4. 動物園 バードドーム
精悍な顔立ちに鋭い嘴と爪を備えているにもかかわらず、意外にもピーとかミャーとかかわいい声で鳴く猛禽にミラも興味を持ったようだ。
「見た目格好いいのに、声かわいいんだね」
「そう、ギャップがまたいい」
(君もだけど!)
彼はこのギャップにやられたのだ。かわいい見た目で無邪気な性格。しかし戦闘ともなれば彼女は捕食者の女王のような堂々たる風格を見せる。
シロフクロウとそっくりな色の目で、シロフクロウを見ている彼女を見やる。
猛禽は好きだが家で飼育していた種類も多く、比較的身近にいたので先ほどのヒクイドリ相手の時のように我を失う零ではなかった。
彼女が満足するまで眺めたのち、バードドームに入ってガラスや金網越しではない鳥を眺めた。
いつまでも抱いたまま移動されているのは申し訳ない。ミラに近くのベンチで下ろしてくれとお願いした。
すると、ミラは零をベンチに下ろした後、意気揚々とインコ用の餌を購入していた。
「わっ! 頭の上は! ちょっと!」
ミラが餌の入ったカップを手にした瞬間に、頭の上にコガネメキシコインコが飛び降りてきた。
黄色やオレンジの鮮やかな羽の中型インコである。
ミラは首をすくめて戸惑っている。
「手をインコの足元に差し伸べて、ちょいちょいって誘導してあげて。手に乗るよ」
彼女は頭の上に手を伸ばした。インコは零の言った通りに素直に手に乗った。
「おおおー! すごい!」
感心したようにそろそろと手を下ろす。インコは餌のカップを持った左手に飛び乗って、カップの中に頭を突っ込んで餌を食べ始めた。
ミラはベンチに戻ってくると、ドローンの隣に腰掛けてインコを覗き込んでいた。
彼女は手をそろそろと下ろして、こちらからもよく見えるようにしてくれた。
「綺麗な子だね、羽がツヤツヤだ」
「カラフルでかわいいね。南国の鳥?」
「そう、コガネメキシコインコ。ブラジル原産」
そんな話をしていると、同じ羽の色をした仲間たちがミラの腕や肩に舞い降りてきた。
「鳥の成る木みたいになってる……」
ミラは端末を取り出して写真を撮り始めた。
それから別の餌を購入して、トキやシギにも餌をあげて、しばらくベンチでまったりしてからバードドームを出たのであった。
***
「キャシーから連絡が来た」
園内バスにて。
ミラの膝の上のレイのドローンが唐突に言った。
「どうかした?」
「昨日調子悪くなった俺の
「そうか、今キャシー、レイの機体も見てるんだもんね」
「昨日の演習の後調子悪くってさ。油漏れしてるらしい。他にも諸々部品交換必要みたいで……なんとしてでも今日中に直すからって言ってる」
「任せろ! って言ってるよ、きっと」
「うん、任せろ! って言ってる」
ミラはドローンを撫でてやった。本人は気づいてないかもしれない。でもそれでもいい。
「今夜のご飯は私一人か。帰りに夕飯の買い物しようって言ってたけど、どうする? キャシーが言ってたけど、料理って一人分って作りにくいんでしょ?」
「そうだね、二人分の方が作りがいがあるのは確か」
バスの開いた窓からの風に揺れる前髪をかき上げながら、ミラは一つ提案した。
「なら、ソックスのところ行かない?」
ソックスの両親が経営しているトルコ料理店、カラ・デニズ。また行きたいなと思ったのである。
「いいね、あいつ実家帰ってるらしいから、多分今日も店にいるんじゃないか? 確か店舗兼住居だって言ってたし」
我ながらいい考えだ、とミラは思った。
あれ以来、ソックスとは会っていないのだ。見舞いがてら行くのもいいだろう。
だが、今すぐに向かったら時間的に流石に早すぎる。
「充電してく?」
「そうだね、結構飛び回ってたから夜までもたないかもしれない」
バスを降りて、二人はドローンの充電ステーションに向かった。
レイが充電している間、ミラは隣でコーヒーを飲みながら待っていた。
「そこのショップに買い物とか行ってきてもいいんだよ?」
グッズや菓子類などを売っているショップである。ミラは一緒にいたかったので当然のようにこう答えた。
「待ってる。ショップは一緒に見ようよ、飛行禁止でも抱っこしてあげる」
一応気遣って、レイ一人でぼーっとしたいならどこか行くけど、と彼女は続けた。
「退屈なんじゃないかな、と思って言っただけだから。一緒にいてくれた方が嬉しい」
「私に遠慮はダメだよ」
「わかった」
ふふ、と笑みをこぼしたミラは、先ほど撮影した鳥の写真をドルフィンと一緒に見ることにした。
ショップでグッズやお菓子を見ながら、レイは早速ソックスに連絡を入れてくれた。
そもそも今のブラボーⅡは外を出歩く人数が少ない。朝に見たデモの集団に軍が駆り出されることもあるので、皆地上階には出てこないのだ。
彼の実家の店は閑古鳥が鳴いている状態なようだ。
「大歓迎だってさ。いっぱい食べて飲んでほしいって」
その言葉で二人の向かう先は決まった。
ソックスのところに行くのなら、何かお見舞いになるものを持っていかなければ。そう考えたミラはデパートの菓子売り場でうんうん悩んでいた。
「あいつ相手にそんなに悩まなくていいぞ」
「どうしよ、何がいいかわからない」
「なら俺が選ぶよ。任せて!」
レイはお茶に合うお菓子を数種類選んだ。
「こういうところの高級菓子なら任せてくれ」
「頼もしい」
(全然こういうところのわからないからなぁ……)
支払いは全部レイがしてくれた。
ミラは決心した。ソックスの店で飲み食いしたものに関してはレイは手出しをしないはず。だから、売り上げで貢献しよう。
(一番高いワイン飲んでやる)
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