12. 零たちの部屋 リビング サミーのプレゼント

 久しぶりに一人の夜だった。

 家に帰れば、ドルフィンかミラ、サミーの誰かが必ずいる。だけど今日は珍しいことにキャシー一人だ。

 ミラは飲みに誘われたと言っていたし、しばらく帰ってこないだろう。食材を買ってきて料理でもしようかと思ったが、どうもそんな気が起きなかったキャシーは出来合いのものを買ってきて適当に食べ、シャワーを浴びて今に至る。


「テレビもつまらないなぁ……」


 マスコミは政府や軍の批判ばかりしている。うんざりしてテレビを消した。


(仕方ないだろ……あんな未知の敵)


 サミーもミラもドルフィンも、必死で戦ってメインアイランドに入り込んだ敵を撃墜したというのに。

 確かに政府はグズグズして亜高速飛行に入り逃げるのを躊躇ったのは事実だ。

 だがそれも仕方ない、地球やブラボーⅠ、その他大規模船団も同じような攻撃を受けている。逃げたからってどうこうできるものでもない。


 この広い宇宙で自分達の居場所はモロバレなのだから、他の対処を考えなくては。だが、対処といったって、何も思いつかない。

 毎回、サミーが緊急発進スクランブルする度に不安で不安で仕方がない。一度飛んで行ったら最後、自分にできることは祈ることのみである。


(重症だな……ミラのこと、どうこう言えない)


 今日、サミーは用事があると言っていた。ついさっきも格納庫ハンガーに機体はあったので飛んでいるわけではない。だから不安に思うことなど何一つないのに、元気だろうかなどと思ってしまう。

 AIに元気も何もないのだが。


「人じゃない。あいつは人じゃない目を覚ませ、キャサリン・コリンズ」


 自分に言い聞かせるように口に出す。

 そう、しゃべる戦闘機だ、ドルフィンだって見方を変えればしゃべる戦闘機だが、あの男は人間だ。でもサミーは違う。AIだ。

 だが、生きてない、感情がないとは最早思えないキャシーであった。だってあんなふうに懐いてくれたらかわいすぎる。

 その時だ、インターホンが鳴った。そしてスピーカーからドルフィンの声が降ってきた。


「キャシーか、すまないが手伝って欲しい。荷物が多くて!」

「今行く!」


 ドローンで荷物を持って帰ってきたのか? 珍しいな。キャシーは急いで玄関に向かった。


「おかえりドルフィン……サミーも一緒か。え?」


 目が点になった。ドルフィンとサミーのドローンがそこそこ有名なルームウェアのショッパーをぶら下げている。中身は別か? ただの荷物運搬用に誰かからもらったのか?


「ただいまキャシー」

「ただいま帰りました」

「やっぱりこれが目に入りますよね。先日のお礼です。続きはリビングで」


 ドアがバタ、と閉まってガチャ、と鍵がかかった。重そうなのでとりあえずショッパーを受け取った。とりあえずリビングに移動して、それをソファの上に置いた。


「お礼?」

「はい。うまく渡せないので自分で取り出してくださると嬉しいのですが……」

「開けていいの?」

「はい、差し上げます」


 キャシーは少々混乱しながら中を覗いた。中身と外側のショッパーはリンクしていた。これ、自分へのプレゼントってことなのか? ぽかんとサミーのドローンを見た。


「私へのプレゼント?」

「ええ……お気に召したら嬉しいんですが」

「サミーが自分で選んだんだ。なかなかセンスいいと思うぞ」


 キャシーは中身を取り出した。透明フィルムに包まれてリボンがかかっている。薄紅色のボーダー。取り出せば、肌触りのいいルームウェアの上下セットだ。あの攻撃で部屋ごと何もかもを失い、今は支給のTシャツとハーフパンツを寝巻きとして使っていたキャシーにとって、本当に嬉しいプレゼントだった。


「かわいい! サミーが選んだの? すごいなありがとう気に入ったよ。着てくる!」


 キャシーは自室に走った。


***


「喜んでくれるって言った通りだったろ?」

「はい……嬉しいです」


 零は安心して充電器の上に降り立った。ラプターはまだ帰ってきてない。帰ってきたらピアスを渡そうと思っていた。


「ドルフィンもラプターに喜んでもらえるといいですね」

「ああ、そうだな……」


 余裕ぶってそうは言ってみたが、零自身全く余裕のない状態だった。

 ああ、どうしよう。うじうじ悩んでいたその時、部屋着を着たキャシーが戻ってきた。いいのではないか。なかなか似合ている。


「じゃーん! 最高じゃない? サミーありがとう!」

「似合ってるな」

「ちょうどルームウェア欲しかったんだ」

「気に入っていただけてよかったです」


 どこか初々しいそんなやり取りを眺める。サミーにキャシーがいてくれて本当に良かったと思う。

 自分一人ではどうにもならなかった。ここまで人っぽく育ててやれたとは思えない。


「ドルフィン、それ、ミラへのプレゼント?」

「ああ……気に入ってくれるといいんだけどなぁ」

「中身気になるなぁ……でも、絶対喜んでもらえるよ。安心するといい。な、サミー」

「私も中身が気になります。ラプターのことですからドルフィンからのプレゼントなら絶対に喜んでくれるでしょう」


 キャシーは頬杖をついてニヤニヤしていた。


「そうか、今日の用事ってのはプレゼント買いに行ってたのか」

「そうなんです。私が悩みに悩んでドルフィンに迷惑をかけて申し訳ない限りです」


 いやいや、迷惑などとは思ってない。むしろ、すごく嬉しかった。

 サミーがプレゼントを贈りたいだなんて思うくらいに成長したことは、零にとって暁光以外の何ものでもない。


「気にするな。友達だろ?」


 実際のところ、零はあまりサミーの役には立っていないのだが。


「ありがとうございます。ドルフィンがいなければジェフやカナリアからも助言をもらえませんでした。私のためを思ってジェフのところに行ってくれたんですよね?」

「あ、ああ……そうだな、よくわかったな」


 そこまで読まれていたのかと若干零はうろたえた。


「俺も久しぶりにみんなで出かけて楽しかった、また出かけような」

「ええ、今度はキャシーとラプターも一緒に出かけましょう」


 その時であった、玄関のドアが開いて「ただいまー」という声が聞こえてきた。ラプターが帰ってきたのである。

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