第166話 冒険者達が来た(2)
正面で武器を手に構えた四人の冒険者達。
まず、一番手前に居るのは若い剣士といった雰囲気の男性だ。
二十歳行くか行かないかくらいだろうか。
その後ろにはごつい野性味溢れる大剣使い、ローブをはためかせこれでもかと雰囲気を醸し出す魔法使いの男性、最後にこれまた若い
非常にバランスの取れた、いわゆるテンプレに添ったパーティだ。
しかも全員がAランクなだけあって、構えだけでも強いのがよく分かる。
なんて言うか、戦い慣れてるんだろうね。
「さて、ルールはこの円から出たら負け。一度出たら復活は無しって事で」
「はい!よろしくお願いします!」
いつも通り適当に描いた半径四、五メートル程の円を見回し、改めてルールを確認してから俺も剣を抜く。
わざわざこんなルールを決めた理由はいくつかあるのだが、一つはこうでもしないと疲れ果てるまで挑んでくる無茶な人が割と居たから。
後は単純に家の周りが広範囲にボコボコになると、元に戻すのが大変だからだ。
これならアドバイスしつつ適度な時間で終わらせられるしね。
………………あ、ちなみにこの剣はいつも使ってる黒剣じゃなくて、村の鍛冶屋で買った最安値の剣である。
作った張本人である店主はガラクタだなんだと言っていた。
まあ相手を怪我させないためには、むしろそれくらいの方が良い。
そういう訳で喜んで買わせて頂きました、っと。
アイリスの「始め!」の言葉と共に振り下ろされた腕を合図に、
「はっ!」
「やあ!」
先手必勝とばかりに連続攻撃を叩き込み、ジリジリと俺を線の方向に押し込んで行く。
ふむ、二人とも悪くない動きだな。
お互いのコンビネーションも抜群だし……………おっと。
二人の攻撃を捌きながら、ちらりと奥を見る。
「【ファイアカノン】!】」
守りに徹する大剣を担いだ男の横で、杖の先に火の玉を発生させた魔法使いの男がそれをこちらに向け、魔法を発動。
目の前の二人が避けると共に、レーザー砲のように放たれた炎が迫る。
ボボオオォッ!!
火の粉を散らしながら
明らかに見た目だけで高威力なのが分かる。
かっこいいなこの魔法。
俺の場合、ステータスに書いてあるとおり古代魔法を含むほとんどの魔法が使えるけど、欄には大きな括りで"古代魔法"、"各属性魔法"としか書いておらず、詳しい魔法の名前とかは一切書いてない。
だからこうやって見たり書籍で読んだ魔法を試してみないことには、実践で使えないのだ。
もし確認しないで適当に使った魔法が誤発したらとんでもない事になる。
もうちょっとこう、ステータス画面は親切にして欲しかった。
いちいち全部表示しなきゃ行けないのは面倒なので、気持ちは分からない事もないが。
ともかく、そんな俺の回想は露知らず、勝利を確信した冒険者達の表情が少し緩む。
まあ普通はここからどうにか出来るなんて思わないよな。
「よっ」
「「「「 !? 」」」」
剣を縦に振り下ろす。
次の瞬間、その延長線上にあった炎が両断され、螺旋が解けて火の粉と炎の糸を撒き散らしながら消滅した。
剣閃はそのまま魔法使いの男の前で途切れ、空気に溶ける。
冒険者達は全員、驚愕の表情で固まっていた。
まさかこんな事になるとは思ってもいなかったのだろう。
唖然とする剣士と
続いて真上から振り下ろされた大剣を受け流して、ちょんっと裏拳ではじき出す。
あ、やべ。
ちょっと強くやりすぎたか………?
「うぅ………なんてパワーだ……」
お、どうやら無事だったらしい。
見た目通り頑丈だな、あの人。
ふむふむと感心しつつ、振り返りざまに残り二人の一撃を受け止める。
ギリギリと二対一の鍔迫り合いが拮抗。
またもや驚きを隠せないといった表情の二人を押し返し、剣士の方はそのままもう一度剣で弾いて外へ。
二人ともちゃんと着地はできたものの、どちらも円の外であった。
これにて手合わせ終了。
「「「「ありがとうございました!」」」」
その後、いくつかアドバイスをしてから、若き冒険者達は感謝を述べて村の方へ帰って行った。
うーむ、今日の冒険者は中々強かったな。
将来が楽しみなパーティだねぇ…………。
「シロ様、ああいう人達って結構来るの?」
「時々ね。なぜかは知らないけど、割と"草原の剣聖"の名前が有名らしくてさ」
嘘です。
理由はたぶん知ってます。
ただ信じたくは無いけど。
………………前も言ったが、世界には俺こと"草原の剣聖"を崇め
念の為名前は伏せる。
その人達が派閥争いの末、あることない事を世間に風潮するもんだから、噂に尾びれが着きまくってこの状態を引き起こしている。
せめてここまで来た冒険者達の苦労を、水の泡にさせないであげる事が出来るのは幸いだ。
まだここら辺なら許せる。
しかしだ。
俺が女好きだとか色狂いだとか、もはやアンチ的なとんでもない噂を流した挙句、そのせいで時折、妖艶なお姉さんやら貴族からの縁談の話が舞い込んでくるようになったのは許さん。
毎回その度に皆の顔が怖いのなんのって…………。
相手の立場もあるだろうから、毎度断るのも心苦しいし。
実はこれに関してはごく一部の組織がやっているそうなのだが…………………お前ら暇か。
まあ最近はここに訪れた冒険者達の尽力のおかげもあって、割と悪い噂は聞かなくなった。
という訳で。
手合わせを願う冒険者達の来訪は定期的にある。
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