5. メインアイランドの空 オメガ小隊
「敵機上空、回避!」
ミラの声に、サミーとドルフィンの二機が弾かれたように翼を翻した。
敵三機は全機急降下しながらミラを標的として追いかけてきた。
「ラプター! 援護する!」
ドルフィンの焦ったような声が耳に響いた。ミラはあらん限りの回避行動を行ったが警報は鳴り止まない。
「ラプター、ミサイル! 左旋回しろ!」
「了解、左旋回!」
ミラは言われるがまま、操縦桿を倒した。翼の端をミサイルが掠める。続いてビーム砲のような何かが虚空を輝かせる。
「尻尾を掴みました。ターゲットロック」
サミーの声がミラの耳に飛び込んだその時、敵機はくるりとターンして一度ミラから遠ざかるが、サミーを撒いたあとはまたミラに一直線に突っ込んできた。
「明らかにラプターを狙ってる。俺が落とす!」
ドルフィンはそう言うが、大型機ゆえに小回りが効かないのがケーニッヒの弱点であった。空気抵抗のある大気圏内ではそれが顕著に現れる。
再びミラの背後を取った敵機。警告が鳴り響く。二機を引き剥がすようにサミーが突っ込んでミサイルを発射するが、難なく避けられ、サラリーマンの平均年収ほどの花火と化す。
ミラは不思議なことに気づいた。敵機はいつでもドルフィンを落とそうとすれば出来たのにそれをしない。
サミーのことも本気で落とそうとしない。
なぜだ。
ミラが疑問に思い始めたその時だった。緊急発進してきた味方機からの通信が入る。
「こちらオメガ小隊。方位〇九〇、距離四十に遷移」
そこから、地獄が始まった。
***
なぜだ。零は困惑した。敵機は愚鈍とも言える零が駆るケーニッヒを狙わず、小回りが効くオメガ小隊が格好の標的となった。彼らの乗っていた機体はTX-2。通称スーパーファルコン。ステルス性能を削ぎ落とし、攻め込んできた敵機の迎撃に特化した機体だ。
その機体が爆発炎上、煙の尾を引きながら真っ逆さまに落ちていく。
零はそのような中でも未だなお狙われるラプターの援護で精一杯だった。彼女の背後を守りながらも、なんとか口頭ではオメガ小隊のフォローをする。サミーは一機で残りの一機を追い回している。
「オメガフォー、尻につかれてるぞ!」
「回避する!」
オメガ小隊四号機。もう、オメガ小隊は彼しか残っていなかった。正直誰が乗っているのかもわかっていないので、ドルフィンはタックネームではなくオメガの四号機と呼んだ。だが、きっと知っている男だ。
「一体どうなってるんだ。おいサミー!」
「わかりません。状況として考えうることと言えば、コックピットに人のいる機体を狙っているのでしょうか?」
「確かに一理ある」
ラプターがそう言った時、オメガ小隊の最後の一機、オメガフォーが火の玉となって落下していった。
「こちらサミー。まずいです、ミサイル残弾二発」
残弾が枯渇しているのは零もそうだが、ラプターも同じ状況なはずである。
サミーは大気圏の戦闘は初めてだ。おそらく訓練すらもしていない。最初に一機落としたことが奇跡だ。零自身もいつもほど動けない。明らかに押されている。どうすればいい? ラプター、サミーそして零の三機が残ったとなると、次の標的はラプターである。個人的な事情を含めて、彼女だけは決して失いたくはない。
「地上管制、オメガ小隊全部落ちたぞ!」
とりあえず報告をしなければ、と管制に零が声を上げる。
「こちら地上管制、メインアイランドの空に今すぐ出せる機体はない、地上から援護する。戦闘を続行せよ」
零はわかっていた。たとえ、味方機が上がっても敵機の餌食になるだけだ。そんなことはわかりきってはいたが、これほど士気を下げることを言うものか?
その時であった。無線にラプターの声が聞こえた。
「こちらラプター。私に考えがある。敵を引きつけて炙り出す」
彼女はそう言うや否や、操縦桿を一旦引き上げてその後一気に押し込んでいた。垂直上昇をした後に、眼下のビル群に一気に突っ込んでいく。
零にラプターの目的がわかった。ラプターの乗るアマツカゼより、敵機の機体の方が多少大きい。狭いビル群の間を通って敵を撒く。そして、上がってきた敵を自分とサミーで叩けと言うことだ。
「ラプター! 無茶だ!」
「私は
急降下すると、敵は素直に追ってきた。ビルの屋上に設置されていた地対空ミサイルが敵機に向かうが、敵が発射した火の玉のようなフレアを誤認識して全て爆発。
(ダメか……)
「私もラプターを追います。任せてください。ドルフィンは打ち上がった敵機の始末をしてください」
ラプターは機体をバンク、ビルとビルの間を縫うように飛んだ。それを敵機が追う。その後ろをサミーが猛追する。時折ラプターに向かって放たれる攻撃がビルを直撃して煙を上げる。
もう地上の被害なんてものを考慮していられる状況ではない。明確な意思を持ってこの三機の敵機が地上を爆撃でもしたらそれ以上の損害が出る。
零にはどうすることもできなかった。機体が大きすぎて、自分にあのような芸当はできない。
(だが……)
自分にできるのは信じることだ。零は中央インターに向かった。
ビル群の間を高速道路が入り乱れ、増築に増築を繰り返し、自動運転機能がなければ運転困難とも言われるようなブラボーⅡ随一の難所、と有名な場所である。
オウギワシはジャングルの支配者だ。生態系の頂点。それは、コンクリートジャングルにおいても決して変わらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます