第九章

第177話 デート






暑い日差しが降り注ぐ夏のある日。

溜まっていた仕事も片付き、暇を持て余した俺達はデートで王都へと訪れていた。

最近はミリアの件だったりエルムを相手していたりと、あまり皆のために時間を割くことが出来なかった。

そのため、今回は一人一人とちゃんと時間を取るべく、数日に分けて二人ずつデートする事になった。


………………………我ながら良い身分だなとは思う。

平日の昼間っから何人もの女の子とデートって…………たぶん前世の俺なら爆散しろと叫んでいたこと間違いなしだ。




噴水の縁に座りながら、俺は微妙な表情で空を見上げる。

ここは王都の東側に位置する公園の中心部だ。

緑が広がる"セント公園"は王都の観光名所の一つで、特に今、俺が居るこの噴水は芸術品としての価値も高く、大変有名なんだとか。

遠くから見ても分かりやすいので、待ち合わせ場所としても重宝されるらしく、昼夜問わず人が絶えない場所である。





さて、話を戻すが、俺は何もこの噴水を見にわざわざここへ来た訳では無い。

俺もまた周りでそわそわしたり時計をチラチラ見る男女達のように、待ち合わせ場所としてここに来たのだ。

さっき見た感じ、そろそろ二人が来る時間なのだが…………。




「あっ、ご主人様〜!」


「主」



人波の向こうから声がした。

続いてざわっと人々のざわめきが聞こえてくる。

思わず動きを止めた人波をかき分け、騒がしい公園に突如として舞い降りた二人の天使に視線が集まる。


片や、いつもの巫女装束を脱ぎ捨ててラフなシャツと短パンを履き、そのむっちりした太ももを惜しげなくさらけ出したキツネ耳の少女。


もう片や、対照的にいつも通りの服装、無表情だが。

どこか高揚した気分が隠しきれておらず、妙にしっぽがゆらゆら揺れる猫耳幼女。



もう言うまでもないだろうが、今日デートするのはこの二人、クロとイナリだ。

二人は周囲の視線を集めつつ俺のところまで来ると、早速お決まりのあれを口にした。



「ごめん、待った?です!」

「ううん、俺もちょうどさっき来たところだよ」



実はイナリ、一度このデートあるあるをやってみたかったらしい。

だから今日はわざわざ家を出る時間をずらして、こうして待ち合わせをしたという訳だ。


分かる、こういうのって"何が"とは正確に言えないけどいいよね。

いかにもデートっぽくてドキドキする。


どうやらやりたい事をやれて満足したらしいイナリが、「ふへへ………」とだらしない声で頬を緩めた。

可愛い。



「イナリ、はしゃぎすぎ」

「んまっ!でもそう言うクロさんだって、さっきまで妙にそわそわしてたじゃないですかぁ!」

「………………」



同意を求めようと抱きついて迫るイナリの頬をジト目でグリグリ押し返す。

一見そんなこともなさそうな反応だが、俺はちゃんと分かっている。

これがクロなりの照れ隠しだということは。


ふとそんなクロと目が合った。

しかし、若干頬が赤くなってすぐにぷいっと逸らされてしまった。

あら可愛い。


ほわほわ微笑みながらイナリと一緒にクロの頭を撫でる。

表情はまだ無表情が入り交じってるものの、しっぽはやはり正直だ。

さっきからずっとゆらゆら左右に揺れてる。

ふっ、可愛いなぁもう。

いつまでも撫でてられるわ。



「あっ、そうですご主人様!この服どうでしょうか………クロさんと一緒に選んだんです」

「残念キツネには豚に真珠」

「ぶっ………!?うぅ、ご主人様ぁ!クロさんがひどいですぅ!」

「はいはい、よしよし」



シンプルなディスがグサリと胸に刺さり、涙目のイナリが助けを求めて俺に抱きつく。

手痛い反撃を喰らったな…………。



「ご主人様は!?ご主人様もそう思ってるんですか!?」

「え?いや、普通に可愛いと思うけど」



まぁちょっと露出度が高いのと、シャツを肋骨の辺りに結んで止めてるせいで、健康的なおへそと立派なお胸が強調されて非常にエロ………………こほん。

セクシーな感じになってるけどね。

細いクビレや生足があらわになっててとてもよろしいと思います、はい。


その端麗な容姿も相まって周囲の視線を根こそぎかっさらっている。

ちなみにデートの待ち合わせをしていたらしい一人の男は、イナリに見惚みとれていたせいで先程、相手の女性にビンタされてた。



「そ、そうですか?えへへ〜………」

「…………単純」

「まあそこもイナリの良いところだから。クロも可愛いよ?」

「…………………ん」




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