第13話 明けない夜中に疾駆して

 ここは一体どこなのか。

 私は一体どうなってしまったのか。


 ………思い出せない。

 確か、戦場に出ていたはず。


 ………頭が割れるように痛い。


 

 「何よ、これ」



 フレイは未だに状況が飲み込めないでいた。



 痛む体をゆっくり起こし、辺りを見回した結果、どうやらここはどこかの地下牢らしい。

 そして、足元には二本の剣と軽そうな衣類が転がっていた。


 今更気づいたが、服装が中々にボロボロであったため、仕方なくそれを着ることにした。


 見るからに軽そうな剣と衣類。暗めの落ち着いた色をしているので、身につけていてもあまり目立ちはしなさそうだ。だが──


 「剣も服も、なんだか変な魔力を感じる……」


 得体の知れない──でも完全に悪だとは言い切れないような魔力が篭っており、それが逆に不気味さを増していた。


 ひとまず、周りに誰もいなさそうであったので、剣を試すべく牢の鉄格子に向かって剣を一振り。


 魔力の斬撃はいとも簡単に鉄格子を破壊した。驚くのはそこではなかった。私自身、全くと言って良いほど、力も魔力も込めていなかったからだ。


 ──とりあえず、外に出なくては。


 閉じ込められていた牢を破壊し、外を目指す。だが、この場所は想像以上に広いらしい。進んでも進んでも、外に通じていそうな通路が見当たらなかった。

 


 道が見当たらなければ、作れば良い。そう考えた私は、剣で少しでも出られる可能性のある場所を片っ端から潰していくことにした。剣の威力も性能も、先程の実験で実証済みであったので、迷うことなく破壊していくことができた。


 

 以前から魔法剣なるものを扱っていたため、魔力の探知もそこまで苦労することなく出来た。こればかりは幼少から剣も魔法も鍛えてもらった両親や師匠に感謝しなくてはならない。まぁ今は、ここから出ることが先決なのだが……

 


──四箇所目に向かう途中、不意に歪な魔力を感じた。いや、感じたというよりも、こちらの足を止めるべく強制的に感じさせられたかもしれない。


 足を止め、辺りを見回すが、やはり誰もいない。気にせず再び前を向いて進もうとした瞬間──



 「まったく……勝手にあちこち破壊しやがって……私から逃げられると思うなよ〜?」


 いきなり体が束縛された。手足が全く動かさなくなって、地面に転び落ちる。


 顔を上げると……そこには長い黒髪をした黒装束の女性。年代は分からないがかなり美形だ。加えて濃い魔力を発しており、一眼見ただけで相当なやり手だと分かった。


 かつての私ならここで反抗の一言くらい投げかけていたはずだ。だが、その女性の放つ魔力とオーラ、そして私を今束縛している魔法の強さが、既に私の心を折っていた。


 まともに太刀打ちしても勝てない。いや、不意を突いたところで勝てる気は微塵もなかった。


 

 「……とりあえず術式は成功、移動時の問題も無さそうだね。よし」


 何のことを言っているのかさっぱり分からなかった。

 どうにか体を動かそうとするが、一向に動かないし、緩めてくれそうにない。そうやってもがいていると──


 「ふふっ、あんまりもがくと可愛い顔や綺麗な紫紺の髪が傷つくわよ?」

 女性は笑いながら拘束され倒れて動けない私の耳元でそう囁いた。


 「──私を、どうしたいのですか?」


 こんな所に私を拉致監禁して一体何がしたいのか、今一番知りたいことはそれであった。

 


 「まぁまぁ、慌てないで、すぐ自由にしてあげるから」

 そう言うとその女性──もはや魔女と呼ぶに相応しい人は、一瞬で濃く恐ろしいほどの魔力を練り上げ、私にそっと投げかけた。


 次の瞬間、私の意識が一瞬にして落ちたのは言うまでもない。


 

 気が付くと、そこは外であった。陽が沈んでいるのか、辺りは暗く、少しだけ月光が差している程度であった。


 ここがどこなのかも分からないが、一つだけ分かることがあった。


 

 脳内に残る、絶対的な命令。それは──


 


 場所も相手の顔も分からないのに、気がつくと走り出していた。まるで誘導されているかのように。


 しばらく走ると、目標に近づいたのか感覚的にどこにいるかまで把握してしまった。以前の私ではあり得ないことが起きている。おそらく洗脳、傀儡化する魔法でもかけられているのであろう。


 だが、現段階で私に反抗する術はない。


 叛逆する気すら起きなかった。なぜなら気がついてからずっと首に死神の鎌の用なものが突きつけられているからだ。おそらく何らかの魔法で、私にしか見えない呪いをかけられているのかもしれない。いっそのこと、無視して死ぬことも一瞬考えたが、このまま他人の道具として無惨に死ぬのだけは避けたかった。


 ────いつかは、必ず。



 辺りは相変わらず真っ暗で、月もとうとう雲に隠れてしまっていた。


 どうやら私の夜は、まだ当分明けそうにない。

 

 


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