13. ニューヨークブロック 雨宿り
「全然タクシーも捕まりそうにないなぁ……」
依然、雨は降りつづいていた。
ジェフは端末でタクシーの配車サービスの手配をしようとしていたが全く捕まらなさそうだ。
「みんな考えることは一緒ですね」
ミラはパフェの一番底のヨーグルトをすくって口に入れた。
美味しかった。満足だ。
ブラックコーヒーに手を伸ばしてすする。
「どうしたもんか。まあ待つしかないかなぁ……」
その時、窓の外を見ていたミラの目に何かが映った。
「え……ドローン?」
「え?」
ジェフも端末から顔を上げた。窓の向こうに傘をぶら下げたドローンが二体飛んでいた。
ミラは慌てて入り口に向かった。ジェフも慌てて追いかける。
「タクシー、捕まらないだろ。傘持ってきた」
「あ、ありがと……」
そこにいたのはドルフィンとサミーのドローンだ。
一目で分かった。これには理由があった。
ドルフィンの機体に描かれているシンボルがペイントされていたからだ。
もう一機は見知らぬシンボルがペイントされていたが、ブレスレットは間違いなくサミーのものである。
この土砂降りの中傘を持って飛んできてくれたのか。
「ここにタオルがあるので拭いてくださいますか?」
サミーがビニールに包まれたタオルを差し出してきた。
軒下にあったテラス席のテーブルを借りてびしょ濡れのドローンを拭き、店員に話をつけて二人とドローンは席に戻った。
「零、まさかお前が傘持ってきてくれるとは」
「難儀してそうだったからな」
ミラはサミーに興奮気味に問いかけた。
「サミー、そのシンボルどうしたの?」
「先日考案しました。今機体にもペイントしているんですが、ドルフィンがせっかくだからドローンのパネルに印刷しようと言ったので便乗しました」
それは丸に囲まれた、美しい円錐形上の山だった。頂上に雪を被り、周りにはサクラのような花が散っている。その下、普通のパイロットであればタックネームが記してある箇所にはSUMMYと記載があった。
「サミットはご存知のように山の頂上やトップを意味します。私の創造主は日本出身です。なので富士山とサクラの花であしらいました」
「あ、やっぱり富士山か。サミー、センスいいな」
ジェフは身を乗り出してサミーのシンボルを覗き込んでいる。
「ありがとうございます」
「これでドローンがどっちだかわからなくなることもないだろう。もちろんブレスレットもそのままだ」
彼が言っているのは、ミラとキャシーが二人にプレゼントした手作りのブレスレットである。
「そういや、そのブレスレットのお返し、結局何にしたんだ?」
ジェフは意味深そうな笑みを浮かべながら言った。
「……今ラプターがしてるピアス。似合ってるだろ?」
「お! そうだったのか! かわいいなとは思ったけどさ、まさか零のプレゼントだったとは」
「ジェフ、なんでプレゼントのこと知ってるんですか?」
「え? だってなぁ零」
ジェフはドルフィンのドローンに意地の悪い笑みを浮かべた。
「……相談したんだよ。お返しに何あげればいいかって」
言いにくそうにドルフィンは白状した。
「女の子に何あげればいいかわからんって俺に相談してきたんだ。いやぁ零君をかわいいなんて思ったの初めてだ!」
「俺みたいなのをかわいいとか言ってんじゃねぇぞ! どこがだ気持ち悪りい!」
ミラはくすりと笑みを漏らした。
ドルフィンとジェフが痴話喧嘩をしているのを見るのは実に楽しいのである。
「私は助かりました。キャシーへのプレゼントは本当に何をあげればいいか困っていましたので」
「サミーのプレゼントもジェフがアドバイスしたんですか?」
「俺はなんにもしてない。サミーはほぼエリカがアシストした」
「手取り足取りサポートしてもらいました!」
「そうだったんだ! なるほどね! エリカなら間違いないよ」
エリカもおしゃれなものは好きだし、世話焼きなのできっと楽しく買い物に付き合ったのではなかろうか。
「これからも困ったときは自分で考えて調べるだけでなく、皆に相談しようと思いました」
「うんうん、それがいいよサミー!」
「何でも聞け。困ったら頼ってくれ。俺も困った時にはサミーを頼りにしている」
AIは、育てる人間や運用方法によって善にも悪にもなる。
ただの戦闘マシーンにならなくて本当によかったと思う。これからもサミーは人と暮らして触れ合っていく方がいいだろう。
「私もサミーを頼りにしてる。やっぱり私らナマモノはあんまり負荷がかかる飛び方できないから」
「ミラ、ナマモノ言うなよナマモノ」
「じゃあ俺は半ナマか?」
ドルフィンは面白そうに言った。
「ドルフィンも一応ナマモノでは? 外骨格の」
「俺をカブトムシ扱いすんじゃないぞ!」
「外骨格は人工物なので、本体だけ言うなら軟体動物ですかね? ナメクジとか? 厳密には軟体動物ではないですけど、ドルフィンの本体をチタンカプセルから出したらイソギンチャクもありですかね?」
「せめてタコとかイカとか知能が高い生き物に例えたらどうだよ……よりによってナメクジ」
頬杖をつきながら、ジェフはサミーを見遣った。
「外骨格なら、私だったらエビとかカニとか甲殻類がいいなぁ……軟体動物なら貝」
「ラプター、俺は食べ物じゃないぞ……」
「もうミドリムシでいいんじゃないですか?」
「流石に光合成はできない……しかもナメクジより原始的になってる……」
ミラはふふふ、と笑い声が漏れてしまった。
「……最初はなんの話だったっけ?」
ジェフはうんざりしたように言った。
しばらくして、叩きつけるような豪雨が弱まってきたので一行はカフェを出た。
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