第16話 英霊の墓
――ゲオルク。
その名を聞いて、俺は驚愕した。
奴のことは決して忘れない。
俺を奈落の底へ突き飛ばした時に見せた侮蔑の笑みは、今でも鮮明に記憶に残っている。
ハイダが言うには、ゲオルクは
それが今から約一年前の事。
ということは、俺はあのハボス大森林で一年もの間、魔物狩りをしていたことになる。
スキル集めに夢中になっていたせいか、時の流れがあまり気にならなかったらしい。
俺がせっせとスキルを稼いでいた時にそんな事になっていたとはな……。
人を嵌めておいて自分は良い暮らしか……。
他の奴らも同じような身分になっているのだろうか?
ともかく、思わぬ所で思わぬ情報を得た。
これからじっくりと計画を練る必要がありそうだ。
俺はハイダに礼を言うと、ひとまず教会を出た。
その足で広場にある瓦礫の山へと近付く。
すると、俺の様子から悟ったのか、リゼルが声をかけてくる。
「ジルク……さっきの話に出てきた領主って……」
「ああ、俺を嵌めた奴らの一人――復讐の相手さ」
「……」
それに対し、リゼルは何も言葉を返してこなかった。
俺は眼前の瓦礫に視線を向ける。
取り敢えず壊せるだけ壊したというだけで、特に手付かずの状態だ。
いずれこの瓦礫を運び出すのだろうか?
近くに作業用の荷車が数台置かれたままになっている。
「とりあえず、目の前のこいつを調べてしまおう」
「あ、うん、そうだね」
瓦礫の山は、ほぼ切り出された石で占められていた。
規模にしたら、小さな納屋に使う程度の量。
リゼルの墓から比べたら、かなり小さい。
祠のような扱いだったのか?
俺は転がっている石の合間を縫い、中へと足を踏み入れる。
すると、ゴロゴロとした四角い石が無造作に散乱している真ん中に、石棺と思しきものを発見する。
すぐに近寄り確認すると、既に石棺の蓋は開いており、中はがらんどうで何も入っていなかった。
「不自然だな」
「どういうこと?」
ふと呟いた言葉にリゼルが尋ねてくる。
「これだけ、やりたい放題破壊し尽くしている癖に、棺の中にあるはずの遺骨だけ綺麗に持ち去られている」
「言われてみれば……なんか変な感じがするね」
「この墓の壊し方は英霊に対して敬意が無いし、悪意も感じられる。だったら遺骨諸共破壊、そのまま放置していてもおかしくはない。なのにも関わらず、ここには骨の一欠片も残っていない」
「誰かが盗んだとか?」
「骨を盗んで何の得になるんだ? 喜ぶのは俺くらいなもんだぞ?」
「うーん……そっかー、そだねー」
リゼルは自分で言っておいて有り得ないと思ったのか、しゅんとなる。
「こいつは意図的に持ち去ったとしか思えないな」
「え、誰が?」
「そいつは決まってるだろ、この墓の破壊を命じた人間さ」
二人の頭にゲオルクの名がチラつく。
「何を考えているのかは分からないが探ってみる必要がありそうだ」
「うん」
「それと、丁度良い機会だ。奴への復讐を果たさせてもらう」
できればライムントのスキルを得てから対峙したかったが、現在所持しているスキルでも充分、奴と渡り合えるだろう。
ゲオルクの手持ちのスキルは大体、把握している。それもこれまで身近で共に行動してきたからこそ。
手の内を知っていれば扱い易い。
まずはゲオルクの居場所を確認しなくてはならない。
俺は丘の上に建つ、居城を見上げる。
できれば奴が一人になるような場所がいい。
兵士達に気づかれて騒ぎが大きくなれば面倒な事になりかねないからな。
その為にもまずは城の内部を把握しなくては。
そこで俺は側にいたリゼルに告げる。
「俺はこれから領主の城を偵察してくる。お前は町でも観光しててくれ」
「え、どうして? 私も一緒に行くよ?」
「わざわざ俺の復讐に付き合う必要も無いだろ」
するとリゼルは眉間に皺を寄せ、ムッとした表情を見せる。
「そんな事ないよ。私の仲間のお墓をこんなふうにしちゃった奴だよ? そんなの許せるわけないじゃん」
憤慨する彼女を見ていると、思わず納得の笑みが溢れる。
「そうだな」
俺は改めて領主の城に視線を向ける。
「じゃあ、そいつを含めて問い質してやろうじゃないか」
「そうだね」
瞳と瞳で互いに確認し合うと、俺達は城へと足を進めた。
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