第183話 デート"ミリア、リーン編"(2)
クリスさんの実家、"エルリーラ"は王都に店を構える名の知れたマッサージ店である。
全身のマッサージやストレッチだけでなく、ツボ押しや目の凝りの解消、頼めばお肌のケアなど美容に関することもやるのが売りだそうだ。
二階建ての建物の一階が主なマッサージスペースで、上は住居。
広々とした店内には一定間隔にマッサージ用ベッドなどが置かれ、どこか落ち着く花の香りが漂っていた。
見た感じ、前に写真で見た前世のマッサージ店とさほど変わりはない気がする。
そりゃもちろん便利な文明の利器なんてものは一切ないが……………マッサージは人の手でやるものだしな。
そもそも、こういう場所には一度も行ったことがないないので、仮に違いがあったとしても分からないだろう。
そんな"エルリーラ"にお邪魔した俺達は、せっかくなのでマッサージやら何やら、色々と体験させてもらうことになった。
そう言えば最近ちょっと腰痛が酷かったから、これを機に専門家に見てもらおうかな…………。
姿勢が悪いからすぐ痛くなっちゃうんだよね。
どうしても座ってると猫背になってしまう。
あともしかしたら歳のせいもあるかも。
さすがに二百歳ともなれば、おじいちゃんみたいな悩みの一つや二つ簡単に出てくるもんよ………………まぁ年齢だけで言えば、もはやおじいちゃんのおじいちゃんだけど。
そんな現実を突きつけられる年齢ディスは置いておいて。
早速マッサージしてもらおう。
色々言う前にまず体験しないとね。
実際にやってもらったことはないけど、マッサージは気持ちいいってよく耳にするからなぁ………。
ちょっと楽しみだ──────────と思っていた時期が俺にもありました。
ゴキンッ!
「おぐふっ!?ちょ、もの凄く痛いんですけど!?」
「マシロ君が硬すぎるんだよ!ほら、大人しくしてて!」
「いっ!?」
再びゴキゴキバキンッ!と背中の骨が物騒な音を奏でる。
一応言っておくが、俺が受けているのはただのマッサージだ。
ただし、"ただのマッサージ"とは言ってもクリスさんによる何の容赦もないガチのヤツだが。
ツボなのかなんなのか全く分からないが、背中に押し当てた両手の親指が押し込まれると共に激痛が走る。
その度に俺は悲鳴を上げていた。
もう下手にそこら辺の魔王と戦う時よりよっぽど痛い。
クリスさんが妙に上手いというのもあり、俺の防御を尽く突破して体の芯から痛みを与えていく。
もちろん全身がほぐれていたり疲れが取れていたりするのだろうが、それを実感するより先に痛みが凄い。
一度はあまりの痛みに逃げ出そうと画作したものの、すぐさま締め上げられてマッサージは続行された。
「普段から姿勢を悪くしてるからこんなに凝ってるんでしょ…………。と言うか、マッサージなのに防御したら意味ないからねー」
「ごもっとも…………」
どちらもド正論すぎて耳が痛い。
横向きに寝転んだ俺の肩甲骨辺りを掴んでぐるぐる回していたかと思うと、急にゴキンッと音が鳴った。
音がデカすぎて、一瞬骨が外れたかと思った。
改めて俺、全身バッキバキだったんだな……………。
これ完全に二百年の疲れが露骨に現れてるわ。
「はい次、腰周り行くよー」
「はいよー。ちょっと最近腰痛が酷いからああああああ!?」
ゴキゴキゴキ、バキンッ!
マジで腰が砕けるかと思った。
◇◆◇◆◇◆
「あああああっ!?」
マシロがマッサージで苦しむ部屋の反対側、カーテンで区切られた場所で、ミリアとリーンはビクリと肩を震わせる。
何せあのマシロが今まで聞いた事のない悲鳴を上げているのだ。
そりゃあ心配にもなるだろう。
「あはは、心配しなくても大丈夫よ!あの子ならちゃんと手加減してくれてるだろうから」
そう言って豪快に笑うのは、エプロン姿のふくよかな女性。
この人こそ"エルリーラ"の店主にして、クリスの母であるルーシーだ。
彼女は凄腕のマッサージ師であると共に、その他の技術や知識にも精通しており、業界で彼女の名前を知らない人は居ないと言う。
「それじゃ、ミリアちゃんとリーンちゃんも早速やっちゃおっか!」
「「はい!よろしくお願いします!」」
こちらはこちらで、マッサージとはちょっと違った事をルーシー直々に指導してもらう。
わざわざカーテンで区切ったのもそのためだ。
二人は愛する主人が喜ぶ姿を脳裏に浮かべ、各々異なる反応で頬を染めながらルーシーの話に耳を傾けた。
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