第169話 果物探し
「うーむ、結構進んで来たけど、あんまりめぼしい物は見つからなかったな…………」
もはや道なんてない鬱蒼と茂る森林の中を適当に歩きながら、俺はそう呟く。
ここはカディア村がある国とはまた別の国に位置する有名な森林で、なんでも様々な香辛料に役立つ植物がいっぱい自生しているそうだ。
さて、そもそも何故こんな場所に来たのかだが。
実はこの前、試しにかき氷を作ってみたのだ。
魔法で生成した氷を粉々に砕き、せめて見た目だけでも前世で食べたかき氷に近づけていざ実食。
もちろんシロップ(もどき)もかけて、見てくれはかき氷その物だった。
結論から言うと、あんまり美味しくなかった。
決して不味かった訳では無い。
何の味もしないただの氷。
絶妙にシロップがマッチしておらず、
いや、当たり前と言えば当たり前なんだけどさ…………。
これには当然ながら皆も微妙な表情のオンパレード。
申し訳ねぇ。
おそらく問題はシロップだろう。
てか氷の方に問題があったらもはやお手上げだ。
………………いや、むしろ氷の割り方って線もあるのか。
そりゃザラザラよりフワフワの方が美味しいし……………って、今はそっちじゃない。
ともかく。
てな訳で、今日はこうしてわざわざ、かき氷に合うシロップの原材料になりうる果実or植物がないか遥々探しに来たのだ。
元々俺が作ったのは失敗して、練乳とべっこう飴の中間(?)みたいな味になってしまった。
そこに下手に果物の甘さが加わったもんだから、そりゃ美味しくないのは当たり前。
今度はちゃんとかき氷に合った果物の果汁を使って作りたい。
そう意気込んで森林に入ったのが約一時間前。
やはり有名なのは本当だったらしく、歩いている間にかなりの種類の植物や果実を目にした。
さっきなんかアイスクリームに使えそうな実も見つけた。
これは大きな収穫だ。
ついでに少し頂戴した。
まぁアイスクリームに関しては混ぜるのが大変だからな…………。
出来ればシロップの元になるやつを見つけてから帰りたい。
あ、そう言えばかき氷のシロップって全部同じ味らしいけど、あれって本当なの?
子供の頃、親にそれをネタバレされて儚い夢がぶち壊されたんだが。
本当だとしたら一体どんな原理なんだか…………。
正直言ってそこら辺は全然分からないので、適当に探す事にした。
何もそこまで再現する必要は無い。
大雑把でいいんだよ、大雑把で。
『ナハッ、ナハッ』
………………珍しい魔物(?)だな。
ガサッと背の高い草の隙間から、向こうの木漏れ日の降り注ぐ開けた空間を覗く。
そこには顔の部分に真っ赤なお花が咲いており、下半身は根と思われる土色の部分がうねうねと
毒々しい見た目の模様が付いた花の中心で、ガチガチと音を鳴らすのは尖った歯だ。
あれが顔…………か?
目が無いから判断しずらいな…………。
と言うか子供サイズになるとさすがにキモい。
トレントじゃないよね、あれは
〈鑑定〉によると、"フルーリー"という名前のれっきとした魔物らしい。
以下、〈鑑定〉結果だ。
見た目ほど強い訳でも気性が荒い訳でもなく、その枝に実った果実はとても美味しい。
スイーツのトッピングとしても大変有名である。
ただし─────。
俺の視線の向こうで、匂いに釣られたのか一匹のハエのような虫がフルーリーの花に止まった。
次の瞬間。
「あ」
バクッ!と勢いよく花が閉じ、モッチャモッチャと
その光景はとてもグロかった。
えー、〈鑑定〉によると、花に触れた瞬間にあんな感じで捕食されてしまうそうです。
しかも中で毒を撒いて相手を溶かしてから食べるそうだ。
ハエトリグサの上位互換だろあいつ。
うわぁ、凄く触りたくない。
今の見てなかったら余裕で取りに行ったのに…………。
枝に実った真っ赤な果実は目の前にある。
だがどうしても近づきたくない。
なぜなら俺は虫と同じくらいああいうのもダメだから。
ラフレシアとかもちょっと無理。
でも〈鑑定〉によると美味しいらしいし……………………ええいままよ!
倒しちゃダメだ。
フルーリーは倒された途端に毒(非致死性)を撒いて爆散するらしい。
見つからぬよう足音を殺しながら背後に回る。
足元の石をポイッと投げて音を立てると、フルーリーがそれに気を取られているうちに瞬時に果実をもぎ取り、目にも止まらぬ速度で再び草むらに隠れた。
ふぅ。
よし、とりあえず二つゲット。
「さてさて、どんな味なのかな…………って、これ生で食べて大丈夫か?」
世の中には生で食べると食中毒を起こしたり、最悪の場合、そのまま死に至る果実もあると聞く。
こんな場所で食中毒にはなりたくないな…………。
まぁたぶんならないとは思うけど。
耐性も胃の強度も人外なので。
とは言え一応、念の為にもう一度〈鑑定〉で詳細を調べる。
・"フルーリーの実"。
水分を多く含んだその果実はとても甘く、一部地域ではお菓子の材料として重宝されている。
ヘタに微量の毒があるため、食べる前に取らなければならない。
ふむ。
ヘタさえ取れば生でもいけるらしい。
最悪ヘタを食べたとしても死にはしないのか。
…………えっと、"数日間、耐え難い腹痛に苦しむ"…………………うん、やっぱり取っておこう。
毒が含まれているとは到底思えない鮮やかな緑色のヘタを取り、真っ赤な果実を水で洗い流してからガブリと一口。
「うっ………!?」
思わず声を上げてしまった。
不味かったのではない。
むしろめちゃくちゃ美味しかったのだ。
味的にはイチゴに近い。
少し酸味があるものの、それでも甘い果実は実に美味しい。
こりゃ確かにスイーツに使われるわ。
絶対イチゴと同じでケーキとかに合うもん。
生でも良いし、加熱したら酸味が飛ぶんじゃないかな。
ちょうどいいや、これかき氷のシロップに使おう。
ついでにちょっと多めに持って帰って、アイリスにジャムとかスイーツも作ってもらおっと。
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