったのを真似ただけだ」
「その真似るというのが普通はできないのですよ!」
珍しくレイシアは声を荒げる。
おれが見よう見まねで魔力を抑えたことは、そんなに信じられないことなのだろうか……?
「そうなのか? 母さんの魔力の流れを見て、魔力は身体の何ヵ所かに重点的に収縮されるのはわかったから、あとはそれを意識しながら流れ出る魔力の水路を閉じただけだ」
もちろん魔力に色がついているわけではないため、レイシアを見ていたからといって視覚的に魔力の流れがわかるわけではない。
ただ、おれは魔力がどこの位置にどのくらいの量があるのか感覚でわかっているため、魔力の流れを把握することができるのだ。
つまり、第三の眼があるかのように魔力が見えるのだ。
これはおれが生まれたときからできていたことのため、おれ以外のやつらもみんなできることだと思っていた。
だが、レイシアの反応を見る限りどうやら違うようだ。
「確かに、魔力の量を感じることができる者は多く存在します。ただ、他人の魔力回路に流れる魔力まで事細かくわかってしまうほどの魔力感知なんて聞いたことがありません……」
「ヴェルデバラン……。どうやらあなたは特別な才能を持っているようね」
そうか、おれは魔力を感じることに長けていたのか……。
前世では魔力なんて持たない人間だったから、この感覚が鋭いのか鈍いのかなんてわからなかったな。
そして、レイシアはおれの持つ才能に驚きつつも、どこか嬉しそうにしながらボソッとつぶやくのであった。
「わかったわ。これは私も本気を出して指導しないといけないようね……」
何やらおれの母がやる気に満ち溢れているような気がするな。
まあ、よしとするか。
彼女はいつも退屈そうに窓から家の外を見るばかりの毎日を送っていたのだ。
おれがその退屈しのぎにでもなれば息子としての役目も果たせるだろう。
そして、このタイミングで父ダグラスが帰ってくる——。
「いま戻ったぞ! わが愛しの妻と最近親離れしたクソ生意気な息子よ!」
彼はいつものおちゃらけた様子で家の中に入ってくる。
さっき出かける前に見せていた深刻そうな表情はもはや面影すらなかった。
まあ、こっちの方がダグラスらしくてよいのだがな。
そして、おれと視線が合うなりひと呼吸置いて語りかけてくるのであった。
「そうだ、ヴェル。今日のことだが、
おちゃらけるのが好きなダグラスだが、この時だけは子どもに言い聞かせるような真面目な口調だった。
「ああ、わかってる。さっき母さんと約束したところだ」
そんな真剣なダグラスだからこそ、おれも反発することなく真面目に返答する。
だが——。
「おぉ! 流石はレイシアだ。もうヴェルのやつに言い聞かせていたなんて……。本当、いつも君には助けられてばかりだ」
息子のおれそっちのけで、いつもの気持ち悪いラブコールをレイシアに送るのだった。
だからこそ、いつものようにおれはダグラスにちょっかいを出してやることにした。
「そうだ、ダグラス。お前から剣術を教わるという話だったが、もちろんあれはナシだ。おれは母さんから魔法を教わることにしたよ」
おれはレイシアから魔法を教わることになったとダグラスに伝えるのだった。
すると——。
「何だって!? どうしてそんな話になったんだ? だって、えぇ!?」
突然の告白に慌てるダグラス。
「レイシア、君だって俺がヴェルに剣術を教えることを賛成していたじゃないか……?」
そんな彼はレイシアにそう訴えかけるのであった。
すると、レイシアは苦笑いをしながらダグラスに話すのだった。
「まぁ、いいじゃない。それに、ヴェルデバランは既に貴方よりも剣術に優れているっていう話じゃないですか」
ダグラスはこのひと言を受けて大きくショックを受ける。
レイシアに悪気はないのだろうが、流石のおれもダグラスを可哀想に思ってしまった。
まあ、たまにはダグラスの剣術の相手もしてやろう。
父を哀れに思ったおれはそう心に決めるのだった。
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