第21話 無敗の盾
ゲオルクは戦斧の先端を俺に向けてくる。
「俺にこいつを持たせちまったからには覚悟は出来てるんだろうな?」
覚悟もなにも最初から殺すつもりだった癖に、今更なにを言ってるんだ?
こっちはとっくにそのつもりで対峙している。
覚悟が足りていないのはお前の方だ。
「行くぞ、ジルク!」
ゲオルクは言い放つと、巨躯とは思えない素早さで突っ込んでくる。
まるで棒術のように軽々と大斧を振り回し、矢継ぎ早に攻撃が繰り出される。
その軽やかな動きは武器の重量を全く感じさせないほどだ。
俺も身体能力強化と見切り、そして
原因はおそらく、斧術の超級スキルだ。
あまりに的確で無駄のない斧使いが身体能力強化に上乗せされ、想定を超えた効果を発揮しているのだと思う。
それに加えて、武器のスペックの高さがある。
武器そのものの攻撃力の高さも勿論のこと、暗黒闘士の大斧には使用者の身体能力を数十倍にも引き上げてくれる効果がある。
そのお陰で俺の動きを確実に捉えてきているのだ。
「ほらほらほらっ! ちゃんと避けねえとステーキ肉みてえにカットされちまうぜ?」
俺が辛うじて避けているのを知ってか、ゲオルクは攻撃の調子を上げて行く。
このままではいつかは捉えられてしまう。
だからといって、教会で対峙した兵士の時と同じように素手で受け止めようものなら、いくら強靱化した手であっても腕ごとぶった切られてしまうだろう。
それぐらいあの大斧の攻撃力は半端ない。
だったら、こっちで行くしかないか。
俺は右腕を意識する。
――スキル、強靱化・右腕!
「なっ……!?」
ゲオルクは刮目する。
次の瞬間、俺は大斧の刃を右手で掴み取っていた。
「そ、そんな馬鹿な……。いくら強靱化した腕であっても、俺の斧を素手で受け止めるなんて……有り得ん……」
困惑するゲオルクの前で大斧から放たれた残り香のような衝撃波が、俺の手袋と服の袖を食い破る。
その下から現れたのは、言わずもがな幽玄な白さを湛える骸腕。
そいつを目にしたゲオルクは再度、驚愕する。
「なっ!? なんなんだ……その腕は……」
「答えてやる義理はないが、敢えて言うなら復讐への覚悟――というやつかな」
「……は?」
意味が分からずぼんやりとする彼の前で大斧が細かい破片となって飛散する。
「ぐわっ!?」
俺が
ゲオルクは最強を誇る自慢の大斧が、突如粉々に砕け散ったことで呆気に取られる。
「お、俺の斧がっ……!」
その隙を突いて俺は右腕を引き絞る。
奴に殴りかかる体勢だ。
それを見てゲオルクは自分を取り戻す。
「ははっ、愚かな。そんな攻撃、
確かに奴の言う通りだ。
彼が持つ
だが――、
「なら、これならどうだ?」
「?」
俺は自分の右拳を意識する。
そこで呟くのは、
――魔法付与、バーンブレイズ。
途端、俺の拳に炎が宿る。
それを見たゲオルクは、自分の目を疑った。
「魔法だと!? くっ……」
俺が魔法を使えることに驚く間もなく、彼は防御の体勢を取ろうとする。
だが、それも無駄だ。
全ての物理攻撃が効かないというのなら、魔法攻撃なら効くということ。
それは彼が一番良く知っている。
だからこそ、ゲオルクは普段から魔法攻撃には過敏だった。
大柄な体格に見合わぬ敏捷さで、大抵の魔法はかわす技が身についていた。
それが分かっていたから、俺はこの至近距離で絶対にかわせない魔法攻撃を試みたのだ。
ゲオルクが腕で自分の体を守ろうとする。
だが、その隙間を縫って、俺の拳が奴の腹部に突き刺さる。
「ぐほあぁっ!?」
直後、奴の懐で炎が炸裂した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ゲオルクの体が業火に包まれ、プスプスと肉が焼ける音が響く。
炎は思いの外、あっさりと鎮火し、煤けた巨体が地面に転がる。
「う……うう……こんなことが……あってたまるか……」
ゲオルクは負け惜しみのような言葉を吐いていた。
さすがはパーティの盾。あれだけまともに魔法を食らっても息絶えることはなかったようだ。
そんな彼に対して、俺は安堵の息を吐く。
「まだ生きていて良かった。こんな程度で死んでもらっちゃ復讐にならないからな」
「な……」
にこやかに言う俺に、ゲオルクは表情を引き攣らせた。
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