第6話 輪廻
気づけばそこは、戦場であった。
手には剣、体は鎧と、以前の魔法が得意だった私には似つかない格好をしていた。
辺りを見回すと、魔物の残骸、血溜まり、何なのか判別できないような塊など、様々なものを見ることができた。
もう既に全て終わった後なのか、こちらに近づいてきそうな魔物は見当たらなかった。
「(ここは…私は一体…?)」
心の中でふと思った時、後ろの方から人の声がした。
「ヴァン様!ご無事ですか?」
見たところ隊長、もしくは団長クラスであろうかなり強そうな人物が後ろに兵を引き連れて私に近づいてきた。
「………?」
私は戸惑ってしまい、何も返すことはできなかった。
「さすがは英雄と称えられた騎士様ですな!」
同時に、後ろにいた兵士たちから一気に歓声が上がる。
明らかにこの人物は私を見てそう言っていた。
辺りを見渡すが、この人物が他に話しかけていそうな人物は居なかった。どうやら人違いではなさそうだ。
「(私に向かって言っている…ということは、私は…騎士になったのか…?)」
未だに状況を飲み込めないでいる私に、続けざまにその人物は話しかけてきた。
「さぁヴァン様!帰還いたしましょうぞ!無事に第48回目の征伐戦が終わったことを民に報告しに戻りましょう!!」
「(48回…?私が確か参加したのは…50回目だったはず…ここは…過去…?ということは私は過去に飛ばされたのか??いや、そんなことがあってたまるか…」)
もっと色々と整理して考える必要があったが、まず兵団になんらかの返事はしなければと思ったので、とりあえずぎこちない会釈をして、帰路へと着くことにした。
「(とりあえず、帰路の最中に色々考えることとしようか…)」
一通り整理した後に、分かったことがいくつか。
まず、この私は騎士であり、名前はヴァンと言うらしい。以前この名前は聞いたことがあった。かつて数十年前に征伐戦において絶大な功績を上げたという歴代屈指の騎士。
そして、先程この征伐戦は48回目と言っていた。ということは、この世界は私が少し前までいた世界よりも過去の世界となる。
「(私の魂や意識などあらゆるものが、かつての英雄に憑依した…?そんなことがあり得るのか?あの時、確かに私は死んだはずなのに…?)」
しかし、記憶を残して過去に戻ったということは、あの50回目の征伐戦の悲劇を回避出来るのではないか。
少しだけ、希望が湧いてきた。たとえどんな形でも、あの悲劇を防ぐことが出来るのであれば。
そう思ってから、帰路の足取りは軽かった。何か肝心なことを忘れているような気もしたが、結局思い出すことはできなかった。
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