第5話 絶望の中に光を見出して

 人手不足として、学生での救護班参加となったリンは、明らかに負傷者が多いことに疑問を覚えつつも、次々と運ばれてくる兵士たちに滞りなく回復魔法を施していた。


 「…さすがに数が多すぎない?」

 「前線で一体何が起きてるんでしょうか?」

 「前回前々回よりも、やはり負傷者が多い気がしますね…」


 どうやら私以外にも疑問に思っている生徒や術士たちも多くいるようで、そういった声が多くの場所から漏れ出していた。



 しばらくして、前線はおろか大半の部隊が敗走、かつ生徒部隊も戦闘に参加し始めたが状況は一向に芳しくないとの情報が伝わった。

 その情報を聞くや否や、現場は混乱し始める。

 それもそのはず、人間側はこれまでの長い歴史で一度も負けたことが無かったからである。

 そのせいか、人々の心の中には、今回も勝つだろうという慢心が蔓延っていたのかもしれない。

 


 「(…エマ…どうか無事でいて…)」



 またしばらくすると、大きな地鳴りが起きた。複数の人々はとうとうここまで魔族軍が押し寄せてきたのかと絶望を抱える人も現れ始めた。


 幸い、この時は、なんともなかった。


 救護班は都市をすぐ出た所、戦場と都市の貯蔵庫などをすぐ行き来できるような場所に構えていた。


 もしそれが都市内であったら、ここにいた人々は全滅であったかもしれない。


 轟音と共に、大きな光の光線のようなものが都市に降り注いだ。

 咄嗟のことで、何が何だか訳が分からなかった。


 耳を押さえてうずくまることしかできなかった。


 そして、それと同じような光の光線のようなものが、目の前の戦場の至る所に降り注いでいくのを見てしまった。


 現場は、絶望に包まれた。



 都市は、半壊してしまっているようで、引くに引けない、だが魔族軍がここまで来てしまったらどのみちおしまいということで、殆どの人はパニック状態になっていた。

 追い討ちするように、部隊の殆どが壊滅したとの伝達が入る。



 「私も、ここで終わりなのかな…」

 リンもボソッと弱音を吐いたが、この時、とあることを思い出した。



 「私ね、書庫に入り浸るようになってさ、一つ気づいたことがあるんだよね。」

 

 「なになに?」


 「この書庫、隠し部屋があるよ。」


 「えっ??」


 「どうもね、時々変な魔力を感じるのよ。なんか歪なやつをね…」


 「へぇー…エマくらい魔力すごいとなんか感じるものあるんだね。」


 「…なによリン、冗談だと思ってる?」


 「別にそうでもないんだけど…そんな話一度も聞いたことないし…そもそも隠し書庫みたいなの作る必要あるのかなって。」


 「それこそ、大っぴらにできない禁術とか本とか色々あったりするかもね。」


 「じゃあ、またしばらくして落ち着いたら、二人で探してみようね。」


 「分かった、約束よ。」


 かつてエマと笑い合いながら喋ったことがもう随分昔に思える。


 「私が思うに、魔法は無限の可能性を秘めてる。それこそ、一瞬で大陸を消し飛ばしたり、時空を歪ませるような魔術がこの世にはあるかもしれない。」

 そんなエマの笑顔を、もう一度見るために…ここでバッドエンドとして終わらせたくなくて。


 

 半ば現実から目を逸らしたかったからかもしれない。でもここで終わりたくなくて…終わらせたくなくて…気がつけば私は静止をも振り切って、学園の書庫へと走っていた。

 もしかしたら先程の攻撃で崩壊してしまっている可能性があった。でもそんな事は微塵も考えなかった。


 都市は大部分が崩壊してしまっていたが、かろうじて道が残っていた部分がいくつかあったので、どうにかたどり着くことができた。



 「確証もない賭けに全賭けするなんて、こんなの、私らしくないわね。でも、エマならそうしてたでしょうね。」


 

 かろうじて形を保っているような書庫に、私は一筋の光を見つけに入るのであった。

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