第14話 回帰

 そこは、見慣れた風景。

 私が、この景色を見間違えるはずがなかった。


 「………は??」



 慌てて辺りを見回す。ここは学園の中庭のようであったが、幸いにも周りには誰もいなかった。

 次に体と記憶の確認を行う。


 「この体は、紛れもなく私の体だ」

 着慣れた学園の制服、普段している髪型、体内の魔力の感覚もまさしく本来の私自身。


 「記憶……私は確か殺された。」

 だが以前の記憶は中々思い出そうにも思い出せなかった。


 「私は、何者かによって殺された。でも、この記憶自体がなんだったのかすら、思い出せない……」


 頭の中の霧は今すぐには晴れそうになかった。何かとんでもないことを忘れている。そんな気がしたのに。


 「とりあえず、歩きながら考えるか……」


 普段なら学園にはかなりの数生徒や教授がいるはずだが、今日に限っては全く見かけなかった。このまま学園を歩いていても、埒が開かないと考えたので、学園の外へ出ることにした。


 案の定街中は人がたくさん行き交っていて、活気があった。だが、普段ならば中々見ないであろう武器を携えた隊であったり、ローブを着て杖を持った魔法使いのような人々があちこちに見られた。

 行き交う人々の表情も、何やら険しめの表情の人が気持ち多いと感じた。

 


 「……ひょっとしたら、今日は何かしらの催事なのか?」


 そんなことを考えているうちに、後ろから声をかけられた。


 「見つけた〜!どこ行ってたんですかもう……待機場所には貴女以外既に揃っていますよ?」


 思い出した。この人は確か学園で魔法の授業をいくつか受け持っていた教授の一人だ。名前までは思い出せないけど。


 「あ……ごめんなさい。少し外せない用事があって……」


 「そうですか……まぁ、序列一位に免じて多少は多めに見ますけど、今日はこの大都市にとってもかなり大事な日なんですから、気合を入れてくださいね!」


 「はーい。で、集合場所ってどこでしたっけ?」


 その女性教授は、私の反応を見て一瞬驚いた表情をして、私にいくつか質問を投げかけてきた。

 

 「エマさん、ひょっとしてどこかで頭を打ちました?それか、最近あまり疲れが抜けきっていないのでは?」


 「はい、そうかもしれないです。」

 あらゆる記憶があやふやである、なんてことは言えずただ誤魔化すしかなかった。


 「天才と呼ばれた貴女であっても、少しの気の緩みなんかが戦場じゃ命取りになりますから、くれぐれも気をつけて」


 「はい……」


 教授に連れられ、待機場所へと向かう中、私は頭の中を整理して考えた。


 この都市にとって大事な日……戦場……待機場所……街の雰囲気……




 あぁ……そうか、今日はあの日か。


 ────征伐戦


 私のことを序列一位と言っていた。ということは、あの時と状況はおそらく変わらない。


 頭の中で記憶の断片を必死にかき集める。徐々に思い出してきた。そうだ、私はこの戦いの中で一度死んだはずだ。



 でもなぜ?たかが魔族、数は多かろうがこちらだって相当な数と実力者が揃っているはず。学生の軍隊なら余程のことがない限り前線に出ることは無いのでは?そして過去の戦いでも負けたことはなかったような……それが一気に覆るなんて、相応の超常現象でも無ければ……


 だめだ……肝心な部分が思い出せない。


 「見えてきましたよ、あそこで、しばらく指示があるまで待機していてくださいね、直に上から指示が降りるはずですから」


 どうやら場所に着いたらしい。そこには、私と同じ制服を着た学園の生徒たち。纏う魔力からして、かなり優秀な生徒が集められていることはすぐに分かった。


 少し遠くには、剣や盾を持って武装した生徒たちの集団も見えた。やはり、私の思っていたことは合っているようだ。




 ──私がこの戦いで、死ぬ?じゃあ、ここにいる生徒の大半も死んでしまうのでは??


 ……おかしい、記憶は少しずつ戻ってきているはずなのに。


 何か、変だ。

 

 なんだ、この強烈な違和感は……

 

 誰か、大事な人の存在を忘れている……?


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る