18. 甲板 サミーとキャシー サミーの後悔
「じゃあね、レイ。ニコをよろしく。フィリップ、ケーニッヒ久しぶりだろうから気をつけて。二人ともまた後で!」
フィリップはソックスの機体で飛ぶことになった。
脱出艇の数が足りないので、ケーニッヒの操縦経験があるフィリップがサブシートにショーンを乗せて逃げることになったのだ。
フィリップが普段乗っているアマツカゼは別の若手の隊員が搭乗していたのだが、その隊員は帰ってこなかった。
「ニコは任せろ。ミラ、気をつけてな!」
レイの声に、ミラは手を振って答えた。
機内が広いケーニッヒならば、ニコをねじ込むスペースもある。ニコはレイに預けることにしたのだ。
大丈夫、宇宙に出れば、レイにはまたすぐに会える。
安全圏まで移動したのち、ミラのアマツカゼはレイの機体にドッキングし、サミーはフィリップとドッキング。そうすれば、亜高速航行ができないアマツカゼでもブラボーⅠまでひとっ飛びだ。
隣のブロックの駐機場で待機している己のアマツカゼまで走る。
同僚のパイロットたちが次々出撃していく。エレベーターやリニアカタパルトの制御は甲板で有線接続待機しているサミーの役割だ。
もちろん、サミーはコックピットにキャシーを乗せている。
ランデブーポイントで合流し、亜高速飛行で逃げるという三段だ。
装備を整え、ミラは己の機体に飛び乗った。エレベーターで甲板に上がる。早速サミーから連絡が来た。
「ラプター、すみません、時間がありません。今すぐ出てもらいます」
「わかった」
ミラはごくりと唾を飲み込んだ。甲板で何かが起こっている。
助けに行かなければ。
***
キャシーは甲板の上に戻っていた。もちろん、サミーのコックピットの中である。
リニアカタパルトでホークアイが宇宙に打ち出されていくさまが遥か遠くに見えた。皆どんどん脱出を図っている。
「ホークアイ、制限解除。では計画通りに」
「サミー、キャシー、礼を言う。ブラボーⅠで会おう!」
護衛のアマツカゼ六機がホークアイに寄り添うように編隊を組んで飛んでいく。
敵影は見えない。
「ホークアイにはギリギリまで目になってもらいます」
サミーは今も、各所のエレベーターを制御し、リニアカタパルトを作動させ皆が脱出する手助けをしている。
民間人の脱出はほとんど終わっていた。残るは、システムに組み込まれたサイボーグたちだ。
彼らをシステムから出すのには労力がかかり、結局どのサイボーグ脱出艇もギリギリになってしまった。
「早速残党がいるようですね。ホークアイが見つけてアグレッサーに討伐するように伝えています。護衛が手薄になりますが致し方なしです」
キャシーがいると、いざという時にサミーは本気で飛ぶことができない。だから、自分は脱出艇に乗ると言い張ったのだがサミーはそれを許してくれなかった。
彼曰く『他の自動操縦システムや、どこの馬の骨ともわからないパイロットに預けられない』とのことだ。キャシーは笑ってしまった。ミラやドルフィンも笑っていた。
「まだ住民は結構残ってる?」
「サイボーグの手助けをしていた職員たちの脱出艇が三機残ってますね。こちらは彼らのタイミングで出られるように、プログラムで動くので放っておいても大丈夫です。今、カナリアも無事ジェフとともに宇宙空間に出ました。別のサイボーグ避難艇も十機同時に出ました。後はアグレッサーの機体数機に最後までサイボーグの避難の手伝いをしていたラプターたちですね。まったく、最後まで残らなくても……」
「じゃあそれほどかからないな」
「ええ、キャシー……あの、聞いてもらえます?」
「ああ」
(どうしたんだ?)
どこか深刻な気配を感じた。
「さっき、SNSの情報拾って解析かけたんです。そうしましたら、例の陰謀論。あれをネットにばら撒いていた端末情報は研究員のもので……おそらくですが、あの捕虜、随分前から研究者をたまに操って端末経由で色々流していたようですね……研究室に端末は表向き持ち込み禁止になっていますが……」
キャシーは息を飲んだ。
「前々から研究員の身体乗っ取って色々やってたってこと?」
「ええ、本格的に脳を乗っ取ったのは昨日私が宇宙に出てからだと思いますが、身体をたまに借りてアクセスしたが、何かの拍子に端末を奪ってアクセスしたのか……」
それが意味するところは一つ。ゼノン陰謀説を流して人々を扇動し、結果としてあの襲撃が起こったのだ。
「ソックスを殺したのは人ですが、でも……計画し煽ったのはあのゼノンでした。私がしっかりしていれば。感じた違和感に対しきちんと対処しておけば……これを、人は後悔と言うのですね」
「サミー。サミーだけの責任じゃない」
そう言ってやるのが精一杯だった。
どうしたらいい、他になんと言ってやればいい?
「大丈夫、今だってこんなに頑張ってるだろ。一緒にブラボーⅠに行くぞ」
「はい……今、ダガーが出ました。次はラプターとドルフィンです。エレベーターに誘導しています……ドルフィンは私を許してくれますかね?」
「何言ってんだ。許すとか許さないとかそういう問題じゃない。ドルフィンもミラもエリカもホークアイも誰もお前を責めたりしない。ドルフィンやホークアイにそんなこと言ってみろ、何言ってんだって怒られるぞ」
その時、視界の隅に何かが見えた。
キャシーは首を回らせた。息が止まる。背筋が凍った。
「やられましたね……ラプターたちをまず逃します」
敵機だ。三機。レーダー上では誰もが全く気づかなかった。おそらく、メインアイランドの外壁に張り付いていたに違いない。
待っていたのだ。サミーを、ドルフィンを、そして、サイボーグたちが出てくるのを。
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