3. 零たちの部屋 ダイニング 戦闘映像
カリッカリに焼いたトリカワは香ばしくもジューシー。最高だ。塩味もちょうどいい。これは無限に食べられそうだ。
「おいしい……」
「気に入ってもらえたならよかった。また作るよ」
ミラはかたわらのドローンの発言を聞いて黄金色の目を輝かせた。
「ミラ、目がキランキランだ……私の分も食べるといいよ」
「俺のもあげる」
「本当に? いいんですか!」
自分の分を差し出したキャシーとジェフ。ミラが一人感動に打ち震えていると、インターホンが鳴った。
「サミーだ。玄関開けた」
ドルフィンのものとそっくりなドローンがファンの音をさせて飛んできた。最近はドローンで移動するのがお気に入りらしい。会議などではよく会議室にドローンを飛ばして参加しているようだ。
「ただいま帰りました」
「サミー、おかえり!」
一番に反応したのはキャシーだ。ミラもサミーを労った後、自分の席をサミーに譲った。ダイニングテーブルの定員オーバーだったからである。
キャシーはサミーと話したいだろう、そう思ったミラは、自分の皿と箸を持ってそそくさとリビングに移動して、ローテーブルに焼き鳥の乗った皿を置いた。タレのもも肉もひっさらってきたのである。
ドルフィンがどんどん焼いているので問題ないだろう。最後の一串の皮を味わう。
ドルフィンがビールの半分残ったグラスをアームでうまいこと掴んで飛んできた。ことり、とこれまた上手にテーブルに置く。
「ありがとう!」
残ったビールを飲み干した。最高だ。次はタレたっぷりのもも肉に手を伸ばす。
「軽いものなら任せて。今レバーも焼いてるから待ってね」
この男はどれだけ肉を注文したんだ? まあ、ミラとしてはまだまだ食べられるので構わない。
今回の集まりの発案はジェフなので、食費はジェフとドルフィンが負担している。それが気がかりだ。なんだか申し訳ない。困ったことに、自分が一番食欲旺盛だからだ!
「ドルフィン、ここのモニター借りますね。例の動画を皆に見せたいのですが。もちろん先ほど上の許可は得ております」
「ああ、好きに使ってくれ」
ミラは顔を上げた。
「例の動画?」
「俺たちが敵さんとドンパチやってた時の動画。サミーが撮影、録音して編集したものだからラプターももちろん出てるよ」
「ふーん……見る」
ミラはその時深いことを何も考えていなかった。そして後悔することになった。
ミラは頭を抱えた。今、リビングとダイニングのモニターにはメインアイランドでの戦闘中の映像が垂れ流されていた。
『うるさいうるさいうるさい!私がなんとかする! そんなことは地上に降りてから聞くから今は黙って私の言う通りにしろ!』
こんなことを言っていたのか、自分は。酷すぎる。
もはやうめき声を上げることしかできない。
「今更だけどこれ見ていいの俺?」
「いいんじゃないか? 上からもOK出ているし」
ジェフが呆然と呟き、それにあっけらかんとドルフィンが答える。
「ええ? いいの? 俺戦闘に全く関わってない医官だからなぁ」
「ジェフ、階級はこの中で一番上じゃない」
カナリアの声にジェフが答える。
「まあそうだけどさぁ……」
ジェフは確かにこの中では階級こそ一番上の少佐である。だが、彼自身元々は軍人ではないし、船籍移籍と共に軍に入った軍医だ。軍人と言っても軍歴はそれほど長くもないこともあり、プライベートで会っているのでみんなに気楽な口調で会話してほしいと言っていた。
彼は主にサイボーグシップやミラやフィリップなど、世間的に言う一般の身体とは異なる健康管理が必要な隊員たちを任されている統合軍宇宙航空軍医大隊の所属だ。
エリカはジェフとはミラを介して会うまで面識がなかったようだが、ホークアイはジェフの部下が担当していて元々面識があったようだ。
ミラは自分の担当医に敬語を使わないのはちょっとどうかと堅苦しい口調を直せないでいるが、それに関してはジェフも仕方ないと笑っている。だが最近ジェフと名前で呼べるようになった。
「零、お前こんなに燃えてたのか」
「ドルフィン、こんなに満身創痍だったのね……」
「正直、絶望という言葉はこういう時に使うのだと思いました」
ジェフにエリカにサミーの声が耳に入り、ちら、とモニターを確認するとまるで映画のようだった。自分の機体の後ろでドルフィンがふらふらと飛んでいる。映像はサミー視点だが、彼はあの時自分たちの後方、やや上空からこの映像を撮影していたようだ。
そして、例の消火活動が始まった。水飛沫と共に虹が発生する。ミラは両手で顔を覆った指の隙間からそれを薄目で見た。
「超きれいだなぁ……」
と、キャシー。
「これは素敵ね……機体はボコボコだけど」
と、エリカ。
「この時びっくりしすぎて何も言えなかった」
ドルフィンはしみじみと言った。それをぶち壊したのは自分の発言だった。
『地上管制。ドルフィンの火災を消した。着地地点を指示せよ』
感情が無。我ながら怖すぎた。
「ドルフィン、色々申し訳ない……」
「いいよ。すぐに諦めてた俺もどうかと思うし」
「……本当にごめん。こんなこと言ってたなんて……」
「零もここまでどやされりゃ目が覚めるだろ。ちょうどいいんじゃねえか?」
「違いない」
ドルフィンはジェフの発言に笑ってさえみせた。
フォローは嬉しいが、自分がドルフィンにこんなひどい口を訊いていたのかと冷や汗が止まらない。
「ラプター、大丈夫だよ、別になんとも思っていないから」
『は? ドルフィンは降着装置が出ないんだ。聞いていたか? 胴体着陸するしかないんだ、摩擦抵抗を減らすために消火剤を撒かなくてどうする!?』
ミラは再度顔面を覆った。なんということだ。地上管制にもとんでもない口を訊いていた。記憶にない。そうか。自分は追い詰められるとこうなるのかなどと自覚する。
「上層部はむしろラプターを誉めていましたよ。よくドルフィンを地上に降ろしたと」
「ラプター。上からのお咎めもないわけだし、明日は仕事も休みだし、酒でも飲んでおけ」
ドルフィンが明るく言う。そしてリビングのローテーブルの下からキッチンにあるようなアームが出てきた。
「ワイン飲みたいって言ってただろ? レバーと赤ワインもなかなかだぞ」
ミラはびっくりしてアームを凝視した。キッチンの方から配膳ロボットがやってくる。その上にはワイングラスと赤ワイン。それからタレ味の焼き鳥。
きちんと自分用とダイニングテーブルの二人分が分けてあった。ダイニングに寄ってからミラの元に配膳ロボットがやってきて、アームがワインボトルとグラス、それから焼き鳥の乗った皿を下ろした。
「はいどうぞ、追加の焼き鳥。ラプターの分」
「ありがとう……」
モニターの映像ではドルフィンが無事に地上に降りたところだった。ダイニングにいる面々から歓声が上がる。
ドルフィンのアームはワインボトルを掴んでソムリエナイフでキャップシールに切れ目を入れ、器用にそれを剥がした。
「このアーム昨日まではなかったよね?」
「今日の昼間のうちに取り付けた。ドローンだけじゃ色々難しいからな」
コルクも引っこ抜いて流れるようにグラスに注ぐ。ミラは黒髪の男性、つまりドルフィンがワインを給仕してくれる幻覚を見た気がしてぼーっとアームやグラスを見つめた。
「どうぞ。ミディアムボディだから焼き鳥に合うと思うよ」
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