14. サミーの活躍
「距離空けて! このドアぶち破る!」
ドアと壁の隙間に火花が散った。
「レーザーカッター……」
ダガーが呆然とつぶやく。
「なんて装備を……」
言葉を失った男性陣二人が呆然としていると、ドアが蹴破られた。
「ごめん待ったね!」
仁王立ちするミラは、船外活動もできる気密服を来ていた。目元にはゴーグルをつけ、耳にはイヤホン型無線を装備している。背中にはショットガンを背負い、腰にもハンドガンやパルス銃が下がっている。
手には大活躍したレーザーカッター。
おそらく他にも、見えないところに武器やなんやら持っているに違いない。手榴弾や爆薬の4,5発持ってそうだ。
(パイロットには見えない……)
彼女は耳元のイヤホンマイクのスイッチを入れた。
「サミー、レイとフィリップと合流した。道案内ありがとう」
***
ミラはサミーに心から感謝した。迷わずスムーズに来ることができた。
「あとは帰りです、基本来た道を戻れば帰れます。念の為音声で道案内しますので、その通りに戻ってくだされば第三格納庫に戻れます」
「了解、キャシーの方もよろしくね」
ミラはダガーに駆け寄ってハグした。バックパックからニコがちらりと見えていた。
「ニコ、ここまで持ってきてくれたの?」
「今や逆にここまで連れてきてよかったって思ってるよ」
フィリップの乾いた笑いがなんとも言えない。
「レイ、ここまでありがとね」
「この先は俺が先頭で行く。一番リスクが低いからな。警備ロボットの反応からしても俺は敵だと思われてない」
「うん、よろしく」
「ミラ、喉乾いてない? よければこれ、冷えてないけど」
フィリップが差し出してきたのは、ミラが大好きなレモンフレーバーのミネラルウォーターのペットボトルだ。
(ご褒美だ!)
「ありがとうフィリップ!」
「これ持ってけって言ったのドルフィンだから、ドルフィンに礼言えよ」
「レイ! ありがとう」
長テーブルの上に佇んでいたドローンに思わず抱きついた。
「なんにも見えない」
胸元でレイが何やら言っているがミラは聞こえないふりをした。
「嬉しい! 疲れた時はこれ! レイわかってるね!」
ミラはガバ、と体を離した後にペットボトルを空けて、ごくごく半分くらい飲んだ。
「生き返るー! さて行くよ!」
ミラのその言葉に、レイのドローンがプロペラファンを展開し飛び上がった。
「あ、サミー。俺一つ考えがあるんだがいいか?」
レイはサミーに問いかける。
「なんです?」
「あ、ちょっとスピーカー切るな。どこかに盗聴器があるかもしれないから」
ミラのイヤホンに声が聞こえた。
「例の捕虜、このまま完全武装のミラに抹殺して貰えばいいんじゃないか? セキュリティ死んでるならどこでも入り放題だ。歩いて行けるならって話だけど」
***
「今時イーサネットケーブルってなんだよまじで」
キャシーが毒づいた。LANケーブルと変換器である。昔、ネット接続に使っていたものだ。機械の通信で使うこともあるが、正直現代ではあまり日の目を見ないシロモノである。
整備士の準備室を引っ掻き回したらなんとか確保できた。モノを捨てられない人間が多くて助かった。
「すみません、接続を確立できそうなものがそれしかなくて。片っ端から差してください」
「サミーを非難してるわけじゃないから! 確かに、サミーに色々ポートあったな……まさか、こんな時に使うなんて!」
キャシーは息を切らしながら梯子を降り続けていた。
数十メートル降りたのち、足が平らな面に接地した。
「足がついたぞ。まだ梯子は正面」
「180°真後ろを向いて、そのまま壁にぶつかるまで進んでください。大体100メートル」
「了解した!」
気密服に酸素ボンベを積んでいるのでとにかく身体が重い。他に適任がいたのではないかと思うが、サミーが指名したのはキャシーだ。
(サミーの期待に応えなくちゃ)
人一人がなんとか通れる通路だ。メンテナンス用通路なのでとにかく狭い。それゆえ警備ロボットなどもいない。
サミーが道を選んで遠隔で案内してくれているのだ。彼は以前メインアイランドの構造図をダウンロードしていたらしい。
彼自身「役に立つ日が来ようとは」と言っているほどである。
「突き当たりまで来たぞ」
「左に扉か何かありませんか? そこを開けると階段があります。一番下まで降りてください」
開けると確かに階段があった。ものすごく長い予感がした。
若干の眩暈に襲われる。
「ちなみに何メートル?」
「……三十メートルはあろうかと」
建物十階分である。
「まじかよ……登るよかましか」
キャシーは階段を駆け下り始めた。心の中で悪態をついた。いつになったら終わるのだ。
なんとか下まで辿り着く。
膝に両手をついて喘いだ。汗を拭き、水分補給をして息を整える。
「今、ドルフィン、ダガーとラプターが合流しました。今からラプターが奴を抹殺しに行きます」
「ま、まじで!?」
「今ホークアイとも通信中ですが、敵影はほとんど見えないとのこと。偵察中の残党くらいですね。敵にかなりの損害を与えたからか、一時襲撃がやんでいます。一度皆が補給に戻れるくらいの時間は稼ぎたいです。親玉を活動停止に追い込んでもらえたら、しばらく保たせられます」
「わかった、急ぐ!」
***
「ジェフ、ジェフ! 聞こえますか!」
突如、イヤホンマイクにサミーからの通信が入った。これは無線通信だ。システムがおかしくなって医務局はてんやわんや状態だった。
ジェフは今、暴走するロボットをなんとか片付けた居合わせた軍人や警備員と共に入院病棟の出入り口を物理的に塞ぎ終わったところだった。
「聞こえる。サミー、何がどうなってるんだ? システムダウンではちゃめちゃだぞ。ロボットは大暴走してるし」
「脱出艇での避難の準備をしてください。敵は随分前から引いています。どうやら、高みの見物モードに入ったようです。私が有線接続でシステムを修復して、エレベーターを動かしてハッチを開けるのでその隙に。もちろん脱出艇のシステムも修復します! 細かいことを話している暇はありません。入院患者とサイボーグたちは避難に時間がかかるはず!」
「避難ってどこに?」
「あなたの故郷ですよ! 脱出艇の準備を。今カナリアが牽引車に引かれながら医務局の地下に向かっています。メインシステムがやられたので、ブラボーⅡはそのうち酸素がなくなります。重力制御システムは独立で動いているのでまだ無事ですが、いつまで保つか」
医務局の地下には物資の運搬のための輸送機用ポートがある。
ブラボーⅡは沈みかけている。それだけわかれば十分だ。
「院長に話す。信用するぞ、お前のこと。院長ぶん殴ってでも実行する」
「ありがとうございます、お願いします」
***
(ミラの体力と運動神経がとんでもない……)
どんどん先に進んでしまうミラとなんとかついていくダガー。
ミラは通気口を抜け、パイプの上を渡り、飛ぶようにジャンプする。
「俺めちゃめちゃ体力落ちてますね……」
「この前まで骨折で運動できなかったんだから仕方ない。ミラ、息上がってないんだけど何? どうなってんの?」
ぜいぜい言いながらダガーはなんとかミラに追いついた。零はダガーの頭の上あたりを飛んでいる。
「ミラ、ドルフィンが不思議がってんぞ。息、上がってねぇって……ちょっと水分補給させてくれ」
ミネラルウォーターで喉を潤すダガーの隣で、ミラが誇らしげにピースした。
「私、心肺機能が鳥と一緒だから!」
「え! 気嚢があるってこと!?」
「そう、さすがレイ、詳しいね!」
哺乳類は肺を動かすために横隔膜を使うが、鳥は肺とつながった気嚢を利用する。人間は息を吸った時しか新鮮な空気が肺に入らないが、気嚢がある鳥類は気嚢がポンプの役割を果たし、息を吸った時も吐いた時も肺に新鮮な空気が行き渡るようになっている。
それゆえ、渡り鳥は空気の薄い標高の高い山脈の上を越えることができるのだ。
(とても言えないが、松山が最高傑作と呼んだ意味がわかった気がする……)
並外れた視力、体力、身体能力。それから強化された頭脳。握力と腕力、脚力も軍人男性を凌駕すると聞いたことがある。
(その上かわいいんだから……困ったもんだ)
ダガーが息を整え終わったので、小休憩はここまでとしまた先に進む。
整備用の裏通路から広い廊下に出たので、零が先頭に出た。
「次の角を右に曲がってください」
「了解した」
サミーの指示に、ホバリングして角からちらと伺う。ロボット兵が三体。
「ミラ、標準型ロボット兵、三体確認」
ミラのイヤホンに音声を送る。ミラがダガーに3本指を見せ、他にも何やら指で合図をした。ダガーが頷く。そこからは瞬足だった。
ダガーが正面のセンサーにハンドガンで一発。ミラが流れるように後ろに回って右手のハンドガンで一発。左手に持っていたパルスガンが二体目に命中し、二体とも完全に活動停止。
その間にダガーがハンドガンで二発を連射して三体目も沈黙。
(敵じゃなくてよかった……)
実に恐ろしすぎるきょうだいである。特にミラはスパイ映画か何かのような銃捌き。
「的確すぎる……」
「廃棄になったロボット兵をショーンといじくり回したことがあるんですよね!」
賞賛したドルフィンに、ダガーが誇らしげに言った。だから的確にメインセンサーやメイン基板を撃ち抜けたのだろう。
「私はさっきキャシーと一緒に倒したロボット兵と警備ロボットいじり回してメイン基板とか駆動部の弱点特定した」
(整備士ども、息をするようになんでも分解するよな……)
「敵にバレただろうね」
「急ぐぞ。ダガー、ついて来られるか?」
「平らなところだったら問題ないです!」
「もうすぐそこです。200メートル先右手。ドアを開ければガラス張りの研究室です」
サミーの案内に廊下を見渡せば、研究者らしき人が数名遠くに倒れていた。赤外線カメラで見るに、皆息絶えているようである。
「念の為監視カメラ落とす」
ミラがハンドガンを構えた。数発の発砲音とともに近くの監視カメラが撃ち抜かれた。
「もうちょっと待って」
唖然としている零を差し置き、ミラがさらに一言。彼女は地面に片膝をつくとアサルトライフルを構えて連射した。一発も無駄にせず、廊下全ての監視カメラが鉄屑と化す。
彼女は慣れた手つきで再装填して立ち上がり、背中にショットガンを背負う。
「すご……」
零が呆然と呟いた時、眼下の二人は弾かれたように走り始めていた。零は慌てて後を追った。
例の部屋は目の前だ。ミラは小型のパルスガンを構えていた。ハンドガンを構えたダガーがドアを開ける。
ミラとダガーが扉の向こうに銃口を向けた。
中央のガラスが割れていた。研究者三人がラップトップに向かっている。
「え……」
彼らの後頭部に謎の触手のようなものが刺さっていた。それを辿れば、丸い球体があった。
表面などことなるぬるりとした光を放っていた。両生類のような不思議な光沢だ。
球体は驚いたように一瞬飛び跳ねて、表面が数箇所割れるとそこから短い触手が現れてうぞうぞと移動を始めた。
「白い球体が見えますか? それが本体です!」
「サミー、目標確認。掃討に移る!」
ダガーがハンドガンを球体に向け、発砲。敵の白いボディはそれを弾き返す。
「危な!」
零がホバリングしていたすぐ横の壁に穴が空いた。
「やっべぇ! だめだ効かない!」
「パルスガンならどうだ!?」
ミラがパルスガンの銃口を向け、残弾全てを撃った。球体はぴたりと動きを止めた。ラップトップに向かっていた研究者たちもばたばたと倒れる。
ダガーが彼らの方に駆け寄る。
「念の為破壊する」
ラップトップをハンドガンで破壊し、倒れている研究者を覗き込んだ。
その口が動いた。
「助けてほしい。そこで飛んでいるのは、我々の同胞、電子生命体だろう?」
遥か遠く、格納庫にある己の心臓が跳ねた。
音は全てサミーにも届いているはず。
(やはり俺を、サイボーグを、仲間だと思ってる……)
「戯言は聞き逃して、早くそいつを始末してください! もはやブラボーⅡは沈みゆくタイタニック号状態です。よくもここまでダメージを与えてくれましたね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます