第4話 死戦の先に見えたもの

 都市で生まれた私は、幼き頃から男子に混ざって、将来、この都市を守るべく修練と研鑽を積んできたつもりであった。


 征伐戦において、生徒の選抜隊が実際に大々的に戦地に赴くことは低確率だと分かっていたとしても、準備は怠らなかったつもりであった。


 

 戦場に立ち、どれほどの時間が経ったであろうか。四人一組の陣形を保って組んで戦えていたので、私のパーティーに犠牲は出ていないものの、他三人の疲弊は想像以上のようであった。


 「…フレイ様…キリがありません…敵の数が多すぎます!」


 「…こんなクソみたいな戦場で様付けはやめてくれる?慕ってくれてるのは充分解ってるから。」

 私を除いて唯一の剣術科選抜部隊の女子生徒、シュネはかなり限界が来ているようだった。



 「フレイ、どうする!?引くのか?それとも引き続きこの地点を押さえ込むのか??」


 「…今入った通信によると、既に何部隊かは敗走、生徒部隊にも数人犠牲者が出ているようです…」


 

 私は普段の生活と剣を握った時とで大きく性格が変わるとよく言われてきた。それもそうだ。戦場で命運を分けると言われるのは冷静さである、と幼少期から教え込まされてきたからである。私が男子に混じって序列三位まで上り詰められたのも、その冷静沈着さのお陰かもしれない。


 だが、たかが剣術科の三位である。どうあがいても二位と一位の奴には勝てなかった。生まれ持った才能の差であろうか、まだ私に努力が足りなかったのであろうか。



 「……現段階をもって我がパーティーは撤退する。追っ手は私がなんとかするから、三人は私のことを気にせずしっかり生きて都市に戻り…医療班辺りとでいい、合流すること。」


 「でも、それではフレイが…」


 「シュネ、私が敗れるとでも思っているの?」


 「…いえ…私はこの世界で一番…貴女を信頼しておりますから…」


 「なら大丈夫。低級の数の暴力に負けるほど私は弱くないから!!」


 ほんの少し、剣を持たない普段の口調と表情を見せたことで、シュネはかなり安堵したようであった。


 「さぁ、走って!生きてればこの先どうとでもなるから!!私も後で追う!!」


 三人が走り出したと同時に、ここ数時間で一番の魔力を剣先に込めて、魔族の大群に向けて振り払う。


 単純に剣の実力だけで言えば、私よりも上位の生徒はいたであろう。しかし、身体強化、魔法操作に関しては、私はある程度長けていた。


 「勝てない所で勝負するんじゃない!私が勝てると思う部分で勝負すれば良い!」


 かつてシュネにそう言って、鍛錬を共にしたことをふと思い出す。


 戦場で関係のない事を思い出すなんて、私らしくない…。


 切り替えて、再度迫ってきている敵に向けて斬撃を飛ばす。そして何体か、接近を許してしまった敵に対しても、落ち着いて攻撃を交わし、一体ずつ確実に処理していく。




 ふと、敵の軍団の侵攻が止まったのか、先程の敵を最後に、こちらを追いかけてくる敵の姿が見えなくなった。


 「ある程度退けた…?とりあえず、私も戻らないと。」



 少し走ると、三人に追いついてしまった。どうも、三人とも疲労と傷によって思ったほど走ることが出来なかったようだ。

 



 安堵した表情を浮かべ、少し会話をしようと口を開いた瞬間、轟音と共に恐ろしいものを見てしまった。



 都市を包む極大の太さの光に、思わず声を失ってしまった。


 直後、再び轟音と共に爆発音が聞こえてきた。


 私以外の三人は、それを聞いて、膝から崩れ落ちた。


 「…都市が…なんで…?」

 「人類は…負けたのか…?」

 「もう何もわからねぇよ…」


 「まだ終わってない、まだ終わってないはず…動こう。みんな。何があったか都市に向かうんだ。」


 ここで絶望に染まってしまっては、どのみち全滅してしまう。なんとしてでも、せめてたどり着かねば…

 三人を必死に鼓舞し、私は都市へと歩みを進めた。


 近づけば近づくほど、都市の崩壊具合が目に映る。


 



 私自身も気づいていないだけで、想像以上に疲弊してしまっていたのか、その気配に気づくことは出来なかった。




「………見込みのある子ね」



 気づけば三人とも地に臥せ、私の体は中に舞っていた。


 そして、耐え難い痛みを受けると共に、私の意識は消えていくのであった。


 

 


 


 

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