3. 宇宙空間 母艦

 ミラたちファントム小隊がドルフィンとサミーと合流した時、すでに狩りは半分終了していた。ドルフィンは一機、サミーも一機撃墜したところである。


「……なんて男なんですか」


 どこか虫の居所の悪そうなダガーにミラが言い放つ。


「知るか。あと一機だ。全機攻撃体制に入れ!」

「こちらホークアイ。敵機急速接近中。各機へ座標を送る。全く見えなかった……私としたことが」


 ホークアイからの通信にミラは背筋を凍らせた。


「なんだって? 距離四十に数は十二機? ふざけんな」


 流石のドルフィンも動揺したようである。それは無数の編隊を組んでいた。もう乱戦である。

 なんでここまで接近されるまで気づかなかったんだ、ホークアイ! そう言いたくなる気持ちもあるが、ミラは必死に飲み込んだ。彼だって、レーダーに全く映らないものは気づけない。


「ダガー! 尻につかれてる! 逃げろ!」


 これはドルフィン。


「ラプター! 4時方向からミサイル!」


 これはサミー。


「ブルー、5時方向からミサイル!」


 サラマンダーが吠える。


「ラプター、敵機7時方向!」


 ミラは機体を急旋回させた。その間も、もともとこの空域で戦っていた三機残っていた僚機のうちの一機がオレンジ色の光を瞬かせ宇宙の塵となった。撃墜されたのである。


「ウォーハンマー!」


 ミラは彼のタックネームを叫んだ。同じ飛行隊だ。彼のことはよく知っていた。この宙域に派遣されていたのは皆同じ飛行団なのである。


(……許せない!)


 皆、家族がいる。自分と違って親も、妻子も。そんな者ばかりである。

 敵機は交戦することよりもブラボーⅡに向かうことを優先としているようであった。必死にそれを防ごうと画策するミラ。

 だが、敵の数にもはやなすすべもない。


「ホークアイ、最終防衛ラインを突破された!」


 ミラは叫んだ。


「ファントム小隊、そのまま敵を追い込め。全機に告ぐ。大統領オーダーでメインアイランド前面に今動ける戦艦、戦闘機を全て動員した」


 かなり思い切ったな。ミラは感心した。

 ミラはなおも敵機を追った。小惑星帯を抜け、視線の先にはメインアイランドの輝きが眩いばかりに見える。


「敵機を迎撃する! 全機退避せよ!」


 メインアイランドを囲むように戦艦三隻、甲板には長距離砲やレールガンを備えた重戦闘迎撃機が待ち構えていた。ミラはホークアイの声にひらりと翼を翻した。その瞬間、ブラボーⅡ船団の迎撃システムが作動、敵機数機が蜂の巣になり爆発、霧散。


(残りの機体が尻尾を巻いて逃げ出したところで私が仕留める)


 ミラが息を詰めたその時のことである。ホークアイの声が飛んだ。


「……高エネルギー反応を感知。来るぞ。ファントム小隊、避けろ!」


 高エネルギー反応? 亜高速飛行をしてきたというのか? 避けろってどこに!? そう思う間もなくのことであった。空間が歪む。戦艦サイズの謎の母艦が出現した。


(ああ、これは……)


 ミラは言葉を失った。それは、かつて地球に襲来したという、ゼノンの空母にそっくりだった。


「まじかよ……」


 ドルフィンの声が全てを物語っていた。

 次の瞬間、出現したばかりの母艦の砲塔三門が輝いた。ミラは反射的に在らん限りの回避行動を取った。彼女の視界の片隅で、巨大なビームがブラボーⅡの巡洋戦艦ソードブレイカーを貫いて、眩いばかりの閃光があたりを白く染めた。

 一瞬遅れて衝撃波に襲われて機体が不安定になる。


「嘘でしょ……」


 ミラが喘ぐように言った。

 視界と機体が回復した時には、ビーム砲に貫かれたメインアイランドが見えた。なんということだ。天井ドームに大穴が空いている。地上も相当ダメージを受けているはずだ。続いて第二波が襲う。


 アイランドワン。海と山でレジャーが楽しめる観光艦。それを母艦のビーム砲が貫いた。


 ミラは飛んだ。敵機が戦艦の隙間を縫ってメインアイランドの方に飛んでいくのを見たからだ。初めて見た機体だ。一回りほど大きい。この機体が妨害電波を発していたのだろうか? 今はそんなことはどうでもいい。敵を落とさなくては!


「隊長!」

「ダガー! ブルーとサラマンダーは?」

「応答がありません」


 巻き込まれたか。瞬間的にミラは悟って歯をぎりりと食いしばり、スロットルを最大に押し込んだ。ここ一年ほど、一緒に飛んできた。嘘だろ。信じたくない。

 だがあのビーム砲に巻き込まれたとしたら、おそらくは生きてはいないだろう。


「ダガー、無理についてくるな! ホークアイ、ダガーの支援を頼む」

「こちらホークアイ、承知した!」


 ミラは宇宙を駆けた。メインアイランドの住民に危機が迫っている。彼女は普通の人間ではついてこられない速度で機体の残骸やら障害物を縫うように飛行していた。

 後ろをちら、と確認すると、機影が見えた。


「こちらドルフィン。ラプター、俺にも手伝わせてくれ」

「サミーです。速度でなら負けませんよ」


 三機がメインアイランドのドームに開いた穴に飛び込んだ直後、自己修復機能が働き、亀裂は綺麗に閉じた。あとは、メインアイランドに潜入した敵機と再結成した〈ドルフィン小隊〉の戦いである。

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