第178話 デート(2)






待ち合わせ場所の噴水から離れ、俺達は人でごった返すメインストリートをぶらぶら歩く。

行き交う人々は色んな格好をしており、冒険者風な人や商人のようなおじさん、若いカップルや仲良しのケモ耳少女達など。

本当に多種多様な種族、世代、職業の人が入り乱れている。


さすが王都、とんでもない活気だ。

この人混みの具合とか、東京ら辺に似てるな…………。

明らかに人口の少ないこの世界でもこんなに人が集まってるんだから、この王都がどれだけ凄いかよく分かる。

隣接するお店や露店もずいぶんと賑わっているようだ。

どこもかしこも人だらけである。



さてさて、早速だが今日のデートプランを発表しよう。

なんと──────────決めてない。


待って、ごめんサボった訳じゃないって!

これはこれであえてだから!


と言うのも二人からの要望で、"時間を気にせず一日中ぶらぶらしたい"、と言うのがあったのだ。

適当に歩き回って、良さげなお店があったら立ち寄って。

偶然の出会いを期待しつつ、美味しそうだと思ったお店でご飯を食べて。


たまにはこんなのもありじゃないかな。

ある意味これもデートプランの一つだろう。

よって、これと言ったデートプランは立てて来ていない。

最近は忙しかったからなぁ…………。

クロとイナリに癒されながら、急がずのんびり過ごそう。




人波に揉まれメインストリートを歩くうちに、ふとイナリが服屋に寄りたいと口にした。

俺も賛成だ。

それからクロの了承も受け、近くにある大きなショップに足を運んだ。


ところが。




「………………すっごく混んでますね…………」

「………………あかん、ここはもう戦場や…………」



例のショップに着いてまず目にしたのは、入口で押し合い圧し合いするお客さん方。

どうやら中まで満員で、押し出されてしまったらしい。


なんでこんなに混んでいるのだろうと中を覗くと、そこは戦場だった。

主婦や若い女性、熟年のおばあ様など主に女性中心のお客さんが、争うように棚の服を取り合っていたのだ。


貼り紙を見る限り、どうやら今日はセールの日だとかで。

本来の価格の七割から最大で半分ほどの値段で販売されていた。

そりゃ戦争になる訳だ…………。

てかこっちの世界って"セール"もあるんだな。

勝手なイメージで客の値引き交渉が基本だと思ってた。

今まで見てきたのでもだいたいそうだったしね。


と言うより安売りセールしてるの初めて見たんじゃないだろうか。

この光景、どこぞのアパレルショップを思い出す。


申し訳ないが軽くドン引きした。

しかもクロとイナリも同じことを感じたらしく、この

唖然とした表情である。



「こ、これじゃさすがにゆっくり買い物とは行きませんね…………」

「ん。むしろ必死」

「ふーむ、どうしたものか…………」



………ん?そう言えばここって…………。

あ、ちょうど良いとこあるじゃん。

頭の中にひょっこりナイスアイデアが浮かび上がり、思わず手を叩いた。

ハテナ顔の二人を連れ、俺はメインストリートを離れ脇道に進む。



「しまったな、最初からこっち行っとけば良かった」

「こんな場所にお洋服屋さんがあるんですか………?」

「そ。どうせ空いてるだろうし、何気に品揃えも豊富なんだよ」



次第に人通りが少なくなり、完全に路地裏に入った辺りでイナリが不思議そうにキョロキョロ周りを見回す。

たしかにこんな場所、滅多に来ないもんな。

少なくともデートで来るような場所じゃない。


だがこの少し先。

若干入り組んだ場所に、知る人ぞ知る隠れた穴場の店がある。

きっと二人も満足してくれるはずだ。





やがて二分ほど歩くと、突き当たりにあるこじんまりとした古い外装のお店に行き着いた。

看板には"服屋ガイン"の文字。


そう、このさびれて廃屋じみた建物こそ、目指していた服屋さんだ。

………………うん、クロとイナリが何を言いたいのか凄くよく分かるよ。

俺も初めて来た時同じこと思った。


壊れかけたドアを開けて中に入る。



「よっ。相変わらず厳つい顔面してるな、ガイン」

「やかましい。むしろダンディで男前だろうが」




正面のカウンターに座り口をへの字に曲げて俺達を迎えたのは、ごっついスキンヘッドのおじさんだった。





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