第162話 気持ち





閃光と共に爆ぜた爆風が頬を撫で、草木を揺らして周囲に駆け巡る。

集まった紅の光と魔力が渦巻き、光の粒子となって雪のように降り注いだ。

見ると、村の方では人々が何事かと空を見上げて粒子に触れ、子供達はまるで本当に雪が降ったかのように大騒ぎだ。




ーーーーーっ!!」


「!?」



不意に空からミリアの声が降ってきた。

ぎょっとして急いで視線を上げると、そこには太陽をバックに衣服をたなびかせ、満面の笑みで風に身を任せるミリアの姿。

思いっきり俺目がけて落下してる。


お、今日のパンツは白か…………………………って!

馬鹿な事言ってる場合か!

セルフツッコミを挟んでいる間にも刻一刻とミリアの体は地に近づいていく。




Q: 女の子が空から降ってきてます。どうする?



1、魔法で浮かばせる

2、避ける

3、打ち返す(!?)

4、受け止める



…………………………………4しかないだろ!

てかだいたい3って何!?

ミリアを野球ボールかなんかだと勘違いしてない!?


もはや思考が混乱しすぎて自分で自分が何考えてるか分からん。

いや、落ち着け俺。

俺ならこのくらいどうってことなく受け止められるはずだ。


深く考える間もなく両手を開き、寸分違わず胸に飛び込んできたミリアを抱きしめる。

が、予想以上の勢いにバランスを崩してしまい、二人して草原をゴロゴロ転がって仰向けの状態でやっと止まった。

何とか抱擁ほうようしたミリアの無事を確かめ、そのまま呆然と空を見上げる。

体に降り注ぐ太陽の光と風が心地よい。


いやー、まさかこんなにも大胆なダイブを見る事になるとは………………。



「………………私、やったわ。やっと、皆の仇を取れた」

「ああ。よく頑張ったよ」



胸板に顔を埋め、もごもごしたくぐもった声に、俺は頭をポンポン撫でて応える。

あ。

ついやっちゃったけど、これもしかして後で殴られるやつ…………?

い、いや、今回に関しては感動してなのかミリアから抱きついて来たし、不可抗力だよね、うん。



「……………修行、大変だったわ」

「まぁ強くなるためだから」

「そうね。でも、アレは忘れないわよ?」

「うっ…………ごめん、アレは少しはしゃいでしまったと言いますか………」



ミリアの言う"アレ"とは、〈無効貫通〉の練習中の事だ。

その時はまた模擬戦のような形式で、お互い体力が無くなるまで続けると言うサドンデス的な修行だった。

で、問題はそれが後半に差し掛かった辺り。

ミリアがあんまり上手く動くもんだから、つい俺も本気で相手したくなってしまった。

"久しぶりに強敵に出会った"みたいな感覚で熱くなっちゃったのよ…………。

後でしこたま怒られた。

「死ぬかと思ったじゃない!!」って。



「あ、忘れない事って言ったら、この前の本のやつもよね〜」



つい先週だか先々週、とある本が手に入った。

ずっと欲しかった本なだけあって、家に帰った途端めちゃくちゃはしゃいだのをよく覚えている。

すぐさま自室に引きこもって、アイリスに怒られるまでご飯も食べずに読んだっけ…………。


それからも、ミリアは次々に俺の恥ずかしいはnげふんげふん!

面白話などを上げて行く。



クロと大食いしてしばらく動けなくなったこと。

イナリとじゃれ合って、そのまま二人して水場に落下したこと。

ミリアが料理中に指を切ってしまい、大慌てしたこと。



「…………………あんたって、意外と子供っぽいわよね。二百歳なのに」

「やかましいわ。年はとっても心は永遠の十六歳なの」

「ふふっ、なにそれ」



ミリアはくすくすと声を殺してひたすら笑う。

う〜む、恥ずかしい。

まさかミリアが物理だけじゃなくて精神的な攻撃も心得てるなんて。

羞恥心で俺を引きこもらせる気かな?

そこそこダメージを受けた俺を置いて、ひとしきり笑い終えたミリアは。



「あはは!……………うん。やっぱり私、みたい」

「そうか────────────ん?え?」



今なんて言った?

聞き間違いだろうか。

思わず胸元の顔を見つめる。



「…………?何よ」

「え、いや、今……………」

「あら、聞こえてなかったのかしら?あんたを好きって言ったの」

「え…………………」




違った。

間違いなんかじゃなかった。

ミリアからそんな事を言わせる日が来ようとは、微塵も考えていなかった。

全くの予想だにしないセリフに、頭が一瞬だけ思考停止して動きを止めてしまう。

あまりにも顕著な反応を見てミリアはまたクスクス笑った。



「な、なんで………?」

「なんでって……………なんででしょうね。でも好きってそう言うものじゃないかしら。むしろ相手の好きな所を、聞かれた傍からすぐに言える方が凄いわ」



いやまあそりゃそうだけども。

ミリアは改めて上目遣いで俺の目をじっと見つめる。

まるで蛇に睨まれた蛙のごとく、俺はその紅の瞳から目が離せない。



「この人とずっと一緒に居たい。もっと私を見て欲しい。これってもう恋でしょう?」

「えっと、まぁ人によると…………」

「…………………あんた、こういう時くらい空気読みなさいよ」

「…………………すまん、驚きすぎてまともな反応が出来なかった」



自分でも今のは無いわ〜、って思う。

何が"人による"だよ素直に頷けば良いものを。



「"まさかミリアが俺を好きになるなんて"、って顔してるわね」

「まあね」



そりゃそうだ。

ミリアは度々俺を蹴ったり殴ったり………………文字にするとちょっとあれだが、実際は少し過激なツッコミとか合いの手なんだけどね。

とりあえず好きとはかけ離れた、むしろ嫌い方向だとさえ思っていた。


少なくとも出会ったばかりの頃は性欲の権化って思ってただろうし。

にも関わらずこの告白と来た。

今、俺の頭上には大量のハテナが浮かんでいる。

出来れば「説明プリーズ!!」と叫びたい。



「そうね、どうしたら信じてもらえるのかしら……………あ、良いこと思いついた」

「え?ちょ、なんで近づいてくrんむ!?」



ぽんと手を叩いて蠱惑こわく的な笑みを浮かべたミリアに嫌な予感がし、慌てて逃げようとするが時すでに遅し。


突然、キスされた。

しかも長い。

息が続かず地面をバンバン叩いてSOSを伝えるが、一向に離れる気配がない。



「────────ぷはっ!……はっ………はっ…………なん………!?」




危うく窒息死するとこだった…………っていや、そうじゃなくて!

力無く倒れる俺に馬乗りした状態で、ミリアはぺろりと唇を舐めて艶めかしく頬を赤らめる。



「これで分かってくれたかしら?あんたが好き。もちろん本気よ。たとえあんたが信じようが信じまいが、私のことを嫌いだとしても…………絶対に好きになってもらうわ。……………だから、覚悟してね♡」





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