第3話 地獄
剣術科の選抜生徒たちの後に、私たち魔法科の選抜生徒も戦場に出ることになった。
そこに広がるのは、想像よりも遥かに酷く、あちこちから焦げついた匂い、血反吐の匂い。
「想定よりも遥かに魔族の数が多いらしい!事前に周知の通り、魔法科は特定の場所に固まり、支援攻撃を行うこと!剣術科は事前に決められた組に分かれ、敵を征伐せよ!」
いくら選抜されたメンバーであったとしても、今回戦場に立つのが初めてという生徒も少なくはない。特に魔法科の連中の大半は、明らかに恐怖が顔に出ていた。
一方、剣術科はというと、そんなことはなく、大半の連中が意気揚々と駆け出して行った。
「何よフレイ、なんか言いたいことでもあるわけ?」
いつもはうざったるいくらい明るいフレイだが、剣を握ると恐ろしく冷静沈着になる。そこが彼女の強い所でもあるのだが。
「エマ…非常に嫌な予感がする。そっちはいくら敵と距離が離れてるからって、油断しないようにね。」
「らしくないこと言うんじゃないわよ、分かったわ。そっちも間違っても死ぬんじゃないわよ。まだ貴女に勝ててないんだから。」
「分かってるわよ。じゃあね。」
これが最後と言わんばかりのセリフを、最大級の笑顔で投げて、彼女のパーティは戦場へと駆けていった。
所定の場所に着き、私たちはすぐさま攻撃魔法と支援魔法の組の二つに分かれ、戦闘に参加した。流石に敵軍と離れているとはいえ、戦場には変わりなく、学園での訓練の何倍も体力や精神を使い、すぐ魔力枯渇になってしまう生徒もいた。
戦場に立って、何時間経ったのだろうか、もう分からない。その報告は私たちの精神に与えるダメージは計り知れなかった。
「複数箇所の騎士団の敗北により魔族軍の陣形突破、および剣術科生徒、複数名死亡確認。場所を変えないと敵軍がここを直接強襲してくる可能性もあります。」
人という生き物は一度崩れると脆い。脳内に死というものがチラついた時点で動けなくなる人間も少なくない。ましてや、実践経験の少ない生徒に至っては。
「おい、どうなってんだ今回!」
「知らないわよ、私が聞きたいくらいだわ!!」
攻撃魔法組を指揮していたベリルが、とうとう私に突っかかってきた。
「そもそも途中で教師陣も戦闘参加のためとか言って抜けやがるし、なんなんだよこれ!」
「明らかに異常事態が起こってて、戦力が足りてないんでしょ!にしても、押されてる状況で私たちが下がれる訳ないじゃない、ここを突破されちゃうわよ!(にしても、時折地面が揺れたり、大気が一瞬澱んだりするのが明らかにおかしいペースで起こってる…本当に何が起きてるの?)」
数十分後、戻ってきた教師の指示によって、魔導兵団の人々と共に固められ、攻撃魔法と支援魔法を行うことになった。明らかに防衛位置を下げざるを得ない状況であったことは、私の目からしても明らかであった。
もう何時間たったのだろうか。生徒で魔力枯渇せずに経っているのは私とベリルのみであった。
流石というか、兵団の魔法使い達はやはり私たちと魔力量が違うらしく、誰一人切らすことなく魔法を発動させ続けていた。しかし、その顔に余裕は見て取れなかった。
「…そろそろ限界が来そうね…」
全身から魔力をかき集め、ほんの一滴すら残さないように集中し、魔法の発動に取り掛かる。
極限まで集中していたこともあって、それにはすぐ気づくことが出来た。しかし、疲労困憊の私の体は、もう走ることをすら不可能であった。
気がつくと私たちの兵団は長方形の籠のように魔法で囲われており、どうやら外へ出られなくなったらしい。
兵団の魔法使い、それもおそらくエリートなのであろうが、いくら攻撃魔法を複数撃ってもびくともしないようであった。
ふと後ろを振り返ってみると、その籠のようなものは、私たちが昨日まで暮らしていた都市にも同様に発生していた。
「これは…終わりなのか…?」
「クソッ、俺たちを閉じ込めてどうするつもりなんだ?」
私の中には絶望の二文字が現れてきていたが、ベリルはまだ気づいていないようであった。
同じく、兵団の人たちは、あらゆる方法で脱出方法を探ったり、範囲内にいる仲間や魔力枯渇して下がっていた学園の生徒の手当などをしており、皆の顔はまだ希望を捨ててはいなかった。
数分後、その顔は漏れなく絶望と変わる。
都市全体を白い光のようなものが一瞬包んだかと思うと、恐ろしく大きな魔力の光線とも言うべきものが、天から降り注ぎ、轟音と共に都市の半分が崩壊した。
そして、その、天からの裁きとも見て取れる光線が、たった今私たちの頭上からも降り注ごうとしていた。
「…あぁ…私、ここで死ぬのか…」
無気力に蝕まれた私の体はもう何も動かなかった。
「リン…ごめんね…フレイ…貴女は…せめて生きてて…」
周りの人々は泣く者嘆く者怒る者私と同様動かなくなる者様々であった。
「…こんな早くに…死にたく…なかったな…」
執行の時は来た。薄れゆく眼前の景色と同調するかの如く、私の意識も消えていった。
次に私の意識が戻った時、そこは戦場であった。
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