第170話 四人の少女






それからしばらくの間、俺はスピーディかつ巧みな動きでフルーリーの実を乱獲した。

袋いっぱいに詰め込んだ真っ赤な果実を片手にウッキウキである。

絶滅はさせてないはず………………たぶん。


それなりの重さになった袋を【ストレージ】に入れ、その場を後にする。



「よ〜し、近くの村で休憩してから帰るかぁ〜………」



伸びをしたり肩を回したりしながら、来た方向に戻るように歩を進める。

しかし。



「あわわ………!待ってくださ〜い!」

「どわっ!?」

「にゃ!?」



何の気配も無く突然目の前に飛び出してきた猫耳幼女と衝突し、もつれるように転がって、ちょうど上が開けて直接日が差し込む開けた場所で止まった。


いてて…………なぜ猫耳幼女がこんな所に………?

俺は視線を起こして、自分の上で目を回す幼女を見下ろし、首を傾げる。


だれだこの子…………。

そしてなぜミニスカ巫女装束なのか。

転げ回ったせいかパンツは丸見えだし。

俺にそっち系の趣味はないぞ。


…………いや、それよりもなんだこの魔力。

ずいぶんとまあ不思議な上にどデカいな。


表には出ていないものの、ふとした時に滲み出たり隠れたりしている魔力は相当のもの。

非戦闘時にも関わらず、魔女たるアイリスを優に超えているだろう。

しかも今気が付いたが、この子の尻尾は二又に分かれている。


つまり猫又だ。


ちなみに猫又とは、猫人族や猫が百年以上生きた場合に、尾が二又に分かれて成る上位種的なやつだ。

俺の知り合いで言うと、大陸の西の方で隠居生活をしてる猫又のセンリが例だ。

正直あいつは数千年単位で生きているので参考にはならないが、この子も一応同じ種に分類される事になる。


そう、つまりこの見た目で数百歳なのだ。

合法ロリとはまさにこの事───────ではなくて。


こほんと咳払いを一つ。

気を取り直して、っと。


ともかく、こんな魔力を秘めた猫又が居るとは…………おいおい、どうなってんだ。

まさか野良じゃないよな?



「ミィ!何やってるの…………」

「はっ!うぅ………ごめんにゃさいです……」



やっと目を覚ました猫耳幼女…………ミィって呼ばれてたな。

ミィが起き上がってしょぼんとしながら、声のした方へてくてくと向かう。


続いて森林から姿を現したのは三人の少女達。

猫耳幼女ことミィも合わせて計四人。


ミィ以外の子は魔力の扱いが上手いな…………。

ほとんどの魔力を違和感なく押さえ込んでいる。

気配だけで言えば、一般人とさして変わらない程度にしか感じられない。

しかし実際は…………皆が皆、ミィと同レベルかそれ以上の実力者なのだろう。


………………うーむ、敵意が無いのが幸いか。

全員が俺を殺しにかかって来てたら、今頃、相当厄介な事になっていただろう。



「すみません、うちのミィがご迷惑を………」

「ああいや、気にしなくていいよ。で、どちら様?」

「あ、自己紹介が遅れてしまいましたね。私、""が配下、クルシュと申します」

「"原初"…………?」



聞いた事がある。

たしか言っていたのはノエルだっただろうか。

あまり自分の昔話をしないノエルが、珍しく話した過去の思い出。

その中に"原初"と言う言葉が出てきた気がする。


"原初の七柱"。


世界創世時に王として君臨していた七人の者達を指し、現在繁栄している種族の祖とも呼ばれる特別な存在。

しかし、彼ら彼女らは数千年前…………紀元前に起きた史上最大の戦争、"聖魔戦争"を機に姿を消した。

"聖魔戦争"を起こした張本人である"原初の悪魔"と共に滅びたとも、未だどこかで生き残っているとも伝えられている。


現在でも使われている"聖暦"が始まったのは、ちょうどこの戦争が集結した時からだ。

ちなみに今は聖暦1659年。


紀元前がどれだけ長かったのかは知る由もないが、そんな遥か古代の存在である原初。

滅びたと噂された原初。

それが、彼女達の主だと言うのか。


"原初の魔王"………………つまり魔王種の祖って事か?



「そんな人(?)が俺に何か用かな。恨まれる様なことをしたつもりはなかったんだけど…………」



今まで当たり障りのないスローライフを送ってきたはずだ。

わざわざ自分からそんな明らかに格上っぽい存在に喧嘩を売るほど馬鹿でもない。


だから、"原初"さんに目をつけられる理由が……………………………あ。

そういやさっき、"原初の魔王"って魔王種の祖じゃないかって……………。


まさか魔王倒しすぎたとか───────。



「いえ、決してあなたが心配しているようなことはありませんので、ご安心ください!」



慌てたように手を振りながら、そう言い切ったクルシュさん。



「そっか…………。あれ、じゃあそれこそなんで俺のところに?」



ふと湧いた素朴な疑問に首を傾げると、少女達の顔が緊張か何かでいくらか強ばった。

ミィがゴクリと喉を鳴らし、ちらっと横のクルシュを見る。

その視線に応えるようにミィの頭を撫でると。

クルシュは意を決した様に一歩前に出て。



「…………出会ったばかりで、いきなりこんな事をお願いするのは失礼だと分かっています。ですが…………マシロ様。どうか私達の主、エルム様を救っては頂けないでしょうか」




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