第168話 ネイとガチンコ勝負(2)





俺の疑問はさておき、走りながら弓を構えたネイが三本の矢を撃ち、それぞれ別の方向へと飛んだ矢が曲がって三方向から俺を狙う。

続いてズザザッ、と体重を後ろにかけて勢いを殺し、突っ込む俺目掛けて弓を引いた。


俺が最初の三つを砕くと共にそれは放たれ、金色の軌跡を描きながらに突き刺さった。


次の瞬間。


カッ!と今までに見たことない閃光をともなって爆散し、俺の視界を光で染め上げる。

威力なんてほとんど無いに等しい、視界を奪うことだけに特化した目くらましの閃光弾。

見事に引っかかって目を瞑ってしまった。



「目が……目がぁ…………!ちょ、これ失明したりしないよね!?」

「マシロなら大丈夫よ。たぶん」

「たぶん!?」



真後ろから返ってきたセリフに色んな意味で驚愕を隠せない。

慌ててガードした腕におそらく蹴りと思われる一撃がヒットし、ビリビリととんでもない衝撃を伝える。


やっとこさ若干回復した目をうっすら開けて捉えたのは、なんと弓を片手にバリバリの体術を披露するネイ。

受けたままだった俺の右腕を絡めて引っ張り、顎を真上に蹴り上げる。



「おぶぅ!?」



な、なんて柔らかさだ…………。

いくら俺を掴んで支えにしているからと言って、まさか自力でほぼ真上に足を持ち上げられるとは。

柔軟性が化け物級だ。


…………………ただ、こういうのをやる時は自分の服装を省みた方が良いと思う。

今ネイが履いてるスカート、女子高生かってくらい短いよ?

そんなんで足振り上げたせいで水色のパンツ見えてたよ?

ありがとうございます。



「ま、まあネイの性格的に、こういうのやってそうなイメージはあるな」

「誰が暴力女よ」

「待ってそこまで言ってないそこまで言ってない」



さして怒っていそうではないものの、ナチュラルにチリッと鼻先を掠ったアッパーに背筋が冷える。

だが体術なら俺も得意だ。

回し蹴りを受け、一歩踏み込んでから軸足を引っ掛けてネイをクルっと空中で一回転。

構えた剣を上段から振り下ろす。


残念ながらそれは咄嗟とっさに放たれた光の矢によって相殺され、距離を取られてしまった。

バックステップから飛び出すのは一本の矢。

それが途中で四つに分裂した。

時間差で命中するように仕向けられた光の塊を走りながら全て弾き、俺は前へ前へと距離を詰める。


けれど。


ふとネイの弓が俺に向いていないのを見て動きを止めた。

上へ向いているのだ。

ピンと伸ばした腕で限界まで弓を引き、光の矢に膨大な魔力を蓄積させる。

魔力の波動が渦巻く。

明らかにヤバい気配しかしない。

天を見上げる蒼色の瞳と金髪が光を帯びる。


そして、放たれた。


ネイが指を離すと共に天高く撃ち上げられた矢を追って俺も空を見上げる。

二人の視線の先で。

絶大なる魔力を内包した矢が閃光を迸らせて拡散し、きらめく流星群となって地上に降り注ぐ。



「"閃光の流星群スパークル・メテオ"」



広範囲殲滅技。

まさにそんな言葉が似合う超ド級の威力、さらには攻撃範囲である。

たまらず〈魔法剣〉のスキルを発動。

時々、剣技スキルを交えながら次から次へと迫る流星群を斬り裂く。


土煙が凄い。

視界が遮られるせいで余計にさばき辛い。

その上。


ピリッと空気が張りつめ、向こうで発生した激しい魔力の渦が土煙を消し去った。

吹き荒れる暴風が頬を撫でる。

黄金のオーラを周囲に纏い、尋常ではない魔力の籠った矢を引き絞ったネイと俺の視線が交差した。

もはやあれは矢と言うよりもビームだ。


………………………あんなの当たったら洒落にならん。

流星群を上手く弾いてネイの方向に飛ばす。



「いっ!?」



しかし、例の黄金のオーラに飲まれてジュッと蒸発してしまった。

どれだけあそこの魔力の密度は濃いのだろうか。

正直、あんなのを人に撃とうとしている時点で色々と言いたい。


もしかして、ネイって俺のこと嫌い?



「どちらかと言うとそうかもね」

「泣くよ?」

「冗談よ。……………これ、私が使えるスキルの中で一番威力の高いやつだから。気をつけてね」

「いや待って気をつけるとか以前にこんなのぶっ放したr」



「〈エトワール・レイ〉」



無慈悲にも放たれた一筋の極光。

大地を削って迫る光の塊が視界を染め上げる。


あーもうやってくれたなネイめ!

さすがにこんなのを避ける訳には行かない。

さっさと腹を括った俺は足を前後に開いて重心を下ろし、右手は剣を水平に倒して肩の高さで引く。

反対に左手は前に突き出して狙いを定めた。


地を砕くほどの踏み込み。

逆半身になるまで右腕を突き出す。

ぶつかった極光を内側から喰い破るようにして翠色の剣閃を押し進め、トドメのひと押しで完全に光を拡散させた。

光は粒子となって淡く消える。



「…………………参ったわ、私の負け」



目の前でピタリと停止した切っ先を瞬き一つせずに見届けてから、ネイは目を伏せ弓を下ろして降参のポーズを取った。

勝負あり。

俺の勝ちだ。



「ふぅ…………最後のはちょっと焦ったぞ」



張り詰めていた空気を吐き出し、剣を鞘に戻しながら俺は悪態をつく。

けれど、ネイは見事なまでの呆れ顔である。



「焦ったって、そんな事言ってるくせに、まだマシロ全力出してなかったでしょ」

「それはお互い様じゃん」

「まぁそうね」



あれだけとんでも技を出しておいて、実は未だに"疾風"の二つ名が付いた所以ゆえんたる力、ないし技を使っていない。

つまりあれ以上の威力、または効果の奥の手をまだネイは隠し持っていると言う事だ。

改めて物凄い成長だと実感した。

まあまだ負ける気はありませんが。








その後、二人して村に降りた俺とネイはお疲れ様会と称して飲みまくった。

もちろんお酒を。

今回はちゃんと事前にノエルやアイリス達には連絡してあるので、時間的にはいつまで飲んでいても問題無いのである。


冒険者ギルドに隣接する酒場で、女将であるメアリーさんの手料理をさかなに思い出話に花を咲かせながらお酒を進める。

二人ともあんまり飲む量が多いもんだから若干注目を集めがちだったが。

途中からメアリーさんの娘のエマちゃんも交ぜて話は大いに盛り上がった。


エマちゃんはずいぶんと熱中して話を聞いてたな。

正直、エマちゃんの前で昔の恥ずかしい話を暴露された時には、恥ずかしすぎて死にたくなった。

メアリーさんも大爆笑してたし。

あの時だけは顔の赤みはお酒だけでなかったはず。






そして、散々飲みまくっていつの間にか日が傾き、空が夕焼けに染まった時刻。

伸びをしながら酒場から出たネイが、後ろの俺に振り向いて一言。



「私、また旅に出るわ」

「え、もう?少しゆっくりしてけば良いのに」

「やっぱり動いてないと性にあわないって言うか…………今度帰ってきたら、また飲みましょ」


「おう。で、次はどこ行くの?」

「ん〜…………ジパングかしらね。あそこは温泉が有名らしいし、ついでに入ってこようかしら」

「お、ジパングか。俺もこの前行ったぞ」

「そうなの?」


「ちょっと厄介事の最中だったけどね。でも温泉はすっごい気持ちよかった」

「へ〜。それは楽しみね」


「あ、お土産よろしく」

「ちゃっかりしてるわね……………。さすがに腐るから食べ物は無理よ?」



ネイが泊まっているらしい宿に送るまで、こんな他愛もない話をした。

なんやかんや言いつつ結局はお土産買ってくれるんだ…………。


村の真ん中より少し草原の反対側にある宿に着いた。

少し古めの木造建築二階建て。

これもまた村が作られた当時からある伝統の宿だ。



「じゃ、またね」

「おう。いってらっしゃい」







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