第167話 ネイとガチンコ勝負
「……………ったく、相変わらずお人好しねマシロ。さっきすれ違った子達、だいぶはしゃいでたわよ?」
「あ、ネイ」
入れ違いでやって来たのはなんとネイだった。
金色の美しい髪を揺らしながら、呆れたように細められた蒼眼で俺を見つめる。
久しぶりだな…………。
いつもの装備だからさっきまで出かけていたのだろうか。
背中には矢と矢筒がある。
実は数日前から村に滞在していたらしいのだが、どうもタイミングが合わず会える機会が中々無かった。
「ネイさん!お久しぶりです!」
「久しぶり。もうすっかり懐いちゃってるわね」
「えへへ…………」
俺の腕をギュッと抱くミリアにネイが笑顔を向ける。
ネイにはミリアが大変お世話になったと、あの戦いの後で聞いた。
しかし、その時にはもう旅立っておりお礼が言えず仕舞いだったのだ。
「サンキューな」
「良いって良いって、私達の仲でしょ。……………それより、私とも久しぶりに勝負しない?」
ネイにしては珍しい提案だった。
旅から帰って来てこの村に居る時は、基本的にゆっくりするか運動がてら適当なクエストを受けるだけだったのに。
「ネイと?まあ、全然良いけど…………昔みたいに惨敗したからって泣くなよ?」
「泣いてないから!あれは目に砂が入っただけだから………!!」
ネイは負けず嫌いだからなぁ…………。
昔は鍛錬に付き合って、ことある事に散々勝負した。
懐かしい。
ちなみに戦績は圧倒的なまでに俺の勝ち。
他の人達からは「大人気ねぇぞてめぇ!!」との野次を頂戴したが、なぜか意地でも負けたくなかった。
結果、ネイを泣かせるまでやってしまったのだが………………慌てたその隙をつかれて、顔面に一発盛大な拳を貰った。
嘘泣きじゃない。
ガチの涙を流してたのに、あんなにも綺麗な右ストレートが決まるとは…………。
あれだけは俺の完敗だった。
あと若気の至りであんな事やってマジすんませんでした。
皆の"大人気ねぇぞてめぇ!!"に関しては本当にぐぅの音も出ない。
さて、そんなほろ苦い(?)青春の思い出はさて置き。
ネイからの要望もあり、二人っきりで昔、鍛錬に明け暮れただだっ広い草原に移動した。
まだ先程の冗談を根に持っているのか、ぶつくさ文句を言いながら距離を取ったネイが、背中の弓を手に取ってこちらに向き直る。
俺もちゃんと【ストレージ】から黒剣を出して構えた。
今回は範囲の指定なんて無粋なものは無い。
どちらかが参ったと言うまでのガチンコ勝負。
さっき色々と言ったが、今のネイの実力は昔と違って俺の計り知れぬ域まで達している。
なにせSSランクだ。
最近は一切勝負してなかったから、百数年前までの戦い方しか知らないんだよね。
村にいる時に一緒にクエストを受けたりするが、その時は本気の戦闘に至るレベルの敵を相手にしていない。
正直、そんなのはあてにしない方が良いだろう。
この勝負どうなるか分からない。
「じゃ、早速始めるわよ」
「おうよ。かかってきな」
戦いの火蓋が切って落とされた───────瞬間に。
殺意マシマシの矢が瞬時に放たれ、俺の顔面を狙う。
スキル〈狙撃〉による援護があったとしても、ここまでの速度で速撃ちをしてくるなんて。
腕とか速すぎて、そこら辺の人が見たら霞んでるようにさえ感じたんじゃないだろうか。
すると、今度はこれまた一瞬で放たれた五本の矢が俺を襲う。
柄を両手で握り、剣技スキル〈クライス〉発動。
円を描くような軌道でそれらを全て弾く。
矢は拾わない限り消耗品だ。
矢筒に入れるのにも限度がある。
このまま受け続けていれば、やがて矢が無くなって簡単に勝つことが出来るだろう。
──────────だが、それはあくまでネイにそれ以上の手が無い場合の話に過ぎない。
当然、SSランクの冒険者がそこまで甘い訳がない。
しばらくお互いに動き回って矢を撃ち、それを受けていると。
ついに矢筒の矢が底をついた。
しかし。
それでも構わず弓を引くポーズを取るネイ。
通常ならこの状態から矢を放つなんて不可能だ。
だけどここは異世界。
ファンタジーな出来事はお手の物である。
ネイが俺を見据えた途端に一筋の閃光が
「なるほど、"魔法矢"みたいな感じか」
「正解。これ、私の魔力が尽きない限り永遠に生成できるから、頑張ってね」
「え゛」
えっと、確かネイの種族であるエルフ族って、魔力の総量が多かったりで有名だった気がするんですけど……………。
現状俺の知り合いのエルフ族を例に挙げると、分かりやすいのがアイリスとネイ。
特にアイリスは"魔女"と呼ばれる高位の存在になれるほどの魔力を持つ。
そのため、ネイも相当の魔力を保有しているはず。
あとエルフって魔力操作も上手いから、魔法使った時のロスが少ないんだよね。
それもまたエルフが魔法が得意と言われる
当たり前だが、ネイにとって魔力で弓を形取るなんて朝飯前。
よって実質的に手を出し尽くさせるのは不可能となった。
「ほら、どんどん行くわよ!」
再び金色の矢を形取った魔力で弓を引き、放つ。
バックステップで避けると、俺の代わりにそれが命中した地面が抉られて小さなクレーターになってしまった。
「ちょ!?」
「マシロにはこのくらいの方が良いでしょ」
「全然良くない!」
こうなったら接近戦に持ち込むしかないか。
こんな高威力で危ないやつ、さすがに自分のそばじゃ巻き添え喰らう可能性があるから使えないだろう。
そうと決まれば突撃あるのみ。
もう一度光の矢を弾き、ダンッ!と地面を蹴って前に進む。
「え!?」
なんとネイも前へ出た。
なんで!?
今、接近されて困るのはネイのはずだ。
近距離戦で言えば剣の方が扱いやすい………………と思う。
たぶん。
でも正直、ネイ程の実力者なら早撃ちの要領で喉元に矢を突きつけられなくもない。
だが遠距離で戦うに越したことはない。
それとも別に、近距離で戦える自信のある術があるのだろうか。
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