第12話 願いの行先

 「……つまり今現在外は大変なことになっているのじゃな」


 「はい、その通りです」


 老人はリンの話を聞いてしばらく唸った。そしてこう告げて席を立った。


 「ここに君が今日来たのも何かの縁か運命かもしれぬ。しばらく待っておれ、一つくらい何か役立つものがあるじゃろう」


 「ありがとうございます!!」


 リンは一筋の希望が見つかったと少し安堵しながら、老人に感謝の意を込めて、お礼を言った。


 

 しばらく時間がかかりそうとのことだったので、ふと、部屋をあちこち見回してみることにした。学園の書庫と同じように、本棚がたくさん存在するが、よく見るとどれもかなり年季が入っていそうなものばかりであった。加えて、何の文字で書かれているかすら分からない物も見受けられた。


 

 あれこれ興味が湧いたが、あまり物色しては申し訳が立たないと思い、流行る気持ちをグッと堪えながら待つことにした。



 しばらくすると、奥の方から老人が戻ってきた。


 

 

 「君の言うように、運命を変えられるかもしれない魔法は存在する────だが、何もかもがどうなってしまうか分からぬ。それでも良いか?」


 先程とは全く異なった真剣な面持ちで老人はそう告げた。


 

 「かつて師匠は時をも超えられるという魔法を研究しておった……だが、あまりにも強力で過去や未来を簡単に変えてしまえるゆえ、封印したのじゃよ……そういった禁書なんかが、ここには色々眠っている。我が師匠は弟子の一人の私にここの番を任せ、旅立った」


 「やはりここは……表に出せないような物が封印されている場所なのですか。そして……運命をも書き換えられる魔法が、存在するのですね。」


 「…………責任は取れぬぞ。死ぬかもしれないし、もう元の世界に戻れないかもしれないぞ?」


 「覚悟の上です。よろしくお願いします!」


 リンはここに来た時点で覚悟を決めていた。その覚悟を老人も見通したようだ。

 


 一冊の古びた本を開いた────と思えば、老人は目を見開いて何やら分からない呪文のようなものを唱え始めた。



 途端、リンの周りが光り始めた。同時に部屋も揺れ始め、本棚からいくつも本が落ちていく。驚き戸惑いながらも、老人に尋ねる。


 「どうすれば私はこれを制御できるのですか!?」


 「制御云々の問題ではない!!念じろ!願え!!祈れ!!!そなたが今、1番何をして何を救いたいか!!!!」


 「私の願いは──────」


 完全に光に包まれたかと思うと、リンの姿は一瞬にして消えた。


 


 

 部屋は先ほどの揺れであちこちが散乱してしまっている。老人はガクッと腰を下ろした。


 

 「お師匠様、必ず必要になる時がいずれ来る──そう言っておられた魔導書が、役に立つ時が来ましたぞ……」


 老人は自分以外誰も居なくなった部屋でただ一人、そう呟いた。


 

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