13. ミラの機転 反撃 

 フローリアンの機内をミサイルアラートが響き渡る。


 ドルフィンがデッドウェイトになる外付けのマイクロミサイルパックを切り離し、急旋回しようとしている様子が見えた。でもダメだ。間に合わない。

 流石にフローリアンも覚悟した。


(ドルフィンの目の前でラプターを乗せたまま……)


 その時である。ラプターは突然操縦桿のトリガーに手をかけた。

 レーザーガンがアクティブモードに変更される。


「ラプター、何を?」

「私に任せろ!」

「どうするというんだ?」

「チャフもフレアもなければ作る!」

「なんだって?」


 ヘルメットバイザーに照準環が出現。ラプターは目の前にあったレーダー中継ポッドにそれを合わせる。


(まさか……!)


 フローリアンは彼女の考えがやっとわかった。

 高速で航行している彼の機体にとって、ほんのコンマ数秒の間のことであった。

 トリガーを引く。レーザーガンが命中。


「敵機! ミサイル発射!」


 フローリアンの声と共にラプターは操縦桿を引いて機首をひょいと上げ、華麗にレーダー中継ポッドを飛び越える。一瞬ののち背後で爆発したレーダー中継ポッドの熱を誤認したミサイルが吸い込まれ、爆散。


 ラプターはそのまま操縦桿を倒し、180度ロールして背面姿勢になり、ピッチアップ。その組み合わせで180度のターンをかける、いわゆるスプリットSの機動を取り逃げをうつ。


「ッ!!! うぉっ!!!!!」

「ホークアイ、うるさい!!!」 


 あまりの機動にフローリアンは無様な悲鳴を上げ、ラプターに一喝される。


(なんてことをするんだラプター!)


 旅客機と同じ構造の機体で戦闘機の飛行機動マニューバを行うなんて想定していない。翼が木っ端微塵にならなくてよかった。


 大気圏だったら空中分解していたかもしれない。フローリアンは己の心臓が肉体を覆うチタンカプセルを突き抜けて飛び出すのではないかと思った。

 本当にやめてほしい。これ以上は心臓に悪すぎる。

 一瞬管制が疎かになっていたが、瞬時に我に返る。前線を確認。敵影は見えない。


 あとはスクランブルをかけたメンバーで、今ここにいる二機をどうにかしてくれさえすれば何とかなる。

 絶望の中に小さな光が見えたような気がした。


***


「こちらラプター! ドルフィン、サミー、頼んだ!」

「ワイバーンワン、了解。先行する機体を引き受ける。ワイバーンツー、サミー、もう一機を落とせ!」


 ドルフィンがソックスとサミーにそう飛ばし、ドルフィンは急旋回して一機目に向かう。


 二機の戦闘機がDNAの二重螺旋構造のような機動を描き、ハサミの開閉運動のような動きを繰り返して互いの背後を取ろうとする。

 相手の背後を取ろうと互いに最大Gで旋回する機動である。


「ドルフィン、シザーズは!」


 ミラは苦しげな声を発した。


「流石にドルフィンでもあのGは……頭に血が上っているな?」

「どうしよう、どうにもならない……何もできないなんて!」


 ホークアイに乗っているミラは全力で戦域離脱行動を取っている。普段の自分の機体ならば彼のサポートができるのに、今乗っている機体ではどうにもならない。


 その時だった、ドルフィンとのシザーズ機動から敵機は離脱行動を取った。


「なぜだ!? ドルフィンの方が機動性は下なはずだが!」

「やっぱり……ゼノンはドルフィンやサミーを本気で落とそうとしないんだ!」


 まさかゼノンが回避行動を取るとは思わなかったのだろう、ドルフィンは思い切り振り切られる。敵機のターゲットは明白だった。


「こちらサミー。ソックス、編隊を離脱してホークアイの護衛をします!」

「こちらソックス、了解した!」


 サミーもその先の展開を読んでいた。サミーが人であったらあり得ない機動を描き、身を翻してこちらに向かってきた敵機に向かう。


「やっぱりこっちにきたな……!」


 ミラは即座に操縦桿を傾けて回避行動に移る。敵機は予想通り高G旋回をしてこちらに向かってきたのである。


「そうはさせません!」


 最大戦速で敵機に突っ込むサミー。敵機は背後を取られないように機首上げをして、ブレイク・ターンをかける。

 急速に機首上げしてターンをした敵機に追いつけず、オーバーシュートするサミー。

 敵機はサミーを深追いすることもなくこちらにターンしてきた。ミラが声を上げる。


「っ! やっぱり狙いはこっちだ! ドルフィン!」

「任せてくれ! 俺が落とす!」


***



 ドルフィンが敵機に肉薄した。的確な攻撃機動でミサイルと改良型中口径レーザーガンの嵐をお見舞いするが、敵機は横滑りするようにするすると逃げおおせる。

 その時だった。フローリアンは気づいた。ソックスが危ない。

 彼は声を上げた。


「ワイバーンツー、六時に敵機!」 

「「しまった!」」


 ラプターとドルフィンの声が重なった。

 ソックスは急旋回をかけるが、敵の攻撃が右翼を木っ端微塵にした。


「メイデイ、メイデイ。こちらワイバーンツー、操縦不能!」


 ターンをかけた敵機がソックスに迫っている。フローリアンは叫んだ。


「ワイバーンツー、脱出しろ!」

「脱出します!」


 コックピットごと宇宙空間にソックスが放り出された直後、敵機のミサイルが機体を直撃。


「ソックス! 無事か!?」


 別の敵機と互いに前に後ろになりながらドッグファイトを繰り広げているドルフィン。

 彼の声にソックスが応答する。


「こちらソックス、無事です! すみません!」

「こちらドルフィン。サミー! ソックスの機体の仇を打ってくれ!」

「了解しました」


 破片を駆動部にでも喰らったのか、その敵機は動きがぎこちない。戦域から離脱を図るがサミーが追いかける。


「攻撃管制! こちらホークアイ。ワイバーンツーが撃墜された。パイロットから無事と通信あり、救護艇の準備を要請する」

短距離ミサイル発射フォックスツー!」


 サミーのミサイル発射のコール。ミサイルは確実に敵機を捉えていた。

 爆光輝き、敵機は四散。


「ミサイル直撃。敵機の撃墜を確認しました」

「サミー! ナイスキル」

「よくやったサミー!」


 ラプターとホークアイがサミーに声をかける。

 サミーは即座にインメルマルターンで反転し、ドルフィンの援護に向かった。

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