4. メインアイランドの空 エンゲージ
「「「大気圏内モードオン」」」
全機、瞬時にモードを宇宙空間から大気圏に切り替えた。宇宙空間も大気圏内も活動可能な戦闘機、それがアマツカゼとケーニッヒの開発元、東方重工の売りである。
キャリブレーションデータアンローデット。警告が繰り返され、ミラはマニュアル通りにレーザーガンを再起動したが、症状は変わらない。
だめだ、おそらく調整データが吹っ飛んでいる。
「レーザーガンに不具合発生。機関砲を使う」
「こういう時のために化石兵器が予備として積んであるのか。東方重工、感心する」
「ドルフィン、感心している場合ではありません。狩りの時間です。3時方向より敵機二機接近、距離四十」
サミーが冷静に言う。それにドルフィンが応えた。
「迎撃するぞ」
眼下には居住区が広がっている。ミラの抜群に視力のいい目には逃げ惑う人々の姿が見えた。ここで戦闘をする訳にはいかない。
「ここではダメだ! まだ避難が終わってない!」
その時、二十キロ先で巨大なビームが宇宙から降り注いで天井ドームに穴を開け、ビルや地面を吹っ飛ばす。大気が宇宙空間に吸い出される。
「また穴が空いたな……俺たちの相手が増えるぞ」
今、宇宙空間で何が起こっているかは知るよしもなかったが、宇宙空間の戦闘がうまくいっていないであろうことは想像に難くない。
「接触まで二十秒。ラプター、メインアイランドの制御基部を潰されたら全員が死にます。場所を選んでいる場合ではありませんよ!」
ミラのコックピットに警報が鳴り響く。ロックオンされたか。
「せめて森林エリアか海上エリアに行く!」
ミラは8Gターンを決めてみせた。ミサイルが翼の端を掠めてすっ飛んでいき爆発するのを視界の端で確認した。ここは巨大船の中、常に下方向に向かって地球と同じGがかかっている。
(これはきついな)
ターンした時に身体中の骨が軋んだ。下方向に急激に血流が引っ張られ、胸に何かが乗りかかったように呼吸器が潰され呼吸が妨げられて、脳への血流が滞るのを感じる。
サイボーグのドルフィンは脳への血流を制御できるだろう、サミーはそもそもサイボーグなので機体が崩壊しない速度ならば問題なく飛べる。足を引っ張りかねないのはこの中では自分である。
「下のことは考慮していられません。落としますよ」
「サミーちょっと待て!」
「待てません」
ドルフィンの声を無視し、サミーは敵機に向かって急旋回。敵機もひらりと機体を翻す。
「ラプター、俺ともう一機をやるぞ。もう下を考慮してられん!」
「……了解!」
地上から地対空ミサイルの嵐を浴びて、敵機が回避行動に移る。ミラは白鳥のように機体を優雅に翻した。見事なハーフターンと空気抵抗を利用した華麗なブレーキングで敵機の背後につく。
「見事だラプター! 援護する」
戦闘機としてはかなり大型に分類されるドルフィンにとっては、この船の限られた空は狭くて飛びにくいはずだ。さっさとケリをつけなければ!
ターゲットロック、あとは引き金を引くだけ、と言うところでドルフィンの声が耳に響いた。
「二機敵機追加! やばい、後ろにつかれた!」
ものすごいスピードで飛来してきた敵機のうち一機がミラと標的の前を横切り、ミラの機体が一瞬にして姿勢を崩す。放たれたミサイルは虚空を掠めていって、遥か彼方で爆発した。
ドルフィンは急加速と旋回を繰り返し、ミラの針路妨害をした機体の背後についた。
「何?」
ミラもこれで取ったと思っていたその時、ドルフィンが後ろを取った敵機はほぼ直角に角度を変えてミラの方に突っ込んできた。6時方向。背後だ。一番つかれてはいけない位置。
「ラプター避けろ!」
真後ろからミサイルが放たれた。しかし、ミラに直撃することはなかった。
ミラの前方からサミーが現れてミラとすれ違うと同時に、ミラの真後ろにあったミサイルが空中で爆散。サミーのレーザーガンがミサイルを直撃して、サミーの機体がミラの真後ろにいた敵機とわずか数メートルの位置をすれ違ったのだ。
「当てましたが敵機のダメージ軽微。レーザーガンでは決定打を与えられませんね」
今までミラたちがやり合ってきた機体とはひとまわり大きく黒光りする装甲。正面から飛んでくるミサイルと敵機にレーザーガンを当てるサミーには恐れ入ったとしか言えない。無線でドルフィンがサミーに問いかける。
「サミーが追いかけてたやつはどうした?」
「無人の競技場に落としました。犠牲者なしです。戻るのが遅くなってしまいました」
「よくやった。あと三機だな」
「こちら地上管制、今そちらに第108飛行隊のオメガ小隊四機が向かっている。地上部隊からも地対空ミサイルで援護する」
通信が入った。やっとメインアイランド内の防衛に目が向いたようだ。管制も上層部もおそらくはちゃめちゃになっている。
メインアイランド内にいる時点で宇宙空間を飛んでいるホークアイの援護は望めない。役に立つかは置いておいて、地上管制に動いてもらうしかないのである。
「地対空ミサイルですか。私に当てないで欲しいものですね……オメガ小隊も死にたくなければ引っ込んでいて欲しいです」
機体内だけでやり取りされる秘匿通信が入ってきた。サミーの言うことは率直すぎてあまりにも残酷だが、ミラも正直彼と同意見であった。ドルフィンやサミーですらこれほど手を焼く相手を、普通の人間の部隊であるオメガ小隊で太刀打ちできるとは到底思えない。
(私も自分の身を守るだけで精一杯なのに……)
「サミー、敵機はどこ? こちらからは確認できない」
「私も確認できません。今、ドルフィンのレーダーを借りていますが何も……おそらく電子機が妨害しています」
ミラは目を細めながら上空を見上げた。天井に擬似太陽のホロ映像が真っ白に輝いている。まさか……!
「地上管制。こちらドルフィン。現在、確認できる限り四機のメインアイランド内への敵機の侵入を許し、サミーが一機撃破……」
その時である。ドルフィンの通信を遮るように、敵機三機が急降下して一気にミラに向かって押し寄せてきた。そう、敵は真上にいたのである。
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