17. 零の部屋 相棒との再会
「ラプター、サミー! どうぞ上がってくれ」
玄関までドルフィンは迎えにきてくれた。よく見ると、やっぱりサミーのものと同じ型式だ。これでは誰だかわからない。
「お邪魔します」
ミラは軍用のショートブーツを脱いだ。目の前にあったスリッパを履く。
「キャシーは中で安静にするように言ってる。結構怪我ひどいみたいだな」
ドローン二機に先導されるようにして、ミラはキャシーのいるリビングへと向かった。キャシーはソファの上に座っていた。
「キャシー! 遅くなった」
「ミラ! 荷物ありがとう」
とりあえずキャシーのすぐ横の座面にリュックを置いた。
「ラプター、お疲れ様。よかったらお茶でも飲んで」
配膳ロボットの上にはグラスに注がれた飲み物。
「ありがとうドルフィン!」
「私はスポドリもらった」
キャシーもペットボトルのスポーツドリンクをグラスに注ぎ、それを傾けた。
「アミノ酸入りのやつだから怪我してる時いいよ。あとはタンパク質たっぷりのご飯だね」
ドルフィンはそう言ってローテーブルの上に降り立った。
「ドルフィンのご飯楽しみ! お茶、いただきます!」
先日と同じ麦茶だった、キンキンに冷えていて美味しい。
「さっき追加でネットスーパーで注文した。もうすぐ配達来るはずだ」
「悪いなドルフィン、食費は出すよ。むしろプラスで払いたいくらい」
「うん、私とキャシーで払うから金額だけ教えて欲しい。手間賃も払うよ」
「手間賃はいらない、好きでやってるだけだから」
きっぱり言われて、ミラとキャシーは顔を見合わせた。二人とも、これは折れないだろうなと悟ったのである。後で別にお礼をするしかないだろう。
「ところで今日の夕飯だけど、ガッツリ系とさっぱり系どっちがいい?」
ミラはキャシーを見た。キャシーもこっちを見てきた。せーの、で息を合わせた。
「「ガッツリ系」」
ミラとキャシーはお互いの手を取り合った。そうそう、好みは似ているのだ。仕事で寝込みそうなほどヨレヨレだったら胃に優しいものが欲しいが、今はガッツリ揚げ物なんかを食べたい気分なミラであった。
「よし唐揚げにしよう!」
ドルフィンのその声に、ミラとキャシーは感激の声を上げた。絶対美味しいに決まってる。
その後すぐにネットスーパーの配達がやってきた。ドルフィンは台所で食事作りに専念し、ミラとキャシーは部屋割りをすることに決めた。
そして、二つあるうちの寝室の片方に足を踏み入れた時のことであった。よく見知った白いぬいぐるみがベッドの上にいた。自分とそっくりな色をしたガラス玉のくりくりとした目がこちらを見ていた。
「ニコ! どうして!!」
ミラは自分の荷物を放り出して思い切りベッドに飛びついた。抱き上げる。正真正銘、ミラの大切な白フクロウのぬいぐるみ。ニコである。
「え……何でここに? どうして?」
ミラが混乱を隠せないままに後ろを振り向くと、にっこにこのキャシーとそばでホバリングするドローンの姿があった。一瞬サミーなのかドルフィンだか迷うがきっとこのドローンはサミーのものだ。ドルフィンはキッチンで料理中なはず。
「サミーとドルフィンとホークアイが私を救助に来たときに、ドルフィンとホークアイはミラの部屋にも寄ってニコを救出してくれたらしいぞ」
「嘘……ホークアイまで?」
「ええ。ホークアイはドルフィンのドローンを借りて初飛行です。彼が物理世界に出てくることなんて本当に貴重です」
「ホークアイにも今度お礼しなきゃだな……ドルフィンにお礼言ってくる」
「ああ、それがいい。行っておいで」
ミラはキャシーに促されて、ニコを胸に抱いたままキッチンまですっ飛んで行った。調理中のアームがびっくりしたように動きを止めた。
「あれ、ラプターどうした?」
アームの先端のカメラがこっちを見つめているのがわかった。うずうずした。彼に肉体があったら絶対に飛びついて嫌がられるくらい熱烈にハグするのに。
「ニコをありがとう……本当にありがとう」
「ああ、キャシーの怪我のこととかで頭いっぱいになって寝室にいてもらったの忘れてた。ニコ、君の部屋で布団かぶってたから汚れてもいなくて本当によかった」
「ありがとうドルフィン」
嬉しすぎてカメラに顔面を大接近させて礼を述べる。
「近い近い! 焦点が合わないよラプター」
カメラがびっくりしたように引いた。ミラはその様子にくすりと笑った。
「ありがとう、さっきニコをどうしても連れ出そうと思って官舎に向かったらフィリップ……ダガーに引き止められて酷いこと言っちゃったんだ。もうニコに会えないって思って、一人にしてくれって。謝らないと」
「弟分だろ? 許してくれるさ」
「うん、謝ってみる。ホークアイにもお礼言っておく」
「ああ、メッセージでも送っておくといい。あのスカした野郎、ムカつくくらいドローンの操縦が上手かった。本当に初フライトとは思えない。宇宙空間と違って風やらなんやらで操縦感全く違うのに」
ぶつくさ言いながらドルフィンは調理を再開した。アームが器用に冷蔵庫を開けて野菜を取り出し、また別のアームは鍋に水を入れて火にかけている。
「ありがとう」
「ああ、喜んでもらえてよかった。ここにいるとニコが汚れるぞ」
つっけんどんに返されて、もしかしてドルフィンは照れてるのではないかとミラは気づいた。
「何か手伝えることあったら言ってね」
「ありがとう。だけど、俺は大丈夫だからキャシーのこと頼んだ。多分一人じゃ着替えやら風呂やら大変なはずだから」
「うん、任せて」
そういえば、ドルフィンは自分に見せたいものがあると言っていた。そうか、ああ、なんてことだ。きっとニコのことだったのだ。
ミラは再度礼を言うと、キャシーとサミーの元に戻ったのであった。
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